トゥルー・ストーリーズ

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105217082

作品紹介・あらすじ

「事実は小説よりも奇なり」と世に言うが、ふつう我々はこの格言を、いわば時おりの真実と受けとめているにすぎない。だがポール・オースターにとって、「事実は小説よりも奇なり」という格言は、決して単に「時おり」にとどまらない、もっと本質的な真実であるように思える。このエッセイ集は、そうした「現実」の不思議を扱ったエッセイが核になっている。また、比較的最近に書かれた、世界の悲惨に対する静かな悲しみをたたえた文章もいくつか見られる。たとえば「地下鉄」は、あの9月11日から一か月経った2001年10月11日、ニューヨークについて自分が愛するもののことを書こう、と思って書いたという。小説家オースターの隠れた側面をいくつか伝えてくれる大変に魅力的なエッセイ集である。

感想・レビュー・書評

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  • “真の無関心には力があることを私は学んだ。”(p.147)


    “天候ほど人々を平等にするものはない。天気は誰にも、どうすることもできない。天気は我々みなに同じように作用する。富める者も貧しい者も、黒人も白人も、健康な人も病める人も、天候はいっさい区別しない。私に雨が降るときはあなたにも雨が降るのだ。(中略)知らない人間と天気の話をするのは、握手して武器を脇へ置くことである。それは親善のしるしであり、私もあなたと同じ人間なんですと認めるメッセージである。”(p.228)

  • 米国の村上春樹ことポール・オースターのエッセイ集。人生や人生観まで似てるとは。村上春樹の短編集と言われて読んだら信じてしまいそうな気がする。
    オースターは原本でしか読んだこと無かったけど、柴田先生の訳文はリズムも流れも素晴らしい。今度、小説も訳文で読んでみるかな。

  • 何かを学ぼうとせずにする読書を(マンガ・映画はべつとして)し忘れて長くなってしまったときのリハビリに。

  • オースターのエッセイ

  • 「ほかに何を学ばなかったとしても、長い年月のなかで私もこれだけは学んだ。すなわち、ポケットに鉛筆があるなら、いつの日かそれを使いたい気持ちに駆られる可能性は大いにある。自分の子どもたちに好んで語るとおり、そうやって私は作家になったのである。 」

    八歳のころ、大リーグの試合に連れていってもらい、球場出口でウィリー・メイズにあった。サインを頼むと彼は「坊や鉛筆は持っているか?」と訊いた。持っていなかった。家族の誰も持っていなかった。「鉛筆がなくちゃサインしてやれんよ」と彼は球場を後にしたのだった。「その夜以来、私はどこへ行くにも鉛筆を持ち歩くようになった」と作家は書いている。二度と同じ目に遭いたくなかったからだ。冒頭の引用はそれに続く結びの文である。なるほど。

    愛読者なら、言わずと知れたことだが、オースターの作品には通常では考えられないほどの偶然が登場する。こうまで偶然が支配したら、いくらフィクションにしても話が嘘っぽくなる。普通の作家なら、そう考えてしまうところを、これでもかというくらいに偶然の出会いを連続使用する。「嘘のような本当の話」は現実に溢れているのに、「偶然の一致」を安手の仕掛けとして小説から排除してきた動きをオースターは批判する。

    たしかに、現実を注意深く観察していると、シンクロニシティを実感することがある。たとえば、一定期間集中して、ある作者の本ばかりを追うことがある。寝ても覚めても一人の作者ばかりを追いかけていると、ふと立ち寄った古本屋で、いくら探しても見つからなかった、その作者の本が書棚に並んでいるのを発見することがある。

    どうやらオースターの周りには、そんな話が集まってくるようだ。『トゥルー・ストーリーズ』は日本で編まれたエッセイ集である。内容は数章に分かれているが、そのうちの「赤いノートブック」と、「なぜ書くか」、「スイングしなけりゃ意味がない」、「事故報告」の四つが、その名の通り「嘘のような本当の話」を集めたエッセイ集になっている。

    作家の自伝風エッセイというかたちで書かれた「その日暮らし」は、作家オースターというものがどのようにして成立したのかを本人の声で聞けるという、ファンにとってこれ以上はないほどの贈り物である。これまでに書かれた小説の中で何度も使われてきたばらばらのピース状であった挿話が、しかるべき位置に収まり、完成した一枚の絵のように浮かび上がってくる。どのエピソードがどの小説に使われたかを判別できる楽しみが用意されているわけだ。

    「貧乏話をさせればオースターはいつだって最高だ」と、訳者もあとがきで書いているが、金銭の欠乏が理由で、食うに困る状態まで追いつめられる主人公には何度も会ってきた。どうしてそこまで自分を追い込むのだろうと思いながら読んできたが、次のような打ち明け話を聞かされると、やっぱりそうだったのか、と妙に納得してしまうのである。

    「私の問題は、二重生活を送る気がないということだった。働くなんて嫌だ、というのではない。けれども、九時五時の職について毎日タイムカードをパンチすると思うと全然やる気が出ず、何の熱意も湧いてこなかった。二十代前半当時、身を落着けるにはまだ若いと私は思っていたし、やりたいことはたくさんあるのだから、欲しくもなく必要でもない金を稼ぐなんて時間の無駄だと思っていた。金銭に関しては、とにかく食べていければそれでよかったのだ。」

    金がたまると船に乗って旧大陸を渡り歩いたようだ。若いオースターがジョイスの跡を追いながら、ダブリンの街を逍遥する姿はそのまま小説のようだ。様々な職についているが、そこで出会った著名人の逸話が読ませる。稀覯本商のところでカタログ作りを手伝っていたとき、ジョン・レノンがやってきて、「ハイ」と片手をつき出しながら「僕はジョン」と言ったのに、その手を握り返しながら「僕はポール」と名乗ったところなんか、まさに「嘘のような本当の話」である。

  • 真っ先に「事実は小説より奇なり」のフレーズが浮かんだ。
    我々が思うより遥か、世界は奇跡で一杯。思わず息飲むものから、ペーソス溢れるもの迄、今日もどこかで神様が悪戯。

    中盤挿話されてる「その日ぐらし」は少し息が詰まったから、星一つ減。

  • 本当のような嘘のような本当の話。人が生きることは不思議な縁とか運命とかいうものに随分彩られてるんだなあ、とつくづく感じた。
    流麗な文章だと思う。

  • なんて読みごたえあるエッセイ集!Is it TRUE?と聞きたくなる、事実とは思えない偶然の出来事の数々。作風に納得、そして見事に昇華させてくれて感謝。『ムーン・パレス』や『リヴァイアサン』面白かったもんなあ!
    それにしても全体から感じるのはポール・オースターはアメリカ人でなくニューヨーク人だってこと。

  • 旅みたい。

  • ほんまかい 小説よりも 奇奇奇奇奇

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