生きる歓び

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 62
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103982036

作品紹介・あらすじ

死のぎりぎりの瀬戸際で「生」に目覚めた片目の捨て猫。その存在の輝きが見事に結晶した「生きる歓び」。故・田中小実昌との懐かしい交流をもとに、「死者」をめぐる回想と批評の混淆空間を開示する異色の追悼小説「小実昌さんのこと」。生の中の死を見つめ、死の中の生を描く二編。

感想・レビュー・書評

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  • 何か知らないけど前に読んだことがある「小実昌さんのこと」。
    なので今回は「生きる歓び」をメインに読んだ。わが家の猫がいなくなってしまった直後なので異様に響く文章があった。次の本は花ちゃんのことが書かれたのを選んでみる予定。

  • 保坂さんが奥さまと谷中にお墓まいりに行った時
    親猫に見捨てられ、風邪をひいて鼻がきかず
    弱って道で寝ていた猫を拾ってくる
    獣医さんに見せると、猫は片方の眼球がない
    鼻も効かず、両目も見えないので
    弱って、食事を与えても食べようとしないけど
    少しずつ、食事をとり健康を取り戻していく
    小さい、小さい、花ちゃんと名がついた猫
    「生きる」ということは、無条件のこと
    元気になって、いたずらをして、怒られている
    そんな花ちゃんは、今も元気かな

  • 産まれて間もない全盲かもしれない捨て猫!?野良猫!?の花ちゃん。
    もっと猫の話かと思ったのですが、猫のことを絡めた
    「生きている喜び」についての日記のようなソフトな哲学っぽい
    本でした。

    あとがきから花ちゃんは元気に生き延び、生きている喜びを
    つかむことが出来たことを知り、とりあえずは良かった。

  • 生きることの非哲学的考察を、
    うんうん、ふむふむと読ませてもらった。
    でもこれ小説なのか、保坂さんらしいけど。
    FVR には IFN がイイんじゃないかな。

  • 猫は苦手なので、感情移入できずにたんたんと読んだ。 「人間の思考はもともと「世界」というような抽象じゃなくて目の前にある事態に対処するように発達したからで、純粋な思考の力なんてたかが知れていてすぐに限界につきあたる。人間の思考力を推し進めるのは、自分が立ち合っている現実の全体から受け止めた感情の力なのだ。」ここは納得。 『小実昌さんのこと』にある「最近はバスであちこち歩いています」で、今から20年位前の出来事を思い出した。その頃の私の職場であったバスの案内所に田中小実昌氏がひょっこり現れたのでした。後ろには若いすらりとした女性が控えめに待たれていたのを鮮明に憶えています。小実昌氏はつるつるの頭にトレードマークの編み上げ帽子を被っていました。とてもかわいい感じでした。

  • 保坂の小説には「記憶」や「時間」というものに対する作者の思想?(哲学と言ってしまうことはできない)のようなものが淡々と書かれていて物語性は全くない。この『生きる歓び』という作品も、墓参りに行って子猫を拾って帰ってくるというただそれだけのことしか語られておらず、本書二作目の『小実昌さんのこと』は故田中小実昌と保坂の交流を延々と書いたものだが、本人があとがきで言っているようにエッセイではなくあくまでも小説らしい。
    保坂の考える作家というのは言葉に疑問を持つことのできる人間のことで、それ以外は皆ただの物語作家でしかない。いかにも小説的な、「その時、太郎は走っていた。」なんていう物語の書き出しを読むだけで嫌気が差すと彼は言う。保坂の作品の大半には猫が登場するのだけど、というより猫のことばかり書いているようにも思えるのだけれど、猫が何かの象徴であるとかメタファーだとか、時に私たちはそのような読み方をしてしまうのだが、保坂の作品をそのように読むことはとんだ勘違いなのである。彼の作品に描かれる猫というのはそこにいる猫のことであり、猫は猫でしかない。『生きる歓び』とは、拾ってきた子猫の「花ちゃん」は片目で瀕死の状態で、だけど必死に生きようとする前向きな力がどこからかやってきて、そんな子猫を育てていく過程で気付いた「生きる歓び」を描いたものだ。このタイトルがまた陳腐でありきたりな感じがするのだけれど、作者の思考がストレートに突き抜けた好感の持てる内容になっている。「生きることは素晴らしい」などと、単純に謳っているわけではないのである。
    “「生きている歓び」とか「生きている苦しみ」という言い方があるけれど、「生きることが歓び」なのだ。世界にあるものを「善悪」という尺度で計ることは「人間的」な発想だという考え方があって、軽々しく何でも「善悪」で分けてしまうことは相当うさん臭くて、この世界にあるものやこの世界で起きることを、「世界」の側を主体に置くかぎり簡単にいいとも悪いともうれしいとも苦しいとも言えないと思うけれど、そうではなくて、「生命」を主体に置いて考えるなら計ることは可能で、「生命」にとっては「生きる」ことはそのまま「歓び」であり「善」なのだ。”

  • 生きることを綴ったノンフィクション小説。
    弱った子猫の話と田中小実昌さんとの話。

    あとがきを読むまで、ずーっとエッセイだと思っていた私。
    なんでもない日常をつづる作家だと知ってはいたけど、あまりにも日記のようだったのでわかりにくかったです。
    読み返したら味が出てきそうだな。って

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著者プロフィール

1956年、山梨県に生まれる。小説家。早稲田大学政経学部卒業。1990年『プレーンソング』でデビュー。1993年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、1995年『この人の閾(いき)』で芥川賞、1997年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2018年『ハレルヤ』所収の「こことよそ」で川端康成文学賞を受賞。主な著書に、『生きる歓び』『カンバセイション・ピース』『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』ほか。

「2022年 『DEATHか裸(ら)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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