- Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120049859
感想・レビュー・書評
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谷崎潤一郎の家庭をモデルに、文豪がモデルとして必要とする女たちの葛藤を描きます。
「細雪」のヒロイン・雪子のモデルだった重子が主人公。
谷崎の3人目の妻・松子は現れるだけで場が華やぐような女性。
その妹の重子はそれほど目立たないが、小説「細雪」での「雪子」は4姉妹の中で一番大人しいが芯のある、引き込まれるような魅力のある女性として描かれていました。
重子は自分をそんなふうに見てくれた義兄に感謝し、惹かれるものがあったのです。
谷崎は、身近にいる女性との交流の中でモデルを見つけ、作品に昇華していく。
崇めるように愛した妻の松子のことはもちろん、若い女中たちも可愛がり、深い仲というわけではないが何かとお喋りしたり物を買ってやったりしていた。
その反面、好みに沿わない人物は次第に自分の生活から押し出してしまう。そんな冷酷さにも重子は気づいていました。
「細雪」では、婚期の遅れた「雪子」がやっといい相手を見つけ、旅立つ所で終わります。
夫の家柄がいいというのは同じですが、現実の重子の結婚は実はあまりうまく行かなかったよう。
しぶしぶ結婚した相手になにか不満ができると姉夫婦の家に舞い戻り、ここでの生活が一番幸せだと感じます。子供の頃から慣れている習慣や行事なども姉妹で出来るし、女性に優しい谷崎がリードする、かなり優雅な生活ですからね。
しかし、重子がキッチンドリンカーになってしまうとは。
しかも、谷崎がそんな重子にも興味を持ち、かなり気に入っていた様子なのがまたなんとも‥
重子が養子にとった跡取り息子の嫁・千萬子は若くて物怖じしない、小説にも流行にも詳しい女性。若い世代の動向を知りたい谷崎の気持ちを掴み、すっかりお気に入りとなります。
姉の松子とともに、苦々しくそれを眺める重子。
完全に負けたかと思われましたが‥
意外な勝ちポイントを掴むことに。
このあたりは創作なのでしょう‥か?
谷崎がイメージして作り上げたやや歪んだ麗しい環境で、意識し合う女たち。
綾なす世界の層の厚さ、危うさ、妖しさ。
谷崎作品を全部読んでいるわけじゃありませんが~
「細雪」は大のお気に入りの小説なので、満足の行く読み応えでした。 -
小説を書くためならば、息子の嫁でさえも
愛せる男・・・さすが、谷崎潤一郎。
現実と小説の境目をわざと曖昧にすることで
人々のさらなる関心と興味を集めていた谷崎作品は
最も身近にいる女性たちに
深い喜びと嫉妬をもたらしていたのですね。
細雪のモデルになった重子さんの誇りと恥辱の間を揺れ動く心に魅入られてしまいました。
今度は千萬子さんサイドから見た
谷崎とその女たちの物語を読んでみたいと思う。 -
谷崎潤一郎の妻松子の妹重子の目線で書かれている、谷崎家の妖しくもデンジャラスな暮らし。
こういう作家の暮らしぶりの小説を読みたかったのです。
しかも谷崎潤一郎なんて、まさにうってつけ。
「細雪」は実はまだ読んでいなかったから、読む前にこちらを読んで良かったかも。 -
文豪谷崎潤一郎の生涯を賭したミューズ探しの旅、と言ってしまうともう一言で終わってしまうのですが、うーん、ここまで実在していた人物及び家族を赤裸々に描いてしまうところに桐野さんの凄さを感じました。
谷崎の築いてきたミューズ候補の女性たちで成される家族帝国ではあったけど、彼がずっと待っていたのは作品世界に縛り付けられそこから抜け出せない女性よりも、それを打ち破る自分の予想や現実を遥かに超えた女性だったのだろうかと思いました。
終盤近くの重子がひれ伏す谷崎を足蹴にするシーンなどは、ちょっと「痴人の愛」を重なりましたが、現実で彼を本当に足蹴にした女性は小説世界のナヲミではなく重子しかいなかったのでしょうね。
だけど、そんな重子でさえも、実は二重に張り巡らされた小説世界の住人でしかなかったのでは…とラストはちょっとゾクッとさせれました。
一つ目の枠は超えてきたけれど、実はもう一つ枠があって…などと思うとやはり文豪って業が深いよ、と嘆息せざるを得ません。 -
谷崎潤一郎を頂点とした、過程の中の王国とそこに生きる女性たちがねっとりとした筆致で描かれています。
閉鎖的な環境下で彼女たちが抱く、嫉妬や羨望、優越感に焦燥…といった感情が読み手にリアルに伝わってきて、恐ろしいのについ読み進めてしまう。ラストシーンにはゾッとしました。
過激な言葉は使われていないのに、こんなにも心を抉るのかと、桐野さんの文体に感動しました。 -
谷崎潤一郎と彼を囲む女たちの話。
小説のモデルとなったとも言われている
妻や妹、息子の嫁、女中らなど
女が彼の創作の源だった。
女たちから見た谷崎は
さぞかし憎らしかっただろうが
だからこそ愛しかったのだろう。
読み終わって謝辞を見てびっくり、ちまこさんご存命… -
何かの書評番組で谷崎潤一郎の「細雪」の続編的作品だと知って、映画やTVドラマで見てきたので興味が湧き読んでみた。確かに「細雪」の続編とも言える実録谷崎潤一郎一家とも言える作品であるが、これもまた著者の一方的分析のみであり今は亡き谷崎に反論のしようもない、その辺は昨今の三流週刊誌のゴシップ記事のようで、下世話な一般大衆には受けそうである。この頃の日本作家と言えば私小説ばかりで面白みに欠けるものばかりになって、文学の衰退が感じられたが、やっと最近になって文学にも多様性が出てきて世界にも御せるようになった。
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谷崎潤一郎の実生活を『細雪』のモデルとなった重子の視点で描いた小説。時代背景がピンとこなくてあまり入り込めなかったけど桐野夏生さんの本なのでやはり読みやすかったです。