オン・ボクシング

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120017247

作品紹介・あらすじ

ボクシングは、怒りを芸術に高める唯一のスポーツだ。野蛮で孤独な闘いに賭ける男たちへのオマージュ。ノーベル賞候補の女流作家による異色のエッセイ。マイク・タイソン論(「キッド・ダイナマイト」)を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 1987年に、アメリカの女性文学者によって書かれたボクシングに関するエッセイ。ボクシングがどのような競技で、ボクサーやレフリー、観客がどういう存在で、リング上で何が行われているのか、数々の実際に行われた試合の様子を振り返りながら、比喩を盛り込みながら文学的な表現で描き出したもの。On Boxingと、最後の方に「よそ者、精神の無法者、白いアメリカが与えることのできるものすべてに飢えた若い黒人挑戦者」(p.156)であるマイク・タイソンについて述べたエッセイ、KID DYNAMITEの2つの全訳。
     おれはスポーツには本当に疎いし、テレビも含めて格闘技の試合を見たことは一度もないので、絶対に読むことのない本だったが、ずいぶん昔の「英語教育」の雑誌で英文和訳をするコーナーに、On Boxingからの一節が取られていて、たまたまその和訳の勉強を最近した時に、全文がどうなっているのか知りたくなり、図書館で見つけて、日本語だけど読むことにしようと思い、読んでみた。
     もちろんボクシングについても選手についても全く知らないし興味もないので、分からないことだらけなのだけれど、和訳であっても、表現が面白くて、結構読めてしまった。例えば「ボクサーの間の対話、彼らの言語は、非常に洗練されている。(略)彼らの対話は、観客たちの神秘的な意志に対する二人の共同の回答である。」(p.20)とか、「ボクシングのリングは、一種の祭壇、一国の法律が適用されない伝説的な空間のひとつと言える。(略)ボクシングの試合は、人間の集団的攻撃性のイメージそのものであり、それは儀式化されているがゆえに、いっそう恐ろしい。それは、今も進み続けている人類の歴史的狂気のイメージなのである。」(p.32)とか、「ボクシングは、他者だけでなく、分裂した自己に対する人類の闘争の精髄であり」(p.162)など。
    そして、「アメリカにおけるボクシング―闘い―の歴史は、アメリカにおける黒人の歴史と分かちがたく結びついている」(p.88)というところで、アメリカの歴史には興味があるので、今までとは全然違う観点からアメリカ黒人の歴史というものを学ぶことができた。「支配する人種の持つ偏見が、これほどあからさまに記されている歴史的記録」(p.90)というのもあって、アメリカの歴史を勉強するのにこういう視点からも得られるということを学んだ貴重な本だった。
    途中でボクシングは「厳格な宗教の世界と似ている」(p.23)という比喩が出てくるが、最後のマイク・タイソンの話を読んでも、ボクサーが宗教家か修行僧のようにますます思えてくる。あまりに自分の生き方と違い過ぎて、すごい人たちだなあ、と呆気にとられるというか…。おれにとっては、ボクサーに対する見方が多少は深まる、というか、以前のように何も思わない対象ではなくなった(でもだからと言ってやっぱりボクシングを見ようという気にはなれないのだけど)。このエッセイは全く興味のなかったおれにしてはそれなりに面白かった。(21/02/11)

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著者プロフィール

1938年ニューヨーク州生まれ。68年『かれら』で全米図書賞受賞。著書に『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』『邪眼』『ブラックウォーター』など。近年ノーベル文学賞候補として名前が挙がっている。

「2018年 『ジャック・オブ・スペード』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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