社会思想としてのクラシック音楽 (新潮選書)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106038679

作品紹介・あらすじ

バッハからショスタコーヴィチまで音楽を通して政治と経済を学ぶ。近代の歩みは音楽が雄弁に語っている。バッハは誰に向けて曲を書き、どうやって収入を得たのか。ハイドンの曲が徐々にオペラ化し、モーツァルトがパトロンを失ってから傑作を連発したのはなぜか。ショスタコーヴィチは独裁体制下でいかにして名曲を生み出したのか。音楽と政治経済の深い結びつきを、社会科学の視点で描く。

感想・レビュー・書評

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  • 社会体制、また同時代の社会史、経済から音楽作品を論じている。
    ただその立場に徹していないエッセイか評論風の箇所もあるのが難。

  • 1300

  • ・技術進歩がもたらす平等化(153)
    ・「オリジナル」あるいは「ホンモノ(authenticity)」とは何か(161)

  • 18世紀以降のクラシック音楽の歴史的変遷を、同時代の社会思想や政治経済の視点から考察。音楽芸術という「創造の世界」が持つ、社会的意味を捉え直す。

    西欧では18世紀末まで、音楽家は教会や貴族の注文に応じて作品を作っていた。その後、デモクラシーと市場経済が社会の基本制度となり、キリスト教の重みが失われ始めると、音楽も教会から劇場へと、その創作目的や演奏場所を移した。

    教会から劇場へと移行する際、音楽が両者の間を彷徨っていた期間があった。このことを示すものに、ハイドンが晩年に作ったミサ曲がある。それらの曲から受ける感動は、宗教的なものなのか、劇場的なものなのか、戸惑いを覚えさせる。

    音楽で起きた歴史的な変化は、絵画の世界でも起こった。西洋絵画では宗教画が大きなウエイトを占めていたが、18世紀になると、普通の人々の生活や風景を描く画家が増え始めた。

    19世紀には、ロマン主義が芸術の主流となった。それは、自由な「個」の強調と「条件の平等化」を中核とする近代デモクラシーの進展と、軌を一にしながら展開した。

    哲学者のオルテガ・イ・ガセットは、デモクラシーの「個の自律と平等」を尊重する思想が、芸術においては形式よりも内容を重視し、人と自然への抒情に重きを置くロマン主義という形で現れたと見ている。

    中産階級が富を蓄え、劇場に通う時代になると、音楽の聴き手に2つの相反する気持ちが生まれた。1つは、自分はこの芸術が理解できるのだという「少数派」であることの誇り。もう1つは、デモクラティックな社会の原理に忠実に「多数」へと向かい、流行に順応しようとする気持ちである。

  • 東2法経図・6F開架:762.3A/I56s//K

  • 経済思想などを専門とする著者による,社会思想から見た音楽についての蘊蓄本。

  • 2021年8月号

  • ・音楽の「ナショナリスティック化」の部分の記述の物足りなさ。
    ・音楽と社会思想の関連を普遍的に捉えると宣言しているが、音楽の中のナショナリズム高揚の辺りからチェコばかりに注目していて普遍性がない。限定的にも程がある。

  • テーマとしては面白いが、少々わかりにくかった。まだ自分の理解不足か。それとも著者の説明不足か。また次の著作を期待

  • 音楽は社会とどのような関わり合いを持っているのか?音楽はどのように社会を形づくり、また社会によってどのように形づくられるのか?この問いを、さまざまな角度から検証し、そこから見えてくる思想の歴史を解き明かしてくれる、とても興味深い本だった。

    筆者は経済学者ではあるが、政治学など社会科学全般に関する歴史や学問のあり方に関する著作もあり、そのような幅広い視点が生かされた本であると感じた。また、長らくの音楽ファンでもあるとのことで、筆者自身がクラシック音楽を通じて18世紀から20世紀前半の歴史や社会を振り返るという形にもなっている。

    芸術作品としての音楽のあり方は時代ごとにさまざまな変遷があり、音楽家の地位や音楽の受容のされ方もまた、移り変わってきた。

    本書の中では、音楽家が誰に向かって音楽を書いたのか、音楽家が表現しようとしたのは神への祈りという個人を超越したものなのかそれとも個人の感情に根差したものなのか、といった問いについて、歴史を振り返りながらその変化の跡を追っている。

    また、国家、国民、民族といったいろいろな形で表れてくるナショナリズムと音楽の関わり、音楽家と技術進歩、音楽家とパトロンとの関係性など、社会、経済的な変化によっても、その時代に生み出されてくる音楽に変化が表れてきたことが、描かれている。

    特に興味深かったのが、本書の各章を通じて出てくる、アダム・スミスやトクヴィルが語っている、市場経済化やデモクラシーの進展と、音楽との関わりである。

    これらの現象は、音楽の受け手としての「個人」や「市民」の登場を促した。また、作り手の側も、職人として神に仕えるといった意識から、音楽を通じて個人の感情を揺さぶったり、個人の共感をベースにした表現を模索する方向へと変化していった。

    音楽が、規範的なものではなく実利的なもの、より直接感じられるものへと変化していく過程が、さまざまな側面を通じて理解できた。

    音楽を音楽自体として純粋に理解し楽しむという姿勢も大切ではあるが、社会との関わりにおいて生まれてきたという背景も知っておくことは、より理解を深めていくためには大切なのではないかと感じた。

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著者プロフィール

猪木 武徳(いのき・たけのり):1945年生まれ。経済学者。京都大学経済学部卒業。米国マサチューセッツ工科大学大学院修了。大阪大学経済学部長を経て、2002年より国際日本文化研究センター教授。2008年、同所長。2007年から2008年まで、日本経済学会会長。2012年4月から2016年3月まで青山学院大学特任教授。主な著書に、『経済思想』(岩波書店、サントリー学芸賞・日経・経済図書文化賞)、『自由と秩序』(中公叢書、読売・吉野作造賞)、『文芸にあらわれた日本の近代』(有斐閣、桑原武夫学芸賞)、『戦後世界経済史』(中公新書)などがある。

「2023年 『地霊を訪ねる もうひとつの日本近代史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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