晴子情歌 下

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103784036

作品紹介・あらすじ

戦前から戦後へと続く母・晴子の回顧と独白は、彰之自身の記憶の呼び声となって波のごとく重なり、うねり合う。母はなぜこうも遠いのか。母とはいったい何者か。薄れゆく近代日本の記憶と、或る母子の肖像。

感想・レビュー・書評

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  • なんとか読了、母から息子への大量の書簡の形で昭和の歴史とともに家族の歴史が明らかになっていく。ところでタイトルの情歌とは誰から誰への思いの歌なのだろうか? この大正生まれの奉公から入った母の政治経済社会についての識見は高過ぎる 笑。息子の精神遍歴も腑に落ちなかった。
    表紙の青木繁の「海の幸」は息子の働く鰊場とリンクするけど福岡県民には馴染み深い絵なので親しみを持ちながら読み終えた。久しぶりに かなりの時間を要した。

  • とても読むのが大変だった。母親である晴子が息子の彰之にあてた手紙がすべて旧漢字で旧仮名使いなのも読みづらいし、活字の並び方や間隔までが読みづらい気がする。そして文章自体もすんなりと読み進んではいけない。大正から昭和初期、戦中戦後にかけての日本の地方の生活、人間、時代そのもの、一体この本の主となるものは何だったのだろう。晴子の両親は、津軽の中程度の自作農の生まれながら篤志家の援助で帝大に進学した父野口康夫と本郷で下宿屋を営むかっての薩摩の上級藩士一家の三女富子。外国語教師をしていた康夫は、夫が小説を書き文芸仲間が集まることに満足していた妻が早世し教師としても行動か沈黙かを迫られ、時代も徐々に共産主義や自由主義が排除されようとしていったとき、津軽に子どもたちと帰り自分は漁師として北海道に働きに行くことを選ぶ。この康夫の生き方はまだわかる。東京でインテリたちと思想云々を論じることよりも、故郷の両親や兄弟たちと同じように社会の最下層で体を動かして働くことを選んだ。自分の理想のために生きることを選び父親として子どものことをあまり考えていない人。北海道の鰊漁や番屋の生活が生き生きと書かれていると言う書評を読んだが、鰊に狂乱していた当時の様子とその過酷な労働が伝わる。さて晴子、津軽の農家の土間に東京から来た15歳の少女が母の口紅を塗り座っているのを想像するとずいぶん異質なものがそこにいたと感じる。この晴子の人生が軸なのだろうが、肝心のそれがどうにも中途半端な感じなのだ。晴子の手紙という形で本人が息子に自分の生涯を語るにはずいぶん赤裸々なようでいて何か肝心の部分が抜け落ちているような感じ。父親と鰊番屋に行くことを言い出したり、福沢で淳三が出征する際晴子を入籍することを条件に出したときそれにすんなりと従ったり、戦後の淳三とのあまり幸福そうではない生活に何があったか。福沢の男たちはみな晴子に対し特別な感情があったと言うが、その辺もわかりづらい。これはこの続編の「新リア王」を読めばわかるのだろうか。彭之にしても同じ。何故漁師として南洋や北洋に出て行ったのか、何故出家しようとしているのかわかるようでわからない。難しい小説だ。しかし、野辺地の家での生活は当時を髣髴とさせる。祭りがどれほど楽しみだったか、田植えの頃の喜び、地蔵に寄せる思い、そして静かな夜。鰊番屋の生活と同じく作者の丹念な取材を感じさせる。この小説はいろんなことをいっぺんに書こうとしてこんがらかってしまったのかもしれない。このほかに戦前の地方の大家の確執や昭和50年代の北洋のスケソウ漁や戦争末期のルソン島の悲惨な様子、三井三池闘争、東大紛争、章之の女性関係、いとこの遥との微妙な関係、それがグチャグチャとこんがらかって書かれている。作家があれもこれもと欲張りすぎたのではないだろうか。でもそのどれもが大切なモチーフならもう少し整理して書かれていればよかったのに。この本の中に「嵐が丘」や「アンナカレーニナ」や「伊藤静雄詩集」や「ジャン・クリストフ」が晴子や康夫や章之にとって重要な意味を持っているように出てくるが、そのどれも読んだことがなくあまりわからないのもこの小説がわからなかった理由だろうか。遥との関係は合田雄一郎と義兄を思い出させ、淳三の青い庭の絵は照柿を思い出す。 2006・2・1

  • ミステリーじゃない高村作品。
    あぁ。母親と息子って。親と子で男と女で、ぶっきらぼうで分かちがたく濃密な関係。母と娘のそれよりも濃くて複雑なのかも。上下巻合わせて730頁でつづる、屈折したマザコンの心の彷徨…という感じでしょうか。下巻最後のひと言に男の人にとっての母、を感じた。
    晴子という女性の生きざまと、息子の精神の行く末を、晴子が息子へ宛てた手紙と、手紙を読んだ息子の思考でたどる。心の居場所がないかのように海を漂泊する息子、流転した少女時代を吐露する母。自分はどこの者か、何者かを考えてさまよう。その不確かさとどこにも属さない自由。その一点でつながる親子なのかなーと思った。手紙は旧字体だし相変わらずのくどいぎりぎりの濃厚な文章。しかし、この構想、プロット。どうやったらこんなの書けるんだろう。上巻は家系図書きながら読んだけど、下巻にはちゃんと表示してあった(笑)海外文学の濃いの読み終わった感じ。

  • 1

  • 4-10-378403-2 356p 2002・5・30

  •  正直哲学的な部分があって難しかったけど、母子の人生が近代日本の歴史の中で翻弄される様には圧倒された。
     軍国主義が進む戦前の日本、すべての国民がなんらかの犠牲を払った戦中の日本、学生運動や労働闘争の嵐が吹き荒れた戦後の日本。主人公である彰之とその母である晴子、ふたりの周囲をとりかこむ数多くの登場人物。すべての人が日本の歴史の重荷を背負い、それを引きずりながらも懸命に生きている。その姿が本当に美しいと思った。

  • むずかしかった。1度読んだだけでは理解できない、かといって何度読んでも理解できる気がしない。
    晴子さん、ずいぶんと大人びた少女時代だったんだなあと。こんなことを延々と考える少女、周りの環境がそうさせたのかもしれない。その分歳をとった晴子さんには少し少女性というものが見えてきたのだけど。
    母と子という関係だけじゃなくて、女と男という関係もちょっと感じられて、そのいろんな関係性に混乱したのだけど、最後の彰之の言葉には胸を打たれた。お母さん、この話を読み終わろうとしたときに感じた深い余韻はなかなか忘れそうにない。
    福澤家の男性に振り回された晴子さん、っていうイメージがあったけど、実は晴子さんも晴子さんで振り回してたんだろうなあ。
    ストーリーはわりと地味な印象なんだけども、キャラクターはあいかわらず魅力的だった。晴子さんが淳三さんを迎えに行ったときの玄関先のシーンがすきだった。

    (732P ※上下巻)

  • 読み始めも読み終わりも
    「めんどくせぇぇぇ!!」と思った。

    イカの内部を言葉にしたような
    多種多様の感情を深海のごとく深く描いたような
    とにかく重くて湿度が高くて疲れた。

    晴子さんの人柄が、若干の救いなのかもしれない。
    美奈子の手紙にも大笑いさせてもらった。
    この部分の軽さがなかったら、挫折していただろうなと思う。

  • 最後の一行に辿り着くまでにどれだけの時間がかかったろう…。

    母は息子に宛てた数十通もの手紙の中で幾度も自分の人生やその時々の感情を思い出し、書いた後も幾度も反芻する。
    息子は母からの手紙を何十回と読み返し、母の感情の動きや見知らぬ人も含めた当時の人々の様子を想像し、自分の中に取り込み続ける。
    また、船上にいる息子は同じ船に乗る船員達とのやりとりと母の手紙を重ね合わせ、自分の半生を重ね合わせて考える。

    そして到った境地のなんと単純なこと。
    寂しいほどに清々しいこと。

    言葉では私も考えることはあるが、本当にはその境地にまだ到ったことはないように思う。
    この小説はただ最後の一行のために延々と言葉を費やして書かれたのだろう。
    なにかを悟るということはなんと紆余曲折を経なければならないことか。

    しかし、読了感は悪くない。

  • 2010/12/16完讀

    最近稍微輕鬆一點,可以來挑戰純文學。距離上卷已經有一大段時間了,其實我印象很模糊,還好搬家時找到上次畫的族譜,努力去拼湊上卷的記憶。

    兩卷其實是一個母親ー福澤(野口)晴子寫給出海兒子的信所構成。晴子信件的內容是用戰前日文所寫,鉅細靡遺地描寫自己的家族史、親戚還有自己的人生。信的部分非常地好看,我很喜歡讀晴子的信,也同時可以窺見大正和昭和的世相。

    另一方面中間穿插的則是兒子彰之在遠洋捕魚,一面閱讀信件,船上的甲板長足立則會和他聊自己以前在呂宋作戰的回憶。不過我難以理解彰之為什麼會那麼地漂泊不安,每次輪到他的部分我就很想睡覺,所以這本書我算是只讀懂一半,也只喜歡晴子的部分。

    接下來等有更完整的時間要接著看下兩部,希望能解決我這個問題。我想這本書是值得一再反覆閱讀的作品。

    (356page)

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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