脳が壊れた (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 139
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106106736

感想・レビュー・書評

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  • 熱い。著者は圧倒的な熱量に満ちている。もともと熱い気質の持ち主なのだろうけれど、その熱量は高次脳機能障害になった後も冷めることはない。いやむしろ更にその熱量は高まったのかもしれない。それは高次脳機能障害になったことは著者にとって僥倖だから。と自身は語っているけれど、自分が逆の立場だったら果たして障害を抱えてしまった無様な様を本にしようなんて思っただろうか。それは著者がもともとライターだったからだろうか。いやそれだけではない。世にどうしても伝えたいメッセージが著者にはあったからなのだ。そのことが読んでいくうちにズンズン伝わってきた。
    書きたいことの元ネタが自分自身のカラダ。取材先は自分自身のカラダにある。そんな状況下にある圧倒的熱量のあるライターが書くノンフィクションが面白くないわけがない。ライターさんに向かって「うまい」なんて、恐れ多いのだけれど、絶妙な空気感なのだ。高次脳機能障害なんて、どう考えても暗い内容しかイメージできないけど、なんというか、クスッと笑ってしまう、人間味のある文体なので親しみやすいし、どんどん読み進めたくなる。
    この渾身の力作、とにかくいろんな人に読んでほしいと思います。どんな人にも必ず気づきがある一冊だと思います。

  • 機能していた→壊れた、という境界がはっきりとする経験によって得られる、もしかしたらあの人たちは、生まれつきここが壊れていて、それでもなんとか生き延びて、でも完全には上手くやれないから生きづらいのではないのだろうかという気付き。幼少時に弾かれてしまった人々や、軽度と判断されてしまう障害者や、あるいは高齢者。「キレる高齢者」なんてのも、こういう症状なのだろうと思うと、見える世界が変わる。

  •  モーニングで連載している『ギャングース』を読んでいて、作者はもっと強面の人かと思っていたので、至って真面目そうな印象で驚いた。真面目で真摯な文筆家でいらした。そんな作者が若くして脳梗塞をわずらい、そのリハビリを詳細に実感あふれる文章でレポートしている。体が麻痺して動けない車椅子の身障者がよく目線を空中にただよわせているのは、脳の部位の損壊によるものであったのか、子供が呼んでいるのに廊下に落ちているものに気をとられて夢中になってしまうのは脳が未発達だからなのかと、いろいろと脳の問題として捉えることができた。怒りっぽい人は自分に自身がないからすぐ感情がむき出しになるのかと思っていたのだが、決してそうではなく脳になんらかの問題が生じている可能性もある。簡単に判断するのは大間違いであると痛感した。

     内容が深刻なのに、文章がとてもリズミカルで読んでいて楽しい。また作者に本来備わっている明るさやユーモア精神もにじみ出ているのだろう。

  • ノンフィクション作家である著者が、脳梗塞で倒れ、自らを取材対象とした一冊。
    薄い新書ではあるが、色々な視点で読める、①脳梗塞の後遺症やリハビリ。機能面でだけではなく、メンタルに影響があるとは驚いた。②著者が取材対象にしている人への理解の変化、③家族、人とのつながり。
    深刻な話でありながらユーモアを交えて語ることができるのは、難しい厳しい境遇な人々の話を一般人に読ませようと努力してきた著者ならではなのだろう。
    この本を書き上げるに、病前と比べどれだけの時間と労力を要したのかはわからない。著者の回復を祝すとともに、これからも著者ならではの、弱者に光を当てた報道を願いたい。

  • マイノリティを取材する記者が脳梗塞を発症。マイノリティには発達障害と思わしき人も多く、自身が高次脳機能障害となったことで「当事者認識を言語化する」作業を行った本。当事者としてしかわからない認識を記者として記載されていのでリアルに理解しやすい。圧巻は後半部分。著者夫婦の歴史から始まり、著者の自伝的要素も入り、再生の物語。面白いと言ったら失礼だが読ませる文章で「深刻だけど笑える」本。

  • 41歳で脳梗塞という、少し特殊な例のような気がしますが、だからこそ、また元々ルポライターであることにより、患者の内観が語られた本です。感情過多な病前性格が症状を修飾しているようにも思えますが、興味深く読めます。
    空間無視か運動無視か麻痺か分かりませんが、「他人の身体をリモコンで遠隔操作しながら動いているような、それでいてその他人の身体の感覚は自分のものとして存在するという、結構ホラーな感触」とか、空間無視を「左方向を見てはならないという強い心理的忌避感がある状態」「左前方に親しい友人の女性が全裸で座っている感覚」など興味深い内観が書かれています。

  • 新聞の書評で知ったこの本。実に面白く知人に教えてあげたいくらい。41歳の若さで、多忙を極めるドキュメンタリーを主に書く記者。彼の追うテーマは、貧困家庭、DV被害者、引きこもり、ネグレクトされて育った子供達などなど。社会の弱者が対象だった。あまりに多忙でいつ倒れてもおかしくないと、自分自身感じていたが、ある日手が動かない、ろれつが回らない、左の視界が認識できないという症状に、救急車を呼んでもらう。脳梗塞だった。そして、命は取り止めたものの高次機能障害に悩まされる。絶望に突き落とされたか?そこで、彼は自分自身に起こったことをつぶさに記録に残そうと思い立つ。詳細に自分の状態を記録。一般人にもわかりやすいように、医学的からも、また自分の症状をわかりやすいように、たとえ話も入れてわかりやすい。そして、リハビリ。病院などで、高齢者が多くリハビリをしているが、高次脳機能障害という難しい症例も同じリハビリ療法士が、対応する。一月後には80代男性並みにタイプが打てるようになり、次の一ヶ月後には両手でタイプも。リハビリは2、3歳児の自分が両親からなんども教えてもらってできた時の喜びと同じだと感じる。。。

  • 41歳働き盛りのフリーランスライターが脳梗塞を発症し、その後のリハビリの日々を軽妙に記述。最悪自殺を考えてしまうほどの過酷な日々のはずなのに、ユーモアな文体で記載されていてついつい笑いを誘われた。脳梗塞を患うことでわかった既視感を実体験に基づいて記載していて感銘を受ける点が多々あったかな。
    P9
    あれ?この不自由になってしまった僕と同じような人を、僕は前に何度も見たことがあるぞ?
    それはうつ病や発達障害をはじめとして、パニック障害や適応障害などの精神疾患・情緒障害方面、薬物依存や認知症等々を抱えた人たち。僕がこれまでの取材で会ってきた多くの「困窮者たち」の顔が、脳裏に浮かびました。
    なるほど、原因が脳梗塞だろうと何だろうと、結果として「脳が壊れた」(機能が阻害された)状態になっているならば、出てくる障害や当事者感覚には多くの共通点や類似性があるようなのです。

  • 脳梗塞で高次脳機能障害になった鈴木さんのルポ。本人自身の体験から語られているので、その辛さがよく分かります。
    それでも面白おかしく書かれているので、気落ちすることなく読めます。
    自分自身健康だと思っていますが、気をつけなあかんなと実感しました。

    #読書 #読書記録 #読書倶楽部
    #脳が壊れた
    #鈴木大介
    #2016年87冊目

  • 2016.9.16

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著者プロフィール

1973年千葉県生まれ。文筆業。子どもや女性、若者の貧困問題をテーマにした取材活動をし、代表作として『最貧困女子』(幻冬社新書)などのあるルポライターだったが、2015年、41歳のときに脳梗塞を発症し高次脳機能障害が残る。当事者としての自身を取材した闘病記『脳が壊れた』『脳は回復する』(ともに新潮新書)が話題に。他にも、夫婦での障害受容を描いた『されど愛しきお妻様』(講談社)『発達系女子とモラハラ男』(漫画いのうえさきこ。晶文社)、当事者視点からの実践的な援助ガイドを試みた『「脳コワさん」支援ガイド』(日本医学ジャーナリスト協会賞受賞。医学書院)、当事者と臨床心理士との対話を記録した『不自由な脳』(山口加代子氏との共著。金剛出版)などの著書がある。

「2021年 『壊れた脳と生きる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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