方舟を燃やす

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104346080

感想・レビュー・書評

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  • 1967年生まれの飛馬が小学生の頃に母を亡くし、父と兄と暮らしていた時代にはみんなノストラダムスの大予言を信じていて、コックリさんに夢中になったオカルトブーム真っ最中だった。
    東京の大学を卒業してからは公務員となり区役所に勤めたが、それまでに昭和から平成になり、震災ボランティアで高揚しては、妻の捨て台詞に価値観の相違で離婚。
    子ども食堂の手伝いをしている頃には、令和になりコロナ禍を経験する。

    一方で戦後すぐに生まれた不三子は、結婚後退職し専業主婦となり二人の子どもをマクロビオティックの食事で育て、ワクチンも打たせず神経質なほど気を遣ってきたが、娘は大学卒業後に就職もせず家を出て行き、息子も結婚してからは孫も連れて来ず疎遠になっていた。

    飛馬と不三子の様子が昭和から平成、令和へと続き、どこで繋がるのかと思っていたら…
    飛馬と不三子が出会ったのは、子ども食堂だった。


    時代の流れとともに共有できる部分が多いのは、同じ年代に生きてきたからかもしれない。

    飛馬と同じように小学生の頃はコックリさんをしたし、ノストラダムスの大予言も多少気にしてはいた。

    そして、不三子と同じように二人の子どもを育ててきたが、彼女ほど神経質だったわけでもなく、では無頓着だったのか?と考えてみたが自分では答えは出せない。
    多分、子どものほうが明確に判断するだろうが…。


    高度成長期の日本に育ち、数々の予測不能な震災や疫病を経験し、今もフェイクニュースやSNSに何を信じていいのかわからない不安さはこれからもあるのだと感じた。




  • 感情のひだをじっくりとなぞるように書かれた作品でした。時に共感し、時に嫌な過去と重なり、嫌な気持ちになりました。良くも悪くも心を揺さぶられる作品だと思います。
    本当の事を伝えることの難しさ、本当の事を知ることの難しさ、なんとも切なくなる作品でした。

  • 久しぶりの角田光代
    表紙の黒猫が不穏
    黒い帯も不穏
    最後まで不穏

    〈 予測不能な世界を生きる私たちに切実な問いを投げかける新たな代表作〉

    二人の主人公
    飛馬と不三子、その人生が交互に語られる
    そして、コロナ禍の子ども食堂で出会う
    年齢も環境も違う二人
    (子ども食堂で、今、ボランティアをしている私だけれど)

    時代に翻弄される様子は読んでいて辛い
    すべてリアルだけれど、不穏

    著者は何が語りたかったのだろう?
    今まさにこの時代を激写しているようにも思えるのだが
    なぜか私との隔たりを感じてしまう
    不三子と同世代なのだが

    何を信じて生きていけばいいのか
    示唆に富む言葉がたくさんあるけれど、
    ちょっと薄紙を張られているようで

    時間が流れ、特に解決もせず、読者に委ねられる

    ≪ 方舟は なかったほうが よかったか ≫

  • 角田光代の長篇小説『方舟を燃やす』待望の発売! | 株式会社新潮社のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001369.000047877.html

    【今週はこれを読め! エンタメ編】先の見えない今を生きる〜角田光代『方舟を燃やす』 - 高頭佐和子|WEB本の雑誌(2024年3月18日)
    https://www.webdoku.jp/newshz/takato/2024/03/18/115002.html

    ◆生きる確かさを求めて[評]重里徹也(聖徳大特任教授・文芸評論家)
    <書評>『方舟(はこぶね)を燃やす』角田光代 著:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/316793?rct=shohyo

    角田光代さん『方舟を燃やす』*PickUPインタビュー* | 小説丸(2024/02/20)
    https://shosetsu-maru.com/interviews/authors/quilala_pickup/186

    津田周平 - SHUHEI TSUDA ILLUSTRATION
    https://www.shuheitsuda.com/

    角田光代 『方舟を燃やす』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/434608/

  • 柳原飛馬と望月不三子。
    世代が異なる二人の1967年から2022年までの人生が描かれる。

    口裂け女の噂やノストラダムスの大予言、オウム真理教によるテロ事件等、デマで終わったものから実際に起きた事件まで絡めながら物語は進む。

    終始淡々と描かれている事で二人の人物が実在しているかのようなリアリティを感じた。

    病院内で入院患者が話していた内容を母の病状だと勘違いし、その後起きた悲劇により後悔に苛まれる飛馬。

    度を越した食への拘りが親子の亀裂に発展する不三子。

    闇雲に信じる事の危うさと、自身で考えぬく事の重要性を強く感じた。

  • 世代の違う男女2人の人生を時代とともに、1人称で語られていく。
    飛馬の年代に近いので、どうしても現実との対比をしてしまい同感と思うところもあるものの、なぜか違和感を抱きながらもどかしい気持ちで読んでいた。

    タイトルの意味を最後まで理解できず、消化不良のまま読了。また、違う時期に読めば印象も違うのかもしれない。

  • アナタは何を信じていますか?

    信じる事の強さと壊さ
    みんなそれぞれ信じるものがある
    宗教だったり信念だったりSNSだったり
    人によってどれも本当でどれも嘘になる

    昭和、平成、令和を生きた人達ならあの出来事全て覚えてるだろう
    そんな歴史的系列に沿いながら進む2人のお話にとても引き込まれた

  • 方舟を燃やす=自分が信じているものを手放すことなのではないかと思った。
    噂話やオカルト話に踊らされ、そんな話よりも斜め上を行く出来事が実際に起こって、強く信じていたことが正しかったのか、自分は何をしたいのか、どうしていきたいのか、わけがわからなくなってしまう現実が切り取られた作品だったと思う。

    自分の選択が正しかったのかは誰にもわからないし、時には後悔することもあるかもしれないけれど、それでも自分で考え決断することはやめたくないという感想を持った。
    方舟を燃やしても、本当に正しいと思うところに戻ってくるだろう。しかし自分が正しいと考えるものや信じていることは必ずしも自分以外の誰かとイコールではないから、行き過ぎてしまうと押しつけになってしまう。その辺の塩梅が本当に難しい。
    何かを結論づけようとしない結末はそういうところの表れのような気がした。

    ところで、昭和から現在の歴史ダイジェストでも読んでるみたいで、時には懐かしく、本質とは別のところでも読んでいて面白かった。

    • mominoriさん
      mikさんの感想 とてもしっくりきました。モヤモヤが晴れた感じです。
      mikさんの感想 とてもしっくりきました。モヤモヤが晴れた感じです。
      2024/05/19
    • mikさん
      > mominoriさん
      mominoriさんのコメントで人生相談ゴーストライターの飛馬の気持ちを味わえました!ありがとうございます!
      > mominoriさん
      mominoriさんのコメントで人生相談ゴーストライターの飛馬の気持ちを味わえました!ありがとうございます!
      2024/05/19
  • 何を信じて生きるか
    情報が多すぎて
    何を信じていいかわからない時代

    近々ではコロナワクチンを打つか
    様々な意見に左右され判断するのは難しい
    不三子の母が戦時中教師で、子供たちや婦女子に軍国主義を疑わず広め、多くの人を死なせてしまったことを後悔していたことを知り驚愕
    する







  • 1967年生まれの飛馬と、戦後すぐの生まれの不三子の二人の人生を通して、日本や日本人が経験してきた戦後から令和の現代までの出来事を描いている。

    特に不三子のキャラクターが、実に妄信的で、読んでいて痛々しくもあったのだが、彼女なりに信じてやってきた事がそうではないかもしれない、とわかった瞬間の心情が自分自身にも重なるところもあって、苦しくなった。

    私とあの人と何が違うんだろう。よかれと思ってやってきたことが否定された、という絶望に近い感情はよくわかる。

    戦後も令和の時代も、人間が抱く感情や行動心理はなにも変わっていないのだな…。

    自分はこれからどんな風に生きていけばいいのかな、と思いを巡らせた作品でした。




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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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