月まで三キロ

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103362128

感想・レビュー・書評

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  • はじめての作家さん
    文章が繊細。
    大袈裟はなくてジワジワ染み込む良質な短編は、それぞれいい感じです!

  • 気象学、地学、火山学、など、さまざまな「科学」のエッセンスと、人の心の機微がやさしく穏やかに描かれた短編集だ。

    かつては地球に裏も表も見せていたのに、現在は裏側を決して地球に見せない月。
    雪の結晶の形によって大気の状況がわかるということ。
    人間の体が多くの循環する水素で構成されていること。
    堆積する地層や岩石から、遥か昔の環境や火山の特性を読み取るということ。

    物語の中で語られる科学のかけらは、わかりやすく、ささやかだけれど、少し疲れたり倦んだりしてしまった登場人物たちの心に重なり、かすかな光となってその人生を照らす。

    どの短編も派手さはないけれど、じんわりと滲むような、いい話だった。

  • 初作家さんで、いい小説に出会えたなと嬉しくなりました。科学を修めた作者らしく、どの短編にもふんだんにその蘊蓄が出てくるのですが、全く堅苦しくも嫌味な感じでもなく、むしろその科学のお話が登場人物たちの心をほぐして、癒して、光を与える感じがとても不思議な印象でした。科学なんて無機質で割り切りの世界だと思っていたので、人の心情なんてふわふわしたものにこんなにうまく絡まっていくなんて。私もとても癒されました。この短編集はどれも心に残って、どれも一番よかったです。

  •  タイトル「月まで三キロ」にひかれて読了。
     静岡県浜松市天竜区の県道360号線に「月Tsuki 3km」の道路案内板は実際にあります。
     その道路案内板を素材にした「月まで三キロ」は、死に場所を探してタクシーに乗った男を運転手は山奥へと誘う物語、他5編の短編。

    「月まで三キロ」――― この先に「月に一番近い場所」があるんです。樹海を目指した男が、そこで見たものは? 「月は一年に三・八センチずつ、地球から離れていってるんですよ」。死に場所を探してタクシーに乗った男を、運転手は山奥へと誘う。

    「星六花」

    「アンモナイトの探し方」

    「天王寺ハイエイタス」

    「エイリアンの食堂」―――「実はわたし、一三八億年前に生まれたんだ」。妻を亡くした男が営む食堂で毎夜定食を頼む女性が、小学生の娘に伝えたかったこと。

    「山を刻む」―――「僕ら火山学者は、できるだけ細かく、山を刻むんです」。姑の誕生日に家を出て、ひとりで山に登った主婦。出会った研究者に触発され、ある決意をする。

    「さっきも言いましたけど、赤ん坊の月は、地球のそばにいるじゃないですか。幼いころは、無邪気にくるくる回って、いろんな顔を見せてくれる。うれしい顔、悲しい顔、すねた顔、楽しい顔、さびしい顔、全部です。でも、時が経つにつれて、だんだん地球から離れていって、あんまり回ってくれなくなって、とうとう地球には見せない顔を持つようになる。裏の悪い顔って意味じゃないですよ。親には見せてくれない一面っていうのかな。月の裏側みたいに」(35頁「月まで三キロ」)

    「私はそのとき思い知った。わかるための鍵は常に、わからないことの中にある。その鍵を見つけるためには、まず、何がわからないかを知らなければならない。つまり、わかるとわからないを、きちんとわけるんだ」(110頁「アンモナイトの探し方」)

    「科学に限らず、うまくいくことだけを選んでいけるほど、物事は単純ではない。まずは手を動かすことだ」(120頁「アンモナイトの探し方」)

    「山って、いいだろ」
     聴いた瞬間、わたしの足だけが止まった。
     山って、いいでしょ―――。
     その台詞を、わたしは言ったことがない。
     なぜわたしは、今まで一度も、あの子たちを山に連れてきてやらなかったのか。なぜわたしは、自分の人生を生きているところを、あの子たちに見せてやらなっかのか。なぜわたしは、二人の前で、押しつけがましいほどに山の魅力を語ってやらなかったのか。
     わたしの一番大きな失敗は、きっとそれなのだ―――。(248頁「山を刻む」)

  • ちょっと予想してた話しとは違いましたが、なかなか良いお話しでした。初期の道尾秀介の作品の様な、影があるどこか切ない話の短編集でした。
    上手くいかない人生に疲れた大人の話しで、初めは暗くなってしまいますが、そここら徐々に光が指してきて、何とか上手く行きそうな展開になって少しホッコリします。何とも微妙な切ない様な、ホッコリする様な6話でした。

  • 6編からなる短編集。各編の繋がりは特にない。ただ各編に共通しているのは天文学とか地質学、素粒子物理学とかいろんな科学の知識が絡んでいる。といってもそれが科学的な話なのかというとそうでもなく各話の主人公とそれに関わる人たちの生きてきた人生とうまく結びつきドラマが構成されている。特に科学知識がなくともすんなり話の中に入っていけそして温かい気持ちになれるそんな物語でした。どの話も好みの話で良かったです。初読みの作家さんでしたが他の作品も読んでみたいと思いました。

  • 6つの短編集、どれも良かった。
    主人公が抱えている問題や悩みに、科学が寄り添っていた。
    天文学、気象学、地質学、気候学、素粒子物理学、火山学。
    知らないことを調べたり、自分の視野が広がっていくのがうれしい!

    「アンモナイトの探し方」
    中学受験する6年生の男の子が主人公のお話。
    「わかるための鍵は、常にわからないことの中にある。その鍵を見つけるためには、まず何がわからないかを知らなければならない。」

  • 初めての作家さんなので、どうかな〜と思っていたのですが、とても良かったです!!
    生きてくのってしんどいこともあるけれど、人との偶然の出会いが糸口になることもあるよね、と思わせてくれる。壮大な宇宙との絡みもなんだかロマンがあって素敵でした。

    他の作品も読んでみようと思います。

  • いつの間にか、ここまで来てしまった。というような、誰もが日常でふと感じる「取り返しつかない感」 みたいなものを、視点を変えることで軽くさせてくれる。
    思わず引き込まれて、ほとんど一気読みしていた。
    その登場人物が、どの人も信頼出来る感じ。
    安心して読みながら、軽く涙してしまう――
    不思議な一冊だった。

  • 短編6編。
    どんでん返しや急展開があるでもない何気ない話。主人公の煮え切らない思いが最後には解消されていくストーリーに心暖かくなった。

    また、主人公が出会う地学の専門知識を有するキーパーソンの、自分の好きな分野にとことんのめりこんでいる姿は好きだ。
    職としている「天王寺ハイエイタス」や「星六花」もいいが、「エイリアン食堂」のようにもがきながらも夢を追い続ける人柄?は尊敬。

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著者プロフィール

1972年、大阪府生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。2010年、『お台場アイランドベイビー』で第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。19年、『月まで三キロ』で第38回新田次郎文学賞を受賞。20年刊の『八月の銀の雪』が第164回直木三十五賞候補、第34回山本周五郎賞候補となり、2021年本屋大賞で6位に入賞する。近著に『オオルリ流星群』がある。

「2023年 『東大に名探偵はいない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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