- Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105901103
感想・レビュー・書評
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人間を慈しみたくなる、名作。ありがとう!
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ゆっくりゆっくり読んだ。
たぶん私の今年のベストワン。 -
死者は生者が生きている限り、共に生き続けるのだろう。
静かな緊張が少し居心地悪く読みづらさがある反面、映像のような臨場感があり、香辛料の色やにおい、トリーガンジやロードアイランドの風景をそこに感じる。この圧倒的な描写に彼女の良さが凝縮されている。 -
まるで映画を見ているよう。視点を変えて繰り返し語られることによって、立体的になってくる場面場面。スローモーションのようでいて、二度とやり直しのきかない人生の厳しさがひしひしと伝わってくる。翻訳も相変わらずいい。ドライでもウェットでもない距離感が。
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激動の時代が背景だ。呑気に幸福であればいいという生き方(今の自分のように)を封じられた人生ということか。
たとえ小さい子供を抱えていても、自分なりの真理を追究したいと思う気持ちは自然だと思うし、気持ちが高じて子供や家庭の存在が疎ましく感じることもあると思う。これは現代に生きる人間の性として否定できないものだ。
男尊女卑、女性の人格否定が平然と存在する世界から、自由の国アメリカへ逃げ出すことができても、さらなる自由を目指し、行動に移してしまう。これも否定できない。ガウリの生き方も自己責任において肯定できる。
自分は、ウダヤンだろうか、スバシュだろうか、それともガウリだろうか。まちがいなく、ガウリだ。ウダヤンのように社会の変革のために身を投じる意志も覚悟もないし、スバシュのような懐の深さもない。
どうも自分は、暗めの、硬めの本をセレクトしてしまいがちだ。最近職場で嫌なこと(どうでもいい些細なことだ)があったことが重なり、この週末は気分も体調も落ち込み気味だ。このあたりで、痛快で気分の晴れるエンターテイメント小説でも読んでみたい。池井戸潤のシリーズをいくつか読んでみようかと思う。honto書店の「読みたい本」にもアップしている作品があったはずだ。 -
「停電の夜に」以来、気になっている作家のジュンパ・ラヒリさんの新作です。
今回は長編で、それも3世代にわたる物語です。とはいえ、重々しい年代記ではなく、もっと静かに物語が進んでいきます。ラヒリさんの作品に繰り返し現れる、集団の中での疎外感も描かれていて、それが物語にいい意味での緊張感を与えています。
期待していた作家が、期待以上の凄い作品を発表してくれて、なんだかうれしくなってしまいました。 -
この本は障害に何度か読み返すだろう。ほかのラヒリの作品と同じく。
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あとがきより。
「では、最新の『低地』はどうなのかというと、アメリカにわたる家族のドラマという点では従来の延長にあるのだが、それより前にインドにおいて家族の崩壊があったという意外な発端から話が始まる。ラヒリの作品世界が時間をリセットして、いままでの読者が知っていたラヒリ・ワールドの始まりよりも前に戻ったと言えるだろう。この最新作を着想したのは1997年だと著者自身が言っているので(サロン・ドット・コムとのインタビュー)なんと作家としてのデビュー以前から16年も温めていたことになる。」
「いままでに訳した四冊の中では、今回が最も吹っ切れた作品という感想を私は抱いている。読後感ならぬ訳後感というようなものだ。親世代から受け継いだ話の種を、大きく自由自在に育てている。ここまでくれば「翻訳家」の性質が薄らいで、もはや「フィクション・ライター」としか言いようがない。過去に取材をするくらいは作家としては当たり前で、たとえ親から仕入れたコルカタ産の種を使ったとしても、だからといって「インド系作家」というような分類をすることには、たいして意味がなくなったと思える。」
うん、確かに!
親と自分の人生をなぞる物語の延長線上にありつつも、創作的な部分が増したというか、フィクションとしての、小説としての読み応えがある。
現代の、家族の物語。
愛し合って結婚したのに、子が生まれる前に夫が殺される。
その兄と形だけの結婚をする。夫と娘をおいて一人家を出る。
娘は親を反面教師として結婚という形を選ばなかった。しかし娘を生む。
男が死んだり去ったりしても、女が生き残れば命の連鎖は続いていく。そのことに改めて思い至り、妙に感動した。 -
暫く新作の噂を聞いていなかったジュンパ・ラヒリの最新作。
インドとアメリカを舞台に、ある家族の破綻と再生を描いた本作には、政治運動がきっかけに命を落とした主人公の弟の影が色濃く漂っている。
作中では長い時間が描かれており、様々な問題が起こりながらも雰囲気は静謐で、非常にラヒリらしい作品となっている。
『訳者あとがき』で軽く触れられているラヒリ本人のインタビューも、この先の作家性を伺う意味で興味深い。是非読んでみたいのだが何処かで翻訳されることはあるのだろうか……。