貨幣進化論 (新潮選書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106036668

感想・レビュー・書評

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  • 分かりやすく書いてありそうでいて、結構難しかった。ただ、通貨の価値の本質が、「現代の貨幣のアンカーは政府の政府の財政的な能力そのもの」であり、「貨幣価値は国の経済力で決まる」ということは何となく分かった。また、「日本政府とは、世界的にみると異様なほどに恵まれた顧客基盤の上に胡座をかいている独占企業」だと言うことも。

  • 150329 中央図書館
    貨幣とは、自然利子率とは、金利とは(自然利子率とは異なる概念)などについて、とてもわかりやすい解説と歴史であった。

  •  歴史的に順を追って、貨幣制度の基本的な仕組みを解説してくれるので分かりやすかった。

     言ってしまえばただの紙切れ、金属片であるところの貨幣が「価値の乗り物」として機能しているのは何故なのか。金本位制時代を経て、目に見える実物財(金)との紐付きがされなくなった貨幣の価値を支えるものは何なのか。それは「政府の財政力に対する人びとの信頼」なのだということを改めて押えた上で、貨幣の今後を考える。

     マイナス金利と聞くとなんだか異常な感じがするけど、経済成長の停滞に合致した金融政策として、今後さらに増えるのかもしれない。

  • 2008年にこの著者が出した本は購入済み この本もそれに劣らずいい本です。今 私はお金ないので保留

  • 貨幣の本質とその歴史、そして現在の変動相場制における貨幣価値の考え方と、現在起きている問題点を整理していく本。今我々が使用している紙幣への信頼、政府への信頼と物価の関係、中央銀行の役割などが、著者の考え方・主張は織り交ぜられているものの、とてもシンプルかつ整合的に説明されていたと思う。ただ、2007年の信用危機以降の円相場の動き、特にアベノミクス以降の動きは、本書で説明されているロジックでは苦しい部分もあり、最近の著者の主張も追って確認しようと思った。(本書は2010/9刊)

  • ビットコインの騒動、欧州経済危機、アベノミクス、電子マネーの普及など通貨について考える機会が多い昨今、この本はその基本と本質をとても分かりやすく解説していてとても勉強になる。物語から通貨の誕生、市場の誕生を解説。そこから金融と財政の歴史について。最後に現在と未来についてと時系列で順を追って理解できる。経済について学ぶほど、生態系のような複雑な事象が潜んでいることを考えされられる。ミツバチダンスと生態系の多様性に結び付く結論に納得。

  • マイナス金利かハイパーインフレか

  •  本書は、「貨幣と通貨システム」についての本であるが、とても読みやすくわかりやすい。
     「貨幣」について「パンの木の物語」という架空の世界で表現した内容には驚いたが、なるほどこのように読むとその「原理」がわかる。
     「金本位制の旅」を読むと、現在当たり前のこととなっている「利子」などへの見方が時代とともに変化してきたこともわかるし、「金本位制」と1930年の大不況時代の経済政策なども理解しやすい。
     しかし、歴史では「ブロック経済」についてはその後に戦争を招いた悪しき政策のように教えていたと思うが、本書で読むその評価は「自由貿易の世界では財政による景気刺激を行っても効果の一部は他国に流出して・・・ブロック経済はそれを回避させる効果はあったのです。実際、ブロック経済と財政出動のセットを選択した国々は、ほぼその順番に景気を回復させることに成功しています」とあるのには驚いた。
     日本の戦後の高度成長についても、「空襲などに対して優先的に疎開保護されていた資本財生産設備はあまり被害を受けていない」と、興味深い指摘をしている。
     また、本書は2010年9月の発行だが、驚く程現在の「黒田日銀」下でのアベノミクスの現状を予見しているように思える。
     「おわりに-変化は突然やってくる」には、「いつしか私たちは日本の最大の問題はデフレだ、デフレの問題さえ解決すれば良い日が戻ってくる、そう思い込むようになってきています。今のデフレから抜け出しさえすれば次は穏やかなインフレになる・・・しかし別のもっと悪いシナリオに落ちてしまうことはないのでしょうか。・・・穏やかなインフレではなく、急激なインフレかもしれません」とは、恐ろしい予言ではないだろうか。
     「貨幣」や「金本位制」、「金融政策」やその歴史などは極めて専門性が強く、関心はあってもなかなか理解しにくいが、本書は、その専門的な内容をわかりやすく紹介していると高く評価したい。

  • ヘリコプタードロップ。ユースバルジ。フィリップス曲線の異変。シニョレッジ。銀行券は経済成長が定着して自然利子率がプラスの領域で安定するようになったとき、利子を稼げる国債に投資をして、それを利子ゼロの銀行券という形で人々に提供する、そうすることでシニョレッジを稼ぐ仕掛けとして歴史の中に登場した。

  • 日銀出身のビジネススクール(商学)教授の著者が
    貨幣の歴史をわかりやすく述べていく。

    私自身は正直、貨幣と通貨の意味の違いもあやふやな
    レベルなのだが、本書を読み進める上ではあんまり抵抗はなかった
    (いろいろと考え込むことはあったが、それは需要供給曲線の
     基本あたりもあやふやだからである・笑)。
    理解しやすかったのは、とりわけ第1章の、
    とある島を舞台にした、貨幣の進化の筋道をシミュレートした
    物語であろうか。
    なぜ貨幣が誕生し、どういう使い方をされ、どういう立場の
    人や機構がそれを成り立たせていくか、ということがわかりやすい。

    たとえば私たちはテレビがある世界に生まれ、それを観ることに
    なんの違和感も持たなくなってしまっているわけだが(仕組みを知らなくても
    テレビは見られる)
    同じことが貨幣についても成り立つ。
    なぜ、それが価値を持って、物と交換したり、保存して後で使えたり、
    あるいは尺度として成立したりするかを、知らなくても使えてしまう。
    だが、だからこそ、それに振り回されてしまうのではないかとも
    思ったりする。
    そもそも、人類が文明を作ってきた歴史の中でどういうところから発生し、
    なぜ機能しているかをある程度単純化したモデルとして理解することには
    それこそ自分の生き方を再定義するくらいの面白みがあると
    私は思えた。

    とりわけp.27で取り上げられている話は面白い。
    考古学者デニス・シュマント=ベッセラの説として、
    「文字はトークンから発達した。そのトークンとは、利己心の産物である
     取引の記録のために存在した。」
    というものがある、という話。
    著者が書いているが、芸術性、神聖性をもって扱う人間も多い
    この文字という産物が、実は利己心が成り立たせる取引経済の賜物という
    ことは、きっと文学愛好者たちは受け入れないだろう(笑)。
    でも、私はこれが真実のように思う。

    脳科学が明らかにするとおり、
    文字の読み書きなどというのは、「脳機能の間に合わせ」で対応している
    極めて後付の行為なのである。
    発声や言語は、それこそ現行人類の生まれた時点や、その前の人類たちの
    時代からずっとあったものだけれど、それを文字に結びつけた歴史は、
    1万年にも満たないとされる。
    とすると、これが、経済的な取引記録から生じたとすれば、時系列的な
    整合性はきわめてしっくりくるではないか!

    本書では、それ以降の章では、貨幣の歴史を大きな転換点を中心に
    取り上げていく。
    決して多すぎる分量ではないのに、ポイントを逃さずに伝えてくれている
    感じがして、大変わかりやすい。
    p.78で取り上げているアンガス・マディソンの世界経済史観の話は
    度肝を抜かれた。
    それはすなわち、紀元1世紀ごろから1800年くらいまで、1人あたり
    所得で見ると世界経済はまるで「成長していない」という分析である。
    私たちは今日、経済を「成長するもの/すべきもの」となんの疑問もなく
    捉えているが、そんなもんはたった200年程度の歴史しかないということになる。

    面白いのは、産業革命をどう捉えるかということである。
    一般的には、産業革命が急激な経済成長をもたらしたとされるが、
    著者が指摘するように、産業革命に関係ありそうな技術革新は、18世紀前半から
    たくさん登場しているのである。
    (あともっといえば、それまでの時代だって色々と技術の進歩はあったはずだ)
    だが、それと経済成長のタイミングは合っていない。

    ウィリアム・バーンスタインの説得力ある説として
    「私有財産権、科学的合理主義、資本市場、通信輸送手段の発達」の4条件が
    あるが、これが揃えば経済は成長するのかというと、
    反例としてバブル期以降の日本が挙げられるのでは、と著者は言う。
    確かに、これには納得する。
    この20年間で、とりわけ情報通信技術は爆発的に進歩・普及したことは
    間違いないのに、日本経済は停滞ないし下降傾向にある。
    いったいこれはどういうことだ?

    そこで著者が挙げるのは、資本提供者への利子配分の概念の浸透である。
    金融の発達、と言い換えてもいいかもしれない。
    これは、ニーアル・ファーガソンの「マネーの進化史」で述べられている
    ことにも合致するように思った。

    日本のバブル期までの経済成長や、そこからの停滞についても、
    金融の観点を取り入れてみると幾分納得がいく。
    今日のデフレ状況についても、「流動性の罠」にはまったこと…
    すなわち、未来への不安が投資や消費を控えさせる事態が起こり、
    金融が目詰まりしてしまったのだと。
    結局、経済は「みんながどう思って、どうふるまうか」の結果なのだと
    思わされる
    (著者は、経済を「賢い愚者のダンス」と表現している)。

    技術と経済の繋がりという点では、p.269-270に面白い指摘がある。

    「私たちを取り巻く基幹技術を作り上げている数々の原理の発見と
     考案の時期は、19世紀の終わりから20世紀初頭の数十年に集中している
     ように思うのは私だけではないでしょう。それに比べると、私たちが
     大技術進歩の時代だと思っている20世紀半ば以降の数十年に得られた
     原理は、どうも限られたもののようです。(中略)
     現代は応用の時代であっても、画期的な原理発見の時代ではなくなっている
     ようにも思えます。そうだとしたら、私たちが予想する貨幣の未来図の
     中には、いずれ来る成長屈折の可能性を織り込んでおいた方が
     良いのではないか。」

    これにはなるほどと思わされる。
    確かに、今私たちが使っている技術は、最近の大発見なんてものは
    ほとんどない。
    無論、自然科学の分野などでは発見もたくさん出ているけれど、
    製品化と呼べるような、経済活動に大きな影響をもたらすレベルでの
    浸透には至らないのではないだろうか。
    1800年以降の経済成長時代が、金融、社会制度と技術の発達が、
    部分的に起こり、重なった中で成立してきたものだとすれば、
    それらが停滞すれば、経済成長じたいが停滞すると考えるのは、
    理に適っている。

    今日の日本経済に話を絞って考えてみると、
    「成長論」を声高に叫ぶ人が多いけれど、対して「成熟社会論」も
    一定の支持を得ているように思う。
    著者の見方はどちらかというと後者であろう。

    日本は高齢化先進国(課題先進国)なんて言われ方もされるが、
    もしや経済成長の終わりという意味でも先進国なのかもしれない(笑)。

    鎖国が終わり明治維新からの拡大成長路線を世界最速で突っ走ってきた
    国が、その勢いそのままに、一気にその「成長の終わり」を迎えると
    すると、私自身は「おもしろいな」と思う。
    別に日本がなくなるわけではないのだ。ただ、「成長が終わる」。
    そういう仮説を持って、これからの日本や世界を眺めていきたいと思った。

    本書で主張されていることは、必ずしもすべて正しいとは思わないし、
    まぁそもそも経済学自体が「何が正しいか」などと言い切れるようなもの
    ではないだろうから、それでいい。
    生きる上での示唆が見いだせれば。

    ////////////////

    【目次】(「BOOK」データベースより)
    第1章 パンの木の島の物語(物語の始まり/貨幣という発明 ほか)
    第2章 金本位制への旅(利子は罪悪か/金貨から銀行券へ ほか)
    第3章 私たちの時代(ブレトンウッズの世界/私たちの時代)
    第4章 貨幣はどこに行く(統合のベクトルと離散のベクトル/貨幣はどこに行く)
    おわりにー変化は突然やってくる

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著者プロフィール

早稲田大学大学院経営管理研究科教授
1974 年東京大学経済学部卒業。日本銀行に入行し、主として金融制度全般の企画調整を担当。ニューヨーク駐在員、金融研究所などを経て、1998 年から早稲田大学教授。国際会計基準委員会委員や政府の各種委員会の座長や委員を歴任。

「2020年 『ポストコロナの資本主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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