- Amazon.co.jp ・本 (122ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103370710
作品紹介・あらすじ
死を覚悟したのではなく、死を忘れた。そういう腹の決め方もあるのだ。果たしてこれは戦争だろうか。我々は誰と戦うでもなく、一人、また一人と倒れ、朽ちていく。これは戦争なのだ、呟きながら歩いた。これも戦争なのだ。しかしいくら呟いてみても、その言葉は私に沁みてこなかった──。34歳の新鋭が戦争を描き、全選考委員絶賛で決まった新潮新人賞受賞作にして芥川賞候補作となった話題作。
感想・レビュー・書評
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太平洋戦争のパプアニューギニアで負傷した一兵士の記録。
実際の戦闘シーンは多くありません。前半の多くは野戦病院。十分な医薬品もなく、戦傷や風土病などで亡くなっていく兵士たち。悲惨だけど、銃声もなく一時的な平和にどこか空白感が漂います。後半は長く悲惨な敗走シーン。敵兵に遭遇することも無く、ただ病気や飢餓で次々に路傍に打ち捨てられて行く兵士たち。
感情は動きます。しかし昂じない、激さない。どこか冷静。悲惨さを静かに受け入れ、淡々と描きます。その客観性が深く染み込んできます。
若い作家さんが、なぜ戦争をテーマにした作品を描いたのか。「反戦・平和主義」と言った思想性では無さそうです。たまたま知った戦争の悲惨に興味を持ち、それを表現したものだと思います。
読み応えたっぷりの中編でした。
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太平洋戦争での日本兵の戦没者・約230万人のうち、一説では6割ほどが病気や餓死などの戦病死と言われています。充分な食料も持たずに遠征。補給線も貧弱で食料は現地調達。反撃を受け侵攻に失敗すると食糧不足に陥る。直接的な餓死だけでなく、食料不足から体力が低下したための発症・病死が多い。
さらに言えば。。。
民間人(110万人)を含めた死者数は日本全体で310万人。これに対し日本軍占領下のインドネシアでは、飢饉と強制労働によって約400万人が死亡したそうです(国際連合の報告)。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
良かった。
故郷の日本から遠く離れた場所で、死んでいく様子が妙にリアルに伝わってくる。 -
[これは戦争なのだ、これも戦争なのだ]そしてこれが戦争なのだと思う。あの時の日本軍の戦争なんだ…。実際に戦って亡くなった人よりも餓死で亡くなった戦死者が6割にものぼるという現実。
一兵卒の目から淡々と紡がれた何かもかもが欠乏している戦地での有り様は戦うことよりも生きること生き残ることの惨たらしさをまざまざと見せつけてくる。
祖父は南方に出征しマラリアに罹って内地に送り返された。今にして思えばそれはとても幸運なことだったんだな。もっともっと話を聞いておけば良かった。 -
これはまさに戦争の地獄。内容としてはドンパチ戦うものではなく、戦いから弾かれてしまった軍人が気が狂うほどの状況をとてもリアルに描いている。
戦争映画なんかよりもとても生々しく、ここまでの描写を文字で表現できることに感心した。 -
読めば知ることも感じることもできるけれど、
実感したくはない世界のこと。
誰にもこんなことが起きて欲しくない。
淡々と読んでいたのに、最後閉じたら、涙が出ました。 -
淡々とした、ただ淡々とした、ある男の戦記。
派手な戦闘シーンはない。エンタメ的なストーリーもない。周りの男たちが一人また一人と怪我や病気で死んでいく日常の風景の描写が続く。
「果たしてこれは戦争だろうか」「これは戦争なのだ」「これも戦争なのだ」
感情を抑えた徹底した観察描写が効果的な小品。
戦争物としてはどうしても古処誠二さんと比べてしまうため見劣りがしてしまう。この作品に興味を持ったら、ぜひ古処さんの「接近」や「ルール」も読んで欲しい。 -
戦争ってなんなんだろう?使い古された言葉なのかもしれないが……この話には戦闘など殆ど出てこない。南方に出征された祖先の方々に心からの感謝と哀悼の意を表します。
日本軍は本当に人を大事にしなかった。葉書一枚でくる兵隊は馬よりも安いと言われた。悲しいけど日本人の本質がそこにある気がする。 -
あいみょんが薦めてた1冊。この物語には前線とはまた違った戦争が切り取られてました。
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2018
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文章も端正で、ストーリーの運びもリアル。戦後派の誰かが書いていれば、評判になるだろう。しかし、この作品を今書くこの作家が、信用ならない。まあ、読み手の感覚が古いのであって、書くということは虚構だというふうにいえば何を書いてもいいんだろう。
でもこれ嘘でしょ。そんな感想から逃れられないのは何故なんだろう。こう書いている、ぼくが古いのだろうか。