ばかもの

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (172ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104669035

感想・レビュー・書評

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  • 不真面目な大学生ヒデは年上の女、額子に夢中だったが、木に縛り付けられて下半身を露出した状態で放置されて関係は終わった。
    ヒデの大学の同級生、ネユキはデイトレードでお金を稼いで東京へ行った。ヒデが目黒を訪ねると彼女は宗教にのめり込んでいた。
    就職したヒデは教師をしている翔子と付き合うが、酒に溺れた彼は仕事も彼女も失い、ボロボロになってしまう。

    アルコールに依存する哀れな無職のヒデは偶然、額子の母親と再会する。入院して酒を断つことを決め、新たな一歩を踏み出す。
    酒を飲まなくなったヒデは額子と再会し、彼女が事故で左腕を失っていたことを知る。

    -----------------------------------------------

    ”俺はあらゆる人から軽蔑されることが怖い。両親に。ネユキや加藤に。いなくなった翔子に。額子に。そして額子の母親であるこのおばやんに軽蔑されたら、俺はまた死んではいけない理由を見落としてしまいそうだった。俺は何よりも軽蔑されることが怖くて、それ以上に自分で自分のことを軽蔑してきて、それなのに人から軽蔑されることを長い間、ずっとやってきたのだ。(P102より引用)”

    自分の知る、アルコールに溺れた人を思い出しながら読んだ。弱いから酒に逃げて、大きな声を出して暴れるどうしようもない人だった。
    間違いなく自分はその人のことを軽蔑していたし、あんなふうになりたくないと思いながら今も生きている。

    ただ、当時のあの人の年齢に近づくにつれて、あの人の気持ちが理解できないわけでもないことに気づいた。
    年を取り、思い通りにいかないあれこれはこの先も好転することはないとわかっている。けれど、行き場のないもどかしさみたいな気持ちをどうすることもできない。
    だから、あの人は酒を飲むしかなかったんだろうな。今だってあの人を許しているわけではないが、すこしくらいはわかる気がする。その程度だ。

    『ばかもの』のヒデは20代後半で酒に溺れ、仕事も彼女も失う。飲酒運転で逮捕までされる。それでも酒をやめることができない。
    かつての付き合った女の母親と再会することで、かっこわるい自分に気づき、再起を図る。

    かつて付き合った女は自分を受け入れて必要としてくれるが、かつての友人は甘いことを言うなと辛辣に言い放つ。友人の女は宗教にハマった挙句、逮捕されたらしい。
    色んな人がいて、それぞれヒデに対する対応は異なる。
    彼ら彼女らにはそれぞれ自分の人生があって、それはヒデの人生ではないからだ。

    アル中になったヒデを「馬鹿」と嘲笑う人はいくらでもいるだろう。けれど、じゃれあうような態度で「ばかもの」と言ってくれる人はそれほど多くはない。

  • 額子とヒデと、最悪の別れからそれぞれに波乱万丈な人生を送ってきたわけだけれど、アルコール、左腕、ラーメン屋、愛、一度失って、少しずつ取り戻すよう手を伸ばしていく、喪失と再生の物語でしょうか
    まだ傷の多い2人ですが、希望のあるラストに救われました
    「ばかもの」というタイトルは、叱責する言葉じゃなくて、愛のある睦言のように感じました

  • 読書開始日:2022年2月19日
    読書終了日:2022年2月20日
    所感
    大好きな作品になった。
    作中のラウンドアバウトが、しっかりハマっていた。
    ヒデのアル中へのきっかけのない変遷も、アル中を断つ踏ん切りがいつになってもつかないのも、気づけばどんどん堕ちていくのも、全てがリアルだった。
    一度ハマったアル中から逃れられず、慎ましやかに生きることのみを目標に過ごしていたヒデは、額子と会う機会を得る。
    迂回した2人は、ぎこちないながらも分かち合うものがあった。
    そしてヒデが額子のいる片品に通うようになってからは、あたたかい時間が続いた。
    依存症に対して、ただただ甘えさせることは正義ではない。依存症には、翔子のような優しさと、額子のような強さが両方必要だった。
    個人的には、ヒデがどんどん他者に尊敬の念を寄せていくところが、アル中からの少しずつの離脱を表していてとても良かった。

    ジューリンってどんな字だっけ
    やんごとなき
    くすくす笑いがネズミ花火のように身体中を駆け巡る
    俺はクズだ。だけどそれを誰にも言ってほしくない
    ネユキのメールを、差し出された一枚の清潔なハンカチのようだと思った
    こんな形で「明日」がきたのだ。また濁る
    切断部までしか神経はないのに、見えなくて触ることもできない、存在しない先端が痛むのだ
    なんでこんな陳腐な言葉で考えてるんだ?ただ単に興味
    おめー、ほんと強えな⇨甘えたい男が本当に欲しかった愛情
    痛快ってこういうことなのか、とヒデは思う
    片腕でなんでもこなす額子の強さが、俺の依存症を撃退する
    俺は迂回するだろう、俺は君を忘れないだろう
    片品に通うようになってからの怒涛
    ラウンドアバウト
    とてもかなわないという素直な尊敬の念が、依存症の克服を表す
    因業
    それだけ愛してて、尊敬してるってことだよ。尊敬できる相手と一緒にいられるのって、滅多にないよ

  • 10歳年上の額子に溺れた大学生活だったけれど
    2年余りで彼女は結婚するからとあっけなく捨てられたヒデ。

    社会人となり彼女もできて順調だったはずの生活が
    アルコール依存によって少しずつ崩れていった。

    支えてくれた彼女の翔子や友人の加藤への信頼を裏切ってしまい
    宗教にはまったユキノにも見捨てられ
    飲酒運転を起こしてやっと入院する決意をし
    退院する頃には自分のそばには誰もいなかったヒデ。

    偶然にも再会した額子の母との交流で
    片腕をなくした額子の近況を聞いていくうちに
    額子との再会と、バイトをしながら彼女の家に通う生活。

    年上の女にうつつを抜かしたり、アル中になって人生めちゃくちゃにしたり
    30代でバイトだし世間的に見たらダメなやつかもしれない。

    それでも好きな人と細やかだけど、悪態つきながらも一緒に生活できることは、その人にとって幸福なのかも。

    ほんとうに、ばかもの。

  • 129:これを書くのは苦しかったんじゃないだろうかと勝手に想像。登場人物たちの苦しみや葛藤を描写するのは本当にしんどいことだと思うのです。アラサーだとかアラフォーだとか、そんなくくりを軽々と飛び越える柔軟なヒデと額子が幸せであってほしい。

  • そこかしこに グンマー。

  • 『ばかもの』

    口は悪いし、酷いし、女としてどーなの、タイプなのに
    結局救われたね
    いや、主人公のアル中な描写は結構きつかったけれど、目を覚まして
    おばやんの元に行って改心出来たのは良かった
    『ばかもの』
    って無駄に言ってやりたくなった、この本読んだら

    でも木に縛り付けるとかちょっと普通じゃないと思うwどうかしてるw

  • 年上の女にハマり、捨てられ、堕ちてゆく男。
    堕ちるだけ堕ちた末に待っていたもの。
    あっちこっちが「容易じゃな」くて、どうしようもなくバカで人間臭くて、ついつい読まされてしまった。
    書名にもなっているセリフが、あたたかく響く。
    じわっと残るいい本だ。

  • 2014.8.20
    (174P)

  • お互い好き同士だと思っていてもそうじゃないことがある。
    すれ違いと言うより転落して終わっていくのも、ありがちな感動で終わらせない生々しさも良かった。

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著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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