表題や帯などから、凡そ内容が知れる。
“忠義だけでは「首」は取れない”
“討ち入り費用総額「700両」(約8400万円)”
それを今流の決算書の形で、貸借のバランスや予実分析を交えて考察を加えていくものだろうと興味を持って手に取ってみた。
面白かったのは途中までか。決算書というほどのこともなく、参考にした資料名『金銀請払帳』のごとく、ある金と出ていく金程度で(まさに請け・払い)、大した資金計画を資料から浮かび上がらせることもなく、出金した相手、日付や金額から、「おそらく・・・の目的だろう」くらいの推測に終始。
例えば、初期の出金が当主浅野内匠頭の供養とお家再興のための出資であったことから、
「こうしたお金の使い方から、内蔵助がこの時点では、この金を討ち入りに使うことなどまだまったく考えていなかったことが察せられる。」
で終わり。まあ、実際そうだったのかもしれないけど、小説であればこの出金さえも世間を欺くため・・・と尾鰭がついて面白おかしく展開するのだろう。
また、この軍資金(上記700両)以外にも、出費があったとされる費目も、内蔵助のポケットマネーとサラリとスルー。例えば、世間を油断させるために放蕩暮らしをしていたという有名な京での遊興費も、
“「毛頭自分用事に仕り候儀御座無く候」と書いているので、このような出資は、当然、自分のお金でしたのである。”
と、内蔵助が落合与左衛門に宛てた書状を引いたり、いよいよ決行迫り、内蔵助一行が江戸下りする費用は『金銀請払帳』に記載ないことから、全て自分(=内蔵助)のお金で賄ったとし、討ち入り直前、藩士たちの店賃やつけの代金などの支払いは、すでに会計を〆た後(=『金銀請払帳』を瑤泉院に提出した後)だからと、
「内蔵助が持参したお金の中から渡したものだろう。討ち入りにあたって、身の廻りをきれいにしておこうという意識が見える。」
とまぁ、なんだかなあの推論。
要は、討ち入りの決算書は、内蔵助の手持ち資金も含めて考えないと、その成否は考察できなかったということだ(最低でも)。討ち入り資金が底を尽きかけても、折に触れて出てくる内蔵助のポケットマネーが、本書の緊張感を削いでいたのは、いただけない。
それでも、忠臣蔵を資金の面からとらえようとした試みは面白かった。
赤穂藩も、一地方行政区というより、会社組織という面持ちで捉えることができた。 お取り潰しのご沙汰の後、「藩札」の処理に追われるくだりなどは、倒産しそうな会社に債権者が取り立てに押しかけるようだ。藩士への給金の支払いも、
「総計が、1年で米17,836石余、金にして13,720両、現代の価値で役16億5千万円でである。」
と、本書で採用している換算レート「1両=12万円」で計算し、妙に生々しい数字が出て来きて面白かった。
こうした前半の金勘定はそれなりに、であったけど、いざ、討ち入りまでの金の出入りから、内蔵助や藩士たいの行動が読み解けるのかと期待したが、そこは肩透かし。赤穂浪士たちの忠義だけではなく、この義挙を支援するパトロンの存在、あるいは反吉良派による政争のため、思わぬ資金が討ち入りを支えていたとか、もう少し面白おかしく金の流れから追及できなかったものかと惜しい気がした(金に困れば、内蔵助のポケットマネーじゃあね~・・・)。
そのあたり、補完できるかどうなのか、どうやら映画化が進行中らしい。
https://eiga.com/movie/90445/
かなりコメディ路線とみたが、本書の後半の盛り上がりの無さを、フィクションででも補ってくれればと思うところ。期待してます(観ないだろうけど)。