吉本ばなな自選選集 4 Life

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106463044

感想・レビュー・書評

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  • TUGUMI
    p39
    私と母にとってのあの海辺の町で生活した日々と同じだけの年月、父もここで呼吸していたのだ。(略)私たちを投げ出してしまいくなったこともあるだろうか。うん、きっとある、と私は思った。一生口に出さなくても、心の底の方で何もかもが面倒になったことがきっとあるだろう。あんまり妙な状況にいたので、かえって私たち三人は「典型的な幸福な家族」というシナリオの中の人々のように優しくなってしまった。誰ひとり、本当は心の底に眠るはずのどろどろした感情を見せないように無意識に努力している。人生は演技だ、と私は思った。意味は全く同じでも、幻想という言葉より私にとって近い感じがした。その夕方、雑踏の中でそれはめくるめく実感の瞬間だった。ひとりのにんげんはあらゆる段階の心を、あらゆる良きものや汚いものの混沌を抱えて、自分ひとりでその重みを支えて生きてゆくのだ。まわりにいる好きな人達になるべく親切にしたいと願いながら、ひとりで。

    ある光
    p457
    遠く離れて暮らし、次にいつ会えるかわからない、さっきまでいっしょにいたのに、今はもう触れることができない旅の友達。同じ物を食べて、同じ海に泳いで、いっしょに歌ったのに、今は時差の向こう側に暮らす愛する人たち。その存在が地球を小さくし、他の国に対する印象を全て近しいものに変える。(略)
    私も、私の耳にも君たちの声がまだ響いている、まぶたの裏に君たちの姿が動いている。それもまた薄れていって…そしてまた会って、また思い出をつくって、そして人生は続いていく。いつかあの夕方の光の中に消えるまで。

  • <閲覧スタッフより>

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    所在記号:913.6||ヨハ||4
    資料番号:10184872
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  • <閲覧スタッフより>
    甘やかされて育ち、粗野で口が悪く、思うがままに振る舞う病弱な美少女つぐみ。そんなつぐみの被害を受けつつも理解者であるつぐみの従姉まりあ。今は東京で暮らすまりあがつぐみの暮らす海辺の町へ帰省し、つぐみとの思い出とその夏を語る物語です。
    今回は全集から展示しています。
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    所在記号:913.6||ヨハ||4
    資料番号:10184872
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  • 「人生は演技だ、と私は思った。意味は全く同じでも、幻想という言葉より私にとって近い感じがした。その夕方、雑踏の中でそれはめくるめく実感の瞬間だった。ひとりの人間はあらゆる段階の心を、あらゆる良きものや汚いものの混沌を抱えて、自分ひとりでその重みを支えて生きてゆくのだ。まわりにいる好きな人達になるべく親切にしたいと願いながら、ひとりで。」

    「今日は、つぐみさんはどうしたんですか」
    と恭一は言った。
    多分、あとで思いかえすからこんなふうに感じたように思うのだろうが、彼が「つぐみ」の名前を正確にきちんと発音した時、私は何だかつぐみの恋の未来は明るいかもしれない、という感じで一瞬、胸がいっぱいになった。

    「いや、どこにでも行ければいいってもんじゃない。ここもいい所だよ。ビーチサンダルで、水着で歩けて、山も海もある。君の心は丈夫だし、君は気骨があるから、ずっとここにいても、世界中を旅している奴よりたくさんのものを見ることができるよ。そういう気がするね」

    「失恋の後味ではなかった。自分の頭がはっきりしていないままに過ごしていた生活の重みだった。きっと、新興宗教に入ってしばらく本気でうちこんでからやめてしまった人はこういう気持ちなのだろう、と思った。せめて本気で恋をして、すごく好きになった人に失恋したのならよかった。本当に仕事が忙しくて、仕事が好きだったらよかった。私はただばたばたしていただけで、忙しいというものではなかったような気がする。自分が恥ずかしかった。なんで好きでもない人と恋をしたような気持ちになったりしたのだろう。他にすることがなかったから?なんで人としても男としても面白みがない判断力にかけたあんな人がよく見えたんだろう?それが恋の力だったらよかったのに。違うことを私は知っていた。自分に自信がなくって、生きていることに罪悪感があったから、自分を好きと言って言い寄ってくれた人を貴重に思わなくてはいけない、と思ってしまったのだ。本当に好きだったのなら、気が狂うほど泣いて本当に狂ってしまっても、雨に打たれる木々のように色鮮やかだろう。」

    「住んでいる駅になんて、もう二度と降りなくっていいのよ。充分ありうることだもの。」

  • 「Life」というタイトルがとてもぴたりとくる。
    とてもよい。好きなお話ばかり。
    今まで読んだ話も、形が変わったことでまた出会う機会を与えてもらったような感じ。

    しんと沁みわたるような文章たち。

  • 分類 913/ヨ

  • 2002/6/4読了

  • 吉本ばなな自選選集4「Life ライフ」。人生を短いと思う。そして素晴らしいと気づく。TUGUMI つぐみとかげおやじの味新婚さんひな菊の人生哀しい予感ある光(書下し短篇小説)得意分野のはずなのに……あとがき『TUGUMI』の元々の装丁は捨てがたいけれど。『とかげ』は選ばれているのに『ひとかげ』は、無いのか……(そうだよな、吉本ばななとよしもとばななは、ひょっとしたら違う人なのだと思うべきなのかもしれないし)。吉本ばなな、「ものすごく好き」で読んでいる、というのとはちょっと違うような気もする。だけど、同じ時代、同じ国に生きる女性がどんなことを書くのか、やはり気にはなる。そして、1冊の本の中に少なくとも一箇所は心に残るフレーズがある。だから、つい読んでしまうのかも。

  • TUGUMIが読みたくて図書館から借りてきた。
    他にも読みたかった話が入っていて満足。選集借りてきて良かったー。

    <TUGUMI>
    初吉本ばなな。
    昔(中学生のころだったかな)、夏の読書感想文を探していたとき当時やってた学習雑誌に紹介されていた(そのときは原作ではなく映画のほうだったはず)のを見て読みたいと思っていたんだけど、時期を逃し結局読まず。
    キッチンを読んだけど、こっちは全然覚えてない(嫌々読んだ記憶がある(-_-;))。
    ふと最近、そういえば昔読みたかったんだと思い出した。
    たぶん10年近くごしで読了。
    もっと早くに読んでおけば良かったと後悔。
    読んでいて、今流行(?)の文学やラノベなんかの原点のような印象を受けた。
    吉本ばななの表現の仕方が好きかも。
    こんな優しい表現の仕方があったんだ、と目からぽろぽろ鱗。
    『やさしさが陽に透けて落とした花びらのシルエットのような』って表現がすごい素敵。

    090721

  • TUGUMI、とかげ、おやじの味、新婚さん、ひな菊の人生、哀しい予感、ある光
    ・・・わからないままでいいことなんてひとつもない(哀しい予感)

  • よしもとばなな作品の空気感、やっぱり好きです。

  • いろいろ読めてお得。
    読み返す本。

  • TUGUMIはコメディ調で面白かったけど、とかげは幼少時のトラウマを扱っているし、生死に関わる話ばかりなので(Lifeだからしょうがないけど)辛くなった。涙が出た。

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著者プロフィール

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)、2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『吹上奇譚 第四話 ミモザ』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

「2023年 『はーばーらいと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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