雨男、山男、豆をひく男

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (116ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104509010

作品紹介・あらすじ

言葉がすうっと胸にとどいてくる-窮屈なこころを揺り動かし、うつむいた顔を上げさせ、世界に新鮮な風を吹かせる強さと明るさ。男と女の確かな姿が、前を見据える力を与えてくれる。今、注目の女流詩人登場。

感想・レビュー・書評

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  • 男たちは急いでいた
    屋上から言える
    ことは
    限られていた
    雨を雨と名づける前に
    永遠に遅れていた

    雨がふりやんだとき
    樫の樹に
    なった氏は みぶるいした
    ふりそそぐ水滴が
    石英を目覚めさせる
    のも
    時間の問題だ

    山男はまた ふもとからバスにのり
    豆を挽きたいとおもう 
    あの香りをかぎたいとおもう
    そのあいだにも
    滴る汗が
    永遠の遅れと 過去の重みを
    千の錐にして あしもとの岩肌に
    スプーンで掬ったような
    なめらかな穴をあける

    かつて木蓮だった女が登ってくる
    花の出産を果たしに
    ふしくれだった 指をそ
    っと
    すべりこませた
    それが朝焼けを張りめぐらす
    鍵穴だとも知らず

    滝 しぶく
    胞子体が 無数の鈴となり

  • 生活には死が転がっていて、それは少しも気を遣った転がり方ではなく、時々思わぬ足の掛け方をする。
    それが光の降り注ぎ方で、また色を変えていく。
    静かな生活が詩になる。
    生活の中の思考が言葉へと変換されていく様子。
    心の上澄みから思考、そして言葉へと変換されていく、汲みかえられていく様子が、とても美しかった。
    タイトルになっている『豆をひく男』の詩が特に好きだった。
    終わりに流れていくにしたがって深くまで落ちてくるような気がした。

  • 冷たい時刻表の
    15
    そして
    25
    そのまわりに降り積もる
    時間のふかさ

  • 「棒」
    「言葉の溺死」。

  • とても整頓されている、と感じた。
    紙は白、書かれた文字は真っ黒より少し柔らかな黒。
    トランプみたいに、全部が違うけど、ひとつのものになっている。

    この詩集は、食器みたい。
    少しひんやりしているし、読むより観るためのものみたい。
    ことばでできていて、でも本当は景色でできている。
    景色といっても大きな景色ではなくて、山とかもなくて
    触れるくらいに近い、ひとりの人の景色でできている。

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著者プロフィール

小池 昌代(こいけ まさよ)
詩人、小説家。
1959年東京都江東区生まれ。
津田塾大学国際関係学科卒業。
詩集に『永遠に来ないバス』(現代詩花椿賞)、『もっとも官能的な部屋』(高見順賞)、『夜明け前十分』、『ババ、バサラ、サラバ』(小野十三郎賞)、『コルカタ』(萩原朔太郎賞)、『野笑 Noemi』、『赤牛と質量』など。
小説集に『感光生活』、『裁縫師』、『タタド』(表題作で川端康成文学賞)、『ことば汁』、『怪訝山』、『黒蜜』、『弦と響』、『自虐蒲団』、『悪事』、『厩橋』、『たまもの』(泉鏡花文学賞)、『幼年 水の町』、『影を歩く』、『かきがら』など。
エッセイ集に『屋上への誘惑』(講談社エッセイ賞)、『産屋』、『井戸の底に落ちた星』、『詩についての小さなスケッチ』、『黒雲の下で卵をあたためる』など。
絵本に『あの子 THAT BOY』など。
編者として詩のアンソロジー『通勤電車でよむ詩集』、『おめでとう』、『恋愛詩集』など。
『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集02』「百人一首」の現代語訳と解説、『ときめき百人一首』なども。

「2023年 『くたかけ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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