- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103555315
感想・レビュー・書評
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小説新潮2021年10月号帰ってきた、2022年1月号向こうがわ、11月号死んでくれ、7月号さざなみ、2023年1月号錆び刀、4月号幼なじみ、7月号半分、2022年4月号妾の子、の8つの短編を2024年2月新潮社刊。初の市井ものということで楽しみに読みました。皮肉な結果というか救いのないお話が多く、あまり共感できませんでした。唯一、妾の子に救いがありましたが、8編を合計すると気が滅入りました。
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市井物の時代短編集。8編「帰ってきた」「向こうがわ」「死んでくれ」「さざなみ」「錆び刀」「幼なじみ」「半分」「妾の子」
初期のどうしようもなく暗かった頃の藤沢周平を思い出します。
まあ、砂原さんご自身が「デビュー直後から藤沢周平への私淑を公言していた。」とおっしゃっているので影響を受けているのは間違い無いようです。
そうは言っても「焼き直し」ではありません。短編ながらストーリーのヒネリがやや強く、クルリと反転する感じは周平さんと少し違います。また、最後の一編を除き、主人公が闇に堕ちて行くところは似ていますが、その闇は初期の周平さんの様な漆黒ではなく、やや月明かりが差す闇の様です。
暗転ではなく、暗から明に転回する「妾の子」を最後に置き、少し晴れ晴れとした読後感になりました。 -
江戸情緒あふれる8つの短編。
以下ネタバレ
私の偏見は、時代物はたいていハッピーエンド
結果として不幸のようでも
心は解決している。
でもここの小説はそうとは限らないです。
意外な結末ということで面白かったのは
「錆び刀」「さざなみ」「幼なじみ」
”めでたしめでたし”では無いんですよね。
だいたい出版順にならんでいるのに、
ほんとうなら三番目にくるはず「妾の子」が最後なのは、
これが典型的な大団円だからではないでしょうか。
時代小説ファンはそういう終わり方が好きだから
余韻を良くして
次回へつなげていこうというのが
新潮社の思惑とみた。 -
江戸市井の短編集。
いい意味でも悪い意味でも余韻の残る話が多かった。 -
江戸下町の長屋に生きる訳ありの人々の姿を通して、人の心のうちにある昏い部分を描き出す8つの短編。
夫婦、幼馴染、親子、友達、好いた女、昔の男。共に長い時間を過ごしても互いに明かせない思いがある。好きな相手だからこそ言えない思い。相手を思うが故に苦しむ主人公たちのやるせない思いが伝わってくる。
どうにもならない思いを抱えながら、それでも食べて、生きていかなければならない切なさは今も昔もなんにも変わらないんだろうなぁとしみじみ。
どれもなかなかダークな物語だけど、それでも終わりに少しの希望が見える「半分」と「妾の子」に救われた。 -
「予想外の展開と結末を堪能できます」とあるが,個人的にはやりきれない結末が多い。
朝のラジオで紹介されていて読んでみたくなってジュンク堂書店で購入 -
「神山藩」シリーズの砂原さんが描く初の「市井もの」短編集。
「市井もの」と聞けば、長屋の住民同士の温かさやお節介ゆえのあれやこれやを連想しがちだが、さすが砂原さん。さほど単純ではない。
「人間」由来の表と裏、もっと言えば抗えない、拭い去れない、離れることができず纏わりつく性や業が描かれるやるせなさ満載の短編集。
本文178頁
「裏店で生まれたら、ずっと裏通りなんだよ」
世の中は平等であり、人は等しく頑張れば報われる善意の存在などという幻想でメディアは出来事を報じるが、本当はそんなんじゃない。「清貧」も勝手に作り出した幻想だ。
出自を選ぶことなどできない以上、スタートが違う。そのうえ能力も適性も異なるのに、皆同じ土俵だなんて思うから、炎上するし、嫉妬や羨望に満ちたヤフコメが生まれる。
人間が持つ温かみや懐の深さ、たおやかさが光を当てられる一方で、心の奥に潜む我欲、怒り、絶望、哀しみ、嫉妬、憎悪などはあってはならないものとされる。
根底にあるのは、人は居場所や寄るべ、安心して自分を委ねられる身の置き場を渇望している印象を持った。私も。
作者の砂原さんは自然や景色の移ろいの細やかな描写のなかに、人の持つ心の機微を映し出し、読み手に豊かな想像をゆだねる。
簡便で単純でわかりやすいものばかりがもてはやされる日常だが、生きることも人間も複雑極まりない。なかなか光の当たらない人間のそんな面を短編で決して露悪的にせず、善悪を排して豊かな日本語で作り上げる砂原さんへの期待が益々大きくなった1冊でした。 -
切ない短編のお話し。庶民のお話しは、こうなるのかな。