反ポピュリズム論 (新潮新書 480)

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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106104800

作品紹介・あらすじ

ポピュリズムという毒が日本中に回っている。小泉ブーム、政権交代、そして橋下現象…なぜここまで政治は衰弱したのか?メディアの責任と罪とは?「大連立構想」驚愕の舞台裏から、小選挙区制・マニフェスト選挙の問題点、ポピュリズムの理論的考察、そして経済復活の秘策「無税国債」私案まで。「衆愚」の政治と断乎戦う-半世紀超の政治記者歴による知見が込められた、読売新聞主筆による渾身の論考。

感想・レビュー・書評

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  • 何かと批判されることの多い独裁者渡辺恒雄氏。排他独善的な主張のオンパレードかと思いきや結構冷静に現代を見つめている。情緒に訴えるのではなく冷徹な事実を基に論を進めており、該博な知識、海千山千の豊富な経験にはただただ圧倒されるばかり。さすがに読売グループの頂点に君臨するだけの御仁である。とりわけ政局の裏表での暗躍秘話は興味深く行間に無限の想像を馳せることができた。衆愚政治がいかに国を駄目にするか。納得させられる点は非常に多い。終章では国の破綻回避のための処方箋も示している。見事な反ポピュリズムで貫かれている。全てを支持するというわけにはいかないが歯切れのよい正論には清しい爽涼感をおぼえた。

  • ナベツネってこんなこと考えてたのか。我田引水的なところなしとしないが、今の政治状況に関する危機感、そうなったいきさつなど、頷ける点多し。中選挙区制復活の提案は賛成。

  • 渡辺恒雄氏が、現在の政治状況に関して書いた本人曰く人生最後の本。
    巨人のオーナーとして野球界については疑問に感じる発言・行動も多く、私としては決して許容できない人物でもあるのだが、親類から、読売新聞に居た友人が「本当に優秀な記者だった」と常々言っていたと聞かされ、彼の本職については以前より興味を抱いていた。

    メディア界きっての政治記者だっただけに、ここ数年の政治界の動きの解釈は極めて分かりやすい。
    小泉氏の劇場型政治に始まり、鳩山・菅のマニュフェスト主導、官僚非依存型政治が日本政治を決定的にだめにしたこと、そして橋下氏の政治が特にポピュリズム的な手法に陥ってきていることなど、政治史を遡り先人の例をひきながら解説している。
    橋下氏の出現自体が、歴史上の専制政治の現れるシーケンスに似ているという解説は、他でも言われているように納得しやすい解説でもある。

    自身が仕掛けてきた大連立の裏側にも言及している。
    著者はこれまで3回の与野党連立工作を仕掛けてきたというのだ。
    83年の自民・民社(中曽根、佐々木)、98年の自民・自由(小渕、小沢)、そして今のねじれ状態に陥る数年前、福田時代に仕掛けた小沢氏との連立仕掛けである。
    最後の仕掛けは結局、小沢氏自信のやり方のまずさで失敗したのだとの見方である。
    大物ではあるのだろうが、一政治記者がここまでの仕掛けをすべきものなのだろうか。
    そんなことができる政治の仕組み自体が、何か間違っているような気もしながら読み進んだ。

    興味深かったのはポピュリズムの理論的考察の章。
    ローマ時代の「パンとサーカス」の施策以来、同じような政治はなんども繰り返している。
    いわゆるポピュリオスの政体循環論だそうであり、
    賢人独裁→専制→貴族制→寡頭制→民主政→衆愚制→賢人独裁
    が人類の歴史の中で繰り返されてきたパターンだそうだ。
    例えばヒトラーを産み出すまでのドイツの歴史もまさにこれに沿った形であり、歴史に習えば衆愚政に陥ったように見える日本は、独裁できる賢人も現れそうにないので一気に専制に移行するのではとの考えも示している。
    そして、小選挙区制、ならびにマニュフェスト至上主義が、現在の衆愚政・ポピュリズムを生み出した最大の元凶だとも言っている。
    これは私も日頃感じていることであり、小選挙区制ゆえの政治の卑小化、マニュフェストゆえの現状を見ないばらまき優先が、日本をおかしくしているのは間違いないはずだ。

    また一章を当てて、メディア自身の悪弊についても解説している。
    新聞の社説は理論だった意見を開陳するもののであり、そこを個人の論説主幹などに委ねてしまうメディア(朝日など)は間違っているという。
    TVのニュースも、視聴者への食い込みが強い分、一言で内容を切り取るためにそれこそポピュリズム的報道に陥り、正確な状況が伝わり切らない危険性が大きいと言う。
    10時台の人気ニュース番組のキャスターなどは、まさにこのような報道をしてきており、民衆に間違った(あるいは浅慮な)見解を植えつけてしまっているという見方には納得できる。
    例として上げている朝日を主とするメディアの脱原発への誤った主導に関する記述は至極真っ当な論であり、我が意を得たりと感じた。。
    読売新聞自体は社内で議論を重ねた上での社説を出しているし、軽薄な誘導記事は載せていないという主張は、著者の自信なのだろう。

    全体的にはなかなか読みやすく、現在の政治がポピュリズムに陥っている状況とその背景を平易に表していると感じた。
    やはり親類の友人が言ったように、相当に優秀な方なのだろうと納得した次第である。
    かと言って、野球界での言動を許容したわけではないのは言うまでもない。

  • ポピュリズム(政治の大衆迎合)の危険性を論じた本。

    幅広い視点から、最近の事例や歴史を紐解きつつ、
    著者自身の経験を交えて書かれる内容は、
    決して飽きることなく、一気に読了に至った。

    本書の柱ともなっているが、
    小選挙区制やマスコミ、マニフェストの罪・弊害については、
    大変興味深く読むことができた。

    例え、著者に対して何らかの特別な感情を持っていたとしても、
    読めばその感情も和らぐのではなかろうか。

  • 自分がやってきたこと(自民党と自由党の連合政権結成の支援など)と、自分の思いつきを自画自賛している本。
    この人の定義するポピュリストは、この人の判断で実現不可能な政策やマニフェストを掲げて選挙民の関心を買おうとする政治家を指しているらしいが、その定義で一貫しているわけではなく、単に自分が嫌いな政治家(で国民に人気がある人)をポピュリストと読んでいるだけの様に見える。
    思い付きの政策は、相続税が無税になる無利子(またはマイナス金利の)国債の発行である。乗数効果に期待しているらしいが、か小30年間ほど、見るべき乗数効果のない国債発行が続いていることに照らして、賛成できる要素は乏しい。

  • 大学の経済学講義レベルのお話です。
    NHKスペシャル
    「渡辺恒雄 戦争と政治~戦後日本の自画像~」
    とともに。

  • ナベツネによる政策提言。

    前半は橋下についてのポピュリズム政治の批判かと思ったら、後半は政界の裏話や独自の経済政策が含まれていた。
    「無税国債」はリアリティはないけど思考実験としては面白かった。

  • 賢人独裁

  •  いくつになっても非常に頭のいい人だなぁ、という印象。当然新聞の人だからTVが敵だというバイアスはあるにせよ、アメリカの現場にいた人として、TVが作る政治風景についての考察については一見の価値があると思う。

     讀賣新聞のドンが何を考えているのか、くらいの興味で読んでみても損はないし、読書としても結構満足できると思うん。

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