何かの折にハードカバーで購入し、そのままずっと10年以上、本棚の隅に放置していた本。長いこと手を出さなかった理由はただ一つ、分厚い。最終章まで550ページある。「さぁ読むぞ」という気合がないと、なかなか1ページ目を繰ることができない。
厚さそのものから言えば京極夏彦ほどではないが、京極夏彦は「妖怪」という確たるテーマがあり、そのうえ会話のやり取りで展開する場所が多いので、読んでてそこまで負荷は感じない。
一方で、この作品は9章それぞれに違うストーリーが展開していて、ごく普通(に見える)小説もあればSFのような話もあり、急にミステリになったかと思えば、数章前のミステリ調のストーリーの時に出てきた登場人物を使って今度は暴力と殺人をテーマにした章が始まる、という感じで、ストーリーとしての一貫性がない。ただ、読み終えてみると「この一貫性の無さが、この著者の強みであり、この著者がこの作品で出したかったストーリーなんだな」というのが分かる。
なので、端的に言うと「小説家が縦横無尽に張り巡らした妄想と言葉遊びによる混沌とした作品世界」を楽しみたい、そういうジャンルの作品を楽しめる、という人には向いているし、そういう雲を掴むような架空の中の虚構の世界を読んでると頭が痛くなる、という人は読まない方がいい、という作品。自分は後者なので、この本は合わなかった。