伊福部昭・音楽家の誕生

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104096022

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  • 2月8日は伊福部昭氏の命日であります。
    あの衝撃の日から既に4年が経過しました。時蠅は矢を好む。
    本書の著者・木部与巴仁さんは、何としても伊福部昭といふ音楽家を本に書きたいと思ひ、本人へのインタビューをはじめ、さまざまな取材を活発に行つてきました。
    そして何と13年といふ歳月をかけて、1997年、漸く日の目を見たのが、この『伊福部昭 音楽家の誕生』なのです。
    400ページを越える堂堂たる評伝が完成したのであります。文字通りの労作。

    伊福部昭は、1914(大正3)年、北海道釧路に誕生します。
    少年期を十勝平野にある音更村といふところで過ごし、そこでアイヌの人たちと交流がありました。後年彼の創る音楽に影響を与へたに相違ありません。
    伊福部一家は、侵略者としてのシャモ(和人)に属するのですが、父利三氏(音更村村長)の人徳からか、アイヌ人から反感を買はずにすんださうです。

    後に進学のため札幌に出ますが、ここで『日本組曲』や『日本狂詩曲』を作曲してゐます。後者は、チェレプニン賞を受賞し、これが音楽活動のスタートとされてゐます。時に21歳。
    これらは、当時の音楽的常識を無視した作法なのださうです。それに関して本人の聞き書き中に、印象的な言葉があります。『日本組曲』の「七夕」といふ曲について次のやうに語ります。

    「当時、和声学の規則では、平行五度は駄目だということになっていまして。和声が完全五度のままで進むのは気持ち悪く聞こえる、音楽になってないというわけです。それなら、自分は全部平行五度で行ってやろうと思って書いたんです。
    北海道などで暮らしておりますと、自然の中で生きていくためには絶対まもらなければならない掟と、まあ、これは破ってもいいんじゃないかということの見境が、ずいぶん早くからつきます。平行五度を禁ずるというような、つまらない掟は守らない、ということです」

    これぞ大人の態度だと思ひます。その意味で昔の日本人は大人だつたのでせう。
    従前の音楽常識を打ち破り、注目を集めてゆくのです...

    ところで以前私は、伊福部氏のCDのほとんどを所持してゐました。ある日家に泥棒が入り、なぜかCDだけすべて盗まれてしまつたのです。900枚くらい。当然伊福部昭も含まれてゐました。
    PCとかデジカメとかはその他金目のものはそのままで、CDソフトだけ持つて行く変な泥棒でした。
    (後日、岐阜県大垣市の中古書店にて、それらが販売されてゐたのを発見して驚愕したのであります)
    伊福部昭のもので入手可能なものはまた買ひ直しましたが、すでに廃盤になつてゐるのも結構ありました。悔しくて仕方がないのであります。

    話がそれました。
    本書の帯には「この巨きな作曲家について無性に語りたい!」とあります。
    木部氏がその巨きさに挑み、四つに組んだ快作と申せませう。
    今後もし余人がまた伊福部評伝をものすることがあつても、出発点は本書になるでせう。
    では、ご無礼します。

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-101.html

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著者プロフィール

1958年4月27日愛媛県生まれ。書くこと、物語ること、演劇・映像表現に携わる。書籍・雑誌などの印刷媒体に執筆。1983年、伊福部昭をめぐるシンポジウム開催を経て、作曲家本人への取材を始める。逝去の翌年2007年より、作曲家・演奏家と共同で“詩と音楽を歌い、奏でる”「トロッタの会」をスタート。詩作・製作・詩唱(朗読)を務める。*著書『横尾忠則 365日の伝説』(95・新潮社)『伊福部昭 音楽家の誕生』(97・新潮社)『伊福部昭 タプカーラの彼方へ』(02・ボイジャー)『伊福部昭 時代を超えた音楽』(04・本の風景社)他

「2014年 『伊福部昭の音楽史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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