日本海軍400時間の証言: 軍令部・参謀たちが語った敗戦

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104056033

感想・レビュー・書評

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  • 編者名でもわかるとおり、こちらの本は「NHK スペシャル」で放映された番組のいわば編集後記のような本でした。  東京・原宿にある旧海軍将校のOB団体「水交会」で130回近く開催された日本海軍の中枢にいたエリートたちによる「反省会」のテープが出てきたところから話は始まります。  元大尉から中将まで、参加者はのべ40人。  「戦争の真実を語り残す」という目的のもと、「門外不出」を条件に、その会の様子のすべてが録音されていたとのこと。  

    日本では東京裁判の結果等から、「海軍善玉説」がまことしやかに語られてきたけれど、陸軍だけが糾弾された歴史にはどこか納得のいかないものを常々感じていた(但し、自分で色々調べてみて何らかの根拠があったからというわけではありません。  感覚的に『胡散臭い結論だよな』と思っていたにすぎません。)KiKi にとって、その海軍のお偉方(といっても本当の意味でのトップではなく、その直下にいた将校レベルですが)が仮にも「反省会」と名付けた会合で語られた内容に興味を持ち、図書館から借り出してきました。  

    読了して感じることは、タイトルから期待される日本海軍400時間の証言を題材にはしているし、その中から拾った証言そのものもかなり抜粋されて記載はされているものの、それを聞いた取材班面々の想いのような記述が多すぎるうえに、ある1つのトピックに対する反省会上での応酬といった部分の緊迫感のようなものは全く感じられず、正直なところ肩透かしを食らったような気分を持ったことをまずは記載しておきたいと思います。

    もちろん、録音テープだけでは証言内容を正確に把握することはできないので、証言を実証するためという意味もあって、NHK取材陣が公文書館や士官の遺族を回るという気が遠くなるような検証過程が描かれるのは、ある意味ではフェアなことなわけですが、どうしてもその苦労の中で生まれてきた「戦争を知らず、現代感覚で事象に向かった際に感じる取材班面々のある種の想い」が出てくるのはやむをえないこと・・・・とはいえ、それがこの大事な証言に向かった際に必ずしも是とすべきものなのかどうか、疑問を感じずにはいられませんでした。  そしてそんな彼らのバイアスを通した著述からだけ何かを感じるのは間違っているだろうという自制心を常に要求されたことによる疲労感が残る読書体験だったように思います。

    TV番組の編集という目的がある以上、やはりそこにある種のテーマが必要になってくるわけで、それを単なる受容者である KiKi がとやかく言える立場にはないことはわかっていても、どこかそのテーマ設定に薄っぺらい物を感じてしまいます。  末尾に記載されたプロフィールを拝見した限りでは番組の制作者たちはその大半が KiKi よりも年少の方々でした。  つまり、その親世代さえも「戦争を知らない」人たちで、彼ら自身は「戦争を知らない子供達」という言葉にさえも当てはまらないような人たちだったようです。  

    そうであるだけに最初に「自分たちは戦争を全然知らない」と本音を言い、その戦争における被害者にも加害者にもなりうるという視点でこの資料に向かい、いたずらに思想を論じるわけでもなく、個人を糾弾するものでも、賛嘆するものでもないという立ち位置をとったことには、ある種の称賛を送りたいと思います。  そして、かつての海軍士官たちの生の声から過去の事実を可能な限り抽出し、そこから現在に通じるものを見出し、未来へ生かすべき教訓は何なのか?を考えたというアプローチにも頷けるものが多々あります。  でも、その結果出てきた答えが「組織と個」というありがちなまとめ方に陥っている点はちょっとなぁ・・・・と感じずにはいられません。

    ただ、「あの戦争」から目を背けてきた1人である KiKi にとって、これまでまったく知らなかった(知ろうとさえしなかったというべきか?)出来事を知る(もしくは「ちゃんと知ろう」と思う)きっかけだけは間違いなく作ってくれました。

    1、「勝てない戦」であると知りながら何故、開戦に踏み切ったのか?
    2、「作戦に非ず」と言いながら何故「特攻」作戦は行われたのか?
    3、「極東軍事裁判(いわゆる東京裁判)」対応に見る海軍の裁判戦略。

    という大きな3つのポイントに関する中でのいくつかの証言は、物知らずの KiKi には「え~!!  そんな馬鹿な!!(もしくは、なるほどさもありなん。  でも、何とまあ酷い話!!)」と思わせるに十分な内容の話がいくつも出てきていました。  でも、その1つ1つであってさえも、どこか取材班のある種の思い込み、聞き違いがあるのではないかと疑いたい気分がぬぐえない読書でした。  だいたいにおいて、あるテーマを設定した場合、そのテーマに合致した内容の証言のみがピックアップされるのはこれはやむをえないことでもあるわけで・・・・・。

    そんなどこか消化不良気味な想いを解消するためにどうすべきか考えて調べてみるとどうやらこの本とは別にPHPからいわゆるテープ書き起しの本が出ているようです。  誰かのバイアスを避けたいなら本来そういう本を読むべきなんだろうから(いわゆる一次資料ということで)、では早速・・・・と思ったものの、Amazon で見るととにかく高い・・・・。  この番組の「オンデマンド放送」も観てみようかとも思ったけれど、何気にこの話にナレーションやらBGMがつくと、悪意なき感情操作にさらされそうで、二の足を踏みます。  歴史を知るってホント、難しいなぁとこの本を読んでつくづく感じました。

  • 【文章】
     読み易い
    【気付き】
     ★★★・・
    【ハマり】
     ★★★★・
    【共感度】
     ★★★・・

    太平洋戦争当時、海軍の中枢にいた将校たちによって、戦後密かに開かれていた反省会。
    それを録音したテープを元に綴られたドキュメンタリー。
    なぜ、勝てる見込みが無いと認識しつつも戦争を始めてしまったのか。
    なぜ、特攻という非道な攻撃が実行されたのか。
    現代日本の組織にも当てはまる問題点と教訓。

    海軍省…予算や、人事を司る海軍のバックオフィス
    軍令部…計画立案等、各艦隊に指令を出す海軍の頭脳

    ”海軍あって国家なし”
    「アジアの開放」や「自存自衛」という大義の為ではなく、
    クーデターを恐れ、海軍の体裁を保つ為に、開戦に踏み切った。

    ”やましき沈黙”
    流れに逆らうような自身の意見を持っていても、黙して周りの意見に合わせてしまう。

    戦後には、海軍の戦争責任を逃れる為の工作や、
    現場の責任者に罪を着せて、支持を出した側はしらを切るというような事が行われていた。

  • 歴史的に隠蔽されていたナマの情報を紐解き、現代でもいえる組織に内在する問題を提起。是非、DVDのドキュメンタリーも見てみたい。

  • ありがとうありました。

    「失敗の本質」と合わせてDVDも見たい。

  • TV放送は、結構自分にとってもショッキングな内容で、太平洋戦争のことは、色々本で読んだりしてわかっているつもりだったのだが、あらためて海軍がどういう役割を担っていたのかを再認識させられたものだった。
    もちろん悪い意味で。
    ところでこの本について言えば、TV放送の再構築ではなく、取材に至る記者の苦労話といった側面が強くて物足りない。
    論議はあると思うがTV放送を是非DVD化してもらいたい。

  • 当時の日本海軍の参謀が戦後行った「海軍反省会」の肉声テープが発見された。戦争中の海軍の中核メンバーが太平洋戦争開戦の理由や特攻作戦の立案事由などを追及している。海軍という巨大組織がどのように「開戦」に向かっていき、なぜその動きをとめられなかったのか、という点において参考になる発言も多い。海軍の参謀レベルなので、あくまでその範囲を越えていないが、戦前に至る長期、軍令部総長を務めた皇族である伏見宮博恭王の責任などについての言及は軍部と皇族の関係について問題提起を投げかけるもので興味深い。あれだけ巨大である海軍が十数名の参謀の作戦により動かされることも驚き(ある意味悲しみも含まれる)だが、その元参謀たちの発言の中には「あいつがあそこまでいうなら」というような、情実的な発言やコネクション、自分の部署での役割は果たしているから、他の部署のこと、大局的な流れに関しては無責任といったようなセクショナリズム(そして彼らの動きはそのまま国民生活、国民の生命に影響してしまったところに悲劇があると思う)の含まれる発言など、現代の組織論にも大きく影響・繋がる部分もあり、読み手の問題関心により様々な教示を受けることになる一冊だと感じた。

  • 反省会の証言の部分は面白かったが、取材の経緯やその他の部分がくどいのが難。

  • 一読の価値はある。いまもって当てはまる日本の組織の欠点や行き過ぎた仲間意識など。
    NHKの取材力はすごいけど、やや感傷的というか、ちょっと薄っぺらい感じの感想がおおかったのが、残念な点だった。
    もっと、反省会の抜き出しをしてくれればよかった。

著者プロフィール

長年「ひきこもり」をテーマに取材を続けてきたメンバーを中心とする、全国で広がる「ひきこもり死」の実態を調査・取材するプロジェクトチーム。2020年11月に放送されたNHKスペシャル「ある、ひきこもりの死 扉の向こうの家族」の制作およびドラマ「こもりびと」の取材を担当。中高年ひきこもりの実像を伝え、大きな反響を呼んだ。

「2021年 『NHKスペシャル ルポ 中高年ひきこもり 親亡き後の現実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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