憧れのハワイ: 日本人のハワイ観

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120041921

作品紹介・あらすじ

「遠い島」か、「気軽な場所」か。あなたにとってハワイとは?ハワイが日本人の観光地として定番化する道のりを、戦前・戦中・戦後を通して一望する。

感想・レビュー・書評

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  • ハワイは日本人にとってかつては出稼ぎの地であり、はじめて出会うアメリカであり、終始一貫して理想の楽園であり続けている。戦時中はアメリカ合衆国支配より解放すべき島とされ、真珠湾攻撃のメルクマールとなったキーワードの土地であり、海外渡航が禁止されていた戦後まもないころは再び高嶺の花としてのイメージが膨れ上がり「憧れのハワイ航路」と歌いあげた。本書は戦前戦後の両国の関係史をたどっていくが、戦後のハワイ観光ブーム以降については著者専門の「観光学」切り口のスパイスががぜん効いてくる。ハネムーンから団体旅行、日本資本の観光産業進出の空前のハワイブームの舞台裏で、先住民たちは楽園イメージ演出の出演者にすぎず、経済成長から取り残されてきたとの現実をあぶりだす。9.11やリーマンショック後の旅行客減少、誰もかれもハワイをめざすのではなく、「はまった」リピーターが行く場所となった現在は、一見「ロコ」「フラ」「エコ」「癒し」へのニーズにハワイ先住民文化への敬意と興味がみられるが、それもまたハワイ文化に新たな「非近代社会」としての「他者」視線という疎外を与えていな�いかと指摘。しかしそれを認識したうえで、文化理解をしていくことが重要と述べる。もっともだ。
    わたしはこの本をハワイ旅行の帰途に読んだ。旅行中漠然と感じた印象の「解」を読むようなおもしろさ。ワイキキの、まるで、租界地区のような隔絶感と新宿副都心のような人工感。そこには地域住民の家はない。周辺地区からワイキキへの出勤のための高速道路大渋滞。そこに舞台裏の労働者たちの日々の現実が集積している。アメリカ軍の、アメリカの想いがつまった真珠湾攻撃で沈んだ戦艦の兵士たちの慰霊碑。一方、先住民の苦悩の歴史をとどめる、旧王族がアメリカにより退位された記憶が生々しいイオラニ宮殿と、民族の歴史を誇らしく展示するビショップ博物館。真珠湾やビショップ博物館では日本人の団体ツアーバスは見かけなかった。考えてみれば、ハワイが、日本人がリゾートとして滞在してなんの「居心地の悪さ」を感じないのは、真珠湾地区をのぞいては日本軍が激戦した跡地がない…占領したこともない…これはグアムやサイパン、フィリピンそのほかのアジアの国々を訪れたときとは大違いである…からではないだろうか。
    もちろんハワイには掛け値なく魅力的な文化がある。わたしが心ひかれたのは「ことばと一体化した踊りであるフラ」「ハワイの神話」惹かれた理由は、著者が指摘するようにそれらが自分とは異質の前近代、他者、「憧れ」だからではなく、その逆。自分の中にあるものであり、親和性を感じ、「自然」だから。じつはこのような形で「はまっている」ひとは、多いのでは?

  • 2015/5読了。
    ほんとに、その土地の歴史について、っていう感じ。。。

  • ●:引用

    ●戦前のハワイを訪れたこれらの日本人は、観光が主目的ではなかったが、それでもいろいろな観光体験を楽しんだ。戦後に急成長する観光とはかなり異なっていたものの、今日に受け継がれる面もあった。たとえば戦前の人が楽しんだオアフの名所は、今日の「オアフ島一周ツアー」などで訪れる場所とほとんど変わらない。
    ●1920年代から30年代にかけて日本からハワイを訪れた論者にとって、この地はまぎれもなくアメリカであった。(中略)しかし、ハワイは明らかにアメリカ合衆国の政治と経済の庇護下にあり、きれいに整備された道路を大量の自動車が走るアメリカ的な生活がある島であった。(中略)そこに住む日本人も当然アメリカの住人であったし、二世はアメリカ国民として誇りを持つべきであった。
    ●萩原らが訪れた1920年代から30年代にかけては、アメリカ領のハワイで日本の伝統を維持しようとする思いと、アメリカ領に住むことでほぼ不可避的に起こるアメリカ文化の流れとが、日本からの移民の意識に並存していた時期でもあった。日本から訪れた人々は、そのような力学を肌で感じ取り、そこに魅力を感じたのである。「アメリカナイズされたハワイとジャパナイズされたハワイとがチャンポンになっていて、アットホームな感じが少ない代わり、エトランゼの淋しさの身に染むこともない」のがハワイであった。
    ●戦前のハワイを訪れた日本人の識者の多くは、ハワイをきわめて魅力的な楽園として描いた。その魅力は矢田の詩にあるような美しい風景や穏やかな気候に加えて、日本とアメリカがちょうどよく「まぜこぜ」になっている文化にもあった。(中略)しかし総じて、ここは排日という「暴挙」を敢行したアメリカの一部であるにもかかわらず、日本人の憧れ心を満たしてくれる、温かく美しい島であった。
    ●奥村や三池と高原の論理は血を重視するもので、戦争が始まった後も、ハワイに住む日本人は日本の日本人と同じであることが強調されていた。(中略)実際にはハワイの二世の多くはアメリカのために戦うことを望み、アメリカ軍に大挙して志願することになるわけだが、戦中のハワイ論では、ハワイの日本人は敵国アメリカの住人でありながらも、日本の価値観を保持し、日本のためなら自分が一生かけて築き上げてきた財産と命をも投げ出す用意があるとええあるされていた。ハワイの日本人の生活が、日米の両方の文化を取り入れているという側面など、戦前の識者が繰り返し指摘した点は強調されず、同じ「大和民族」である「同胞」と位置づけられた。
    ●しかし、大半のハワイ論者は大学者として知られていた志賀の理論をそのまま受け入れ、黒潮に乗って、日本人がハワイにたどりつき、そこにいた先住民に「血」を分け与えたという説を主張するようになった。日本から渡った移民とその子孫である二世や三世が日本人の血を引く「同胞」なのは当然であったが、ハワイ先住民も日本人の血を何世紀にもわたって受け継いできた民族なのであった。それは戦中の大東亜共栄圏や八紘一宇の思想とも都合よく合致するもので、ハワイ論者は積極的にこの説を広げようとした。
    ●このとき、カラカウアは公式訪問の後に再びひそかに明治天皇を訪問し、姪のカイウラニ王女の婿として、皇族の山階宮定麿王を迎えたいと申し入れた。(中略)日本との皇族とこのような縁で結ばれれば、ハワイは日本と文字通り血を分けた同盟国になり、欧米列強の植民地支配からハワイを守ることもできるとカラカウアは考えたというのである。
    ●その際、宮城の表現にもあるように、アメリカに侵略されたハワイ王朝は「か弱い」無力な国であった。(中略)そのようなハワイを日本が救い、楽園を回復するのは、自然の摂理であり、大日本帝国が避けてはならない使命であった。
    ●1950年代の日本におけるハワイへの憧れは、単なる美しい南の島への憧憬ではなく、アメリカ的な近代への思いでもあった。敗戦後、アメリカの庇護下に入った日本が、果たして同様の民主化と産業発展を進めることはできるのであろうか。(中略)ハワイの日系人は、戦争で興廃した社会から来た日本の人々に、未来への希望を感じさせる存在でもあった。
    ●ほとんどの旅行者は南国ハワイの日常を具体的に創造することはできなかった。旅行代理店の担当者やガイドブックに頼るしかないので、当時のガイドブックには何を持っていくか細かな指示が掲載されていた。
    ●リアーズの分析はあくまでも19世紀末から20世紀初頭のアメリカを対象にしているものであるが、21世紀の、日本からハワイを繰り返し訪れるリピーターの意識を考える際にも示唆に富んでいる。「ロコ」「フラ」「エコ」などを通して、地元の文化に近づき、伝統文化を理解し、ハワイの自然に触れたいという思いは、日本の日常とは対照的な日々をハワイで見出そうとする観光客の欲望を表している。それは日本社会への不満とまではいかなくとも、」日本における日常に対するいろいろな不安と関係しているといえよう。(中略)このような表現は、自然、伝統、友情や家族の絆などが希薄になってしまったと指摘される日本社会、とりわけ日本の近代都市における生活に対する不安の裏返しでもある。「ロコ」「フラ」「エコ」は、日本の日常とは対照的な体験を一時的に提供することで、閉塞感に満ちた今日の日本の日常にある者の不安を和らげ、安らぎを与えてくれる。ハワイという日本とは異質な地域文化、伝統文化、自然が存在する空間で心身を「リセット」することで、「もう一度日本に帰って頑張ろう」と思うことが可能になる。「ロコ」「フラ」「エコ」は観光客に癒しの感覚を提供し、日常回帰を可能にする21世紀の文化装置である。

  • 【新刊情報】憧れのハワイ―日本人のハワイ観 http://booklog.jp/asin/4120041921 689.2/ヤ 日本人にとってのハワイの意味とは?20世紀初頭から現代に至るまでのハワイのイメージの変遷をたどり、日本人の定番の海外旅行先となっていく過程を考える

  • ハワイが旅行目的地として人気を得るまでの歴史的、社会的背景や商業的プロモーション戦略の流れを時系列で分かりやすく解説している。

    創造された観光地としての魅力の裏には自然環境問題や先住民の苦しみがあり、彼らの文化や歴史にも理解を示すことが観光客一人ひとりに課せられた課題だと論じている。

    日本人にとってのハワイの意味を考え、日本社会にとっての観光の意義を考察した読みやすい著書である。

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著者プロフィール

東京大学大学院情報学環教授

「2020年 『東大塾 現代アメリカ講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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