- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105058777
作品紹介・あらすじ
地球を憂う少年の心を、亡き母の愛が解き放つ。科学と情感が融合する傑作。パパ、この惑星に僕の居場所はないの? 地球外生命の可能性を探る研究者の男、その幼い息子は絶滅に瀕する動物たちの悲惨に寄り添い苦しんでいた。男は彼をある実験に参加させる。MRIの中で亡き母の面影に出会った少年は、驚くほどの聡明さを発揮し始め――現代科学の最前線から描かれる、21世紀の「アルジャーノン」。
感想・レビュー・書評
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読み終えて、シーオとロビンの中で太陽系外惑星がワクワクする場所であったように、地球がそう思える場所である未来に向かっていけると諦めずにいたい。繊細で優しすぎるロビンには、困難な現実や有害と思われる存在はひどく心痛めるものだったであろう。それでも諦めることなく常に進み続けたロビンにとって、せめてママのことをたくさん知れたことが救いになっていたら良いなと思う。
宇宙生物学者である父シーオ・バーン。亡き妻アリッサは弁護士で動物愛護家。9歳のロビンは精神が不安定だが絶滅危惧種を少しでも救いたいと心から願う。
脳科学研究はロビンにとって希望が持てる未来に繋がると思いたかったのだが、政治や感染症などの現実はとても大きな障害だった。現実は一方で守られる立場のものもいるのだろうが、バーン親子にとっては決してそうではなかったことがなかなかにやり切れなく感じる。科学が閉ざされてしまったシーオにもせめて何か救いが見つかって欲しいと思う。 -
動物保護活動家の母を早くに亡くし、宇宙生物学者の父親と二人暮らしの発達障害を抱える少年。
自然を愛する一方で学校生活になじめない中で、両親の科学者同士のつてから新しい精神療法を試していくことになる。
動植物や宇宙の星々を瑞々しく描写しつつ、知性と半知性、人と自然という中で描かれる親子の姿は、さながら作中の機能的磁器共鳴装置のように読者の感情を引き付けていく。
“他の皆がどこにいるのか突き止めることのできなかった惑星がかつてあった。その惑星は孤独が原因で滅びた。”と著者は書いている。
たぶん、惑星も地球も、そして少年だけでなく、すべての人が少しずつ孤独なんだろう。
僕は思わずくしゃみをした。 -
亡き母を想う子供と残された父親。息子に精神疾患の疑いが現れ、治療法として実験的な取り組みに関わることに。父と子の新たな生活、亡き母への想い、母から受け継いだ思想や考え、彷徨う二人に注ぐ微かな希望とその顛末。パワーズ作品史上、最も読みやすく情感的な作品。
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物語の世界に引き込む手腕はさすがパワーズ、夢中になって読んだけども、これまでの作品と比べてやや物足りなさを感じたかも。『オーバーストーリー』に連なる地球の将来を憂う主題と、小説としての完成度(より個人的な書き方をすれば、私がすぐれた小説に期待するもの)とが今回はうまく噛み合っていない気がした。その憂いの切実さはもちろん痛いほど(言い換えれば「物足りない」などと言う言葉を使うのに罪悪感を覚えるほど)わかるのだが。パワーズの文章は淡々としているようですごく凝っていて実はエモーショナルでそこが好きなんだけど、今回はその良さもさほど感じられず。ラストも、というかなんか全体的にストーリーに既視感あるし? とは言え、美しい装丁とともに、この父と子が過ごした時間と空間に時折ふと思いを馳せてしまうんだろうな。
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自分がいかに見て見ぬふりをしているか、自分がなにも知らずに生きているかを思い知らされる小説でした。
妥協せずに生き、あっけなく死亡したアリッサ・バーン。トレーニングを受けて覚醒していく天才少年ロビン・バーン。そして主人公のシオドア・バーン、2人にくらべたら凡人であるシーオは本当に私なのです。
説教くさくなく楽しい箇所もたくさんあります。
たとえばシーオとロビンが地球外生命体のいる惑星を探検するシーン。
ドヴァウ・ファラシャ・ペラゴス・ジェミナス・スタシス・クロマット・マイオス・ナイザー・シミリス・ジーニアにいる時、2人は平等でした。
物語の中で2人は2度グレートスモーキー山脈でキャンプをするためにウィスコンシン州からイリノイ州・インディアナ州・ケンタッキー州を経由してテネシー州へむかう。1度目は糞虫大統領(トランプ?)によって不安定なアメリカ社会を憂いながら肩寄せあって帰るのですが、2度目の帰りはシーオ1人のみの旅になってします。ロビンは絶望しかないこの世から脱出してしまったのかもしれない、父をこれ以上苦しめたくないという思いもあったと思います。 -
『21世紀のアルジャーノン』という帯の惹句、私は無い方がいいと思う。
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文学ラジオ第108回https://open.spotify.com/episode/6VoTFJnVfCY0ETkpU2zxfN?si=eda9484991a346b5
リチャード・パワーズは、おそらく、結構読みにくいという印象を持っている人がいると思うが、それに比べたら驚くほど読みやすい。かつ、テーマや要素が濃厚なので、ハードルが低いのに、めちゃくちゃ良いものが読めるという素晴らしい作品だと思う。
人間って何、地球って何、って考えさせられる小説なので、多くの人にとっておすすめ。
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