ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (119ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103353126

感想・レビュー・書評

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  • 何気なく過ぎ去っていく景色、どうということもない思い出、ある時抱いた気持ち。
    そんな色んなものが重なり編まれ折り重なって自分がある。
    辛かった事、嫌だった事も丸抱えして愛おしむような感覚。
    滝口悠生色が一番強いんじゃないか。これが。

  •  良すぎ。100ページそこそこしかないのに、読んでいるうちに時間を認知するにあたっての速度がわからなくなる感覚があって、つまり今このくらい読んだからこのくらいの時間が経っているだろうという見当というか、読書をしていると慣れで解るのだが、その見当がつかなくなる。

     作品内でも言及されているジミヘンの「フィードバックによる持続的なノイズが、ギターを揺すったり放り投げたり火を点けることによって変化する」演奏(演奏というのか?)を、小説にするとこうなるんだなというか、滝口悠生が小説にするとこういうテーマ性を帯びるんだなと思った。上記「 」内で書いたジミヘンの演奏(演奏というのか?)は時間、というか、あるひとまとまりの時の流れみたいなものに対してループさせたり変化を与えたりということなんじゃないんですかと楽器に対するすべての知識を持たないまま考えるが、(あるひとまとまりの)時の流れみたいなものにアプローチするにつけ、小説の中で「回想」とそこにまとわりつく(ふたしかな)焦点/ボケというように表現したのは、ゴイゴイスーとしか言えないし、やはりこのようにたらたら書いてみて思うのは「ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス」というタイトルがこの小説にバッチリバッチリだなということです。

  • そこに、存在し得るとは、いかに曖昧なことか。そうだったかも知れないし、そうでなかったかも知れない。生きることのありとあらゆる可能性を探りながら、いまここにいる自分を肯定してくれる作品。

  • 気になっていたものの手を伸ばせずにいたところを芥川賞受賞と同時に読了。受賞作よりこちらの方が好きだった。ふわふわとつかみどころのないような不思議な文章で、時間の感覚が綺麗にほぐされていき、むき出しの感覚があらわになるような印象を受ける。最後まで読み切った時の爽やかな読後感が印象的だった。

  • 記憶というものの曖昧さをとことん追求した小説。昔のことやら何やらを思い出すときのあの何とも言えないぼやけた感じ、どことなく手探りの感じが、本当にうまく文章で表現されていると思った。
    思い出す、という行為を扱う以上、時系列が現在へ過去へ行ったり来たりするのだけれど、そういう実験小説にありがちな読み辛さはあまりなかったように思う。所々のエピソード(ジミヘンに憧れた主人公がとにかくギターを燃やしまくるとか!)が妙に人間臭くて笑えるからかな。

     過去から跳ね返ってくるのは、私がつくった過去ばかりで、そこにあったはずの私の知らないものたちは、過去に埋もれたままこちらに姿を見せない。思い出されるのは知っていることばかりで、思い出せば出すほど、記憶は硬く小さくなっていく。(109ページ)

    エピソードの合間、要所要所でこういう記憶の性質を語るような文章が挟まれる度、はっとさせられた。謎のウクレレ男が現れて、雨だというのに焚火をするのだと言う、狐につままれたようなラストも最高。
    芥川賞の選考会でも推す声があったらしく、受賞を逃したことが悔まれる。宮本輝は選評で、作中のバイク事故について「過去への追憶ではなく、現在に起こるなにかによって書いて欲しかった。(…)追憶でつないだことで凡庸になった気がして推せなかった。」と書いていたけれども、追憶でつなぐという業こそが素晴らしいんじゃないか、と思った。

著者プロフィール

滝口 悠生(たきぐち・ゆうしょう):小説家。1982年、東京都八丈島生まれ。埼玉県で育つ。2016年、「死んでいない者」で第154回芥川龍之介賞を受賞。主な著作に『寝相』『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』『茄子の輝き』『高架線』『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』『長い一日』『水平線』などがある。

「2024年 『さびしさについて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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