大江健三郎小説 4

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106408243

感想・レビュー・書評

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  •  うーん、凄まじかった。すごいな、大江健三郎。さすがだな。

     正直、少年たちが出てくるまでの100ページはかなり厳しかった。読み進めるうちにラリホーくらう感じで、なんとかページ数を数えながら読んでいた。これが200ページ続いたら諦めてしまおうかと思っていたらだんだんおもしろくなったので救われた。

     鮮烈なイメージと現実の状況を混濁させながら展開していく物語の吸引力ったらなく、変に陽気な印象を持つキャラクターたちと陰惨な印象を与える文章のミスマッチ(ではないんやけど、適切な言葉が思いつかない)が恐ろしいくらいにはまっている。

     破滅に向かって加速する物語のなかで、各自の立ち居地が明らかになっていく。キャラクターの底が浮き彫りになっていくにつれて、なぜか世界の全体像までが透けてくる。ものすごく小さな世界の話にすぎないのに、ペシミスティックな虚妄に侵された人々が、それを惑星レベルに捨象してしまう。

     人類の最後でさえ乗り越えるために作られたシェルターのなかで、しかし洪水におぼれていく勇魚の最後は、ちょっと他に類がないくらいに圧倒的な終局を覚悟させる。結局、望んだもの、目指したもの、自覚していたものでさえなく、人間のひとりとして溺れる魂の叫びが「すべてよし」だというのは、こらえようもなく破滅的だと思った。

     なんとも表現のしようがないけれど、これはたしかな傑作だった。

著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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