学生を戦地へ送るには: 田辺元「悪魔の京大講義」を読む

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104752133

感想・レビュー・書評

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  • 2015年におこなわれた著者の講座の内容をまとめた本です。

    1939年に京都大学でおこなわれた田辺元の講演『歴史的現実』のテクスト全文を読み、著者が解説をおこなっています。ほかに、国策映画『敵機来襲』を鑑賞し、また柄谷行人の『帝国の構造』の一部を読むこともおこなわれています。また、講座参加者との質疑応答のやりとりも収録されていて、臨場感をあじわうことができるように思いました。

    哲学のテクストをていねいに読み解く講座を書籍化するという試みは、仲正昌樹がおこなっており、本書もそうした内容を期待していたのですが、仲正の本とはかなり異なる印象を受けます。

    著者は、田辺が『歴史的現実』の講義によって受講者である学生たちを戦争へと駆り立てていったと述べています。そのうえで、戦争の危機がしだいにせまりつつある現代において、こうした扇動に引っかからないための処方箋として、『歴史的現実』のテクストを読むという目的を語っています。そのためなのか著者の解釈は、『歴史的現実』のテクストに含まれているアジテーションとして有効な議論のしくみを暴くということにのみ向かっており、仲正の講義のように哲学のテクストの背後にあるさまざまな文脈をひとつずつ拾いあげるということには向かっていません。

    もちろん著者自身の専門のひとつである神学にかんする補足情報や、現代の国際政治の問題に通じるような観点が含まれていることを指摘するなど、多少テクストの重層的な意味についての考察がなされているところはあるものの、全体としてはやや単線的な議論になってしまっているように感じてしまいました。

  • 1939年京都大学(当時の京都帝国大学)において全6回で行なわれた田辺元の講義録「歴史的現実」(1940)を、現代の知の巨人(またの名を外務省のラスプーチン)佐藤優が二泊三日の合宿で読み解いた一冊。

    佐藤優が指摘する通り、時の構造や個人、種族、人類の構造を解いた部分は面白いのだが、その後に「どうせいつかは死ぬんだから、お国のために死んだら?」と説く部分は支離滅裂。佐藤優の議論のレベルもそれに合わせて、序中盤は充実していて「久しぶりに面白いリベラルアーツの本を読むなぁ」と思いながら読んでいたものだが、後半は軽薄過ぎてつまらず。柄谷行人パートも蛇足。

  • 田辺元をはじめとする”京都学派”の哲学者たちが、旧日本陸海軍の周辺国侵略を擁護する思想的な枠組みを提供したというのは、哲学の業界では結構常識である。本書はその代表的な文書を精読する短期講座をベースにしていて、日本の当時のエリート学生たちがどのようにして「国のために死ぬ」と教育されたかがわかりやすく学べたのはよかった。ただライブ感を出したいためか、横道にそれたところやジョークなどもそのまま収録しているため、読みづらいところも多いのは、ちょっと残念。また終盤の柄谷の著作の部分が尻切れトンボに終わったのも残念な印象が残った。

著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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