- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120051982
作品紹介・あらすじ
太平洋戦争末期。日本の敗色が濃くなる中、東京から東北の田舎へ集団疎開した小学生たち。そのひとり、清子は疎開先で、リツという少女と出会う。「海」と「山」という、絶対相容れない宿命的な対立の出会いでもあった――。
戦争という巨大で悲劇的な対立の世界で、この二人の少女たちも、長き呪縛の如き、お互いを忌み嫌いあう対立を繰り広げるのだが…….
「螺旋」プロジェクト、激動の昭和前期篇、ついに登場!
感想・レビュー・書評
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憎しみを争いの理由に。
それは弱い者の考え方。
真に強い者は憎しみを
相手に向けない。
自分自身がそれと戦い
打ち勝つ。
嫌いな相手ほど親切に。
言うは易く行うは難し
ですね。
しかし、主人公は子供
ながらにそのハードル
を超えていきます。
そして、同じハードル
を前にして踵を返した
大人の私(泣詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
螺旋プロジェクトの一つ、今回は昭和のはじめ、太平洋戦争末期。清子は集団疎開で東北へゆく、そこでリツに会う。清子の目は母親と同じく蒼い。リツは立派な耳を持ち、野山を駆ける「山犬」のような少女。互いに気配を感じるほどの「海」と「山」の二人であった。一人の男性を軸にして関わりあう二人、嫌悪感を抱きながらもなんとか互いに歩み寄ろうとする。
これもおとぎばなし風? に思えた。そして、清子がリツに歩み寄ろうとしているところ、青春の一ページのよう。そう、今回では、海と山が平行線だけでなく、わかろうとしているところに力を置いていたように感じた。海と山のワンシーンでもあるのか。螺旋のパワーを感じる一冊でもあった。
螺旋は全部読んでみる方が楽しめるかな。共通したキーワードとかあるしね。全部は読めるかどうかわからないけれど、もう少し読んでみる予定です。 -
蒼い目を持つ故に周囲から疎まれている清子と、犬のような尖った耳を持つ故に周囲から疎まれているリツ。
似た者同士でありながら相容れない二人。出会ってはいけない二人が、戦時中の集団疎開先で出会ってしまう。
「夏光」のような息苦しくなるような青春の一時を描いているのかと思いきや、ファンタジー要素がかなり入っている。
甘酸っぱい初恋を知った少女たちだが、その初恋の行方はあまりに残酷で、それ故に決定的な事件が二人の間に起きてしまう。
このまま清子とリツの関係はどうなってしまうのか、相手を排除するまで終わらないのかとハラハラしていたら、清子の母親の登場により新しい展開へと向かう。
『嫌いだという感情をただぶつけるのは、お腹が空いたから泣く赤ん坊と同じ。憎しみを抱いても、争わないでいることはできるはずです』
『自制しなさい。好きな相手には、自然に気持ちの良い振る舞いができるもの。だから嫌いな相手には特に意識して、誰よりも丁寧に、親切になさい』
相容れない相手リツに対してであったり清子の目を理由に差別する同級生たちについての清子の態度を諭す母親の言葉ではあるけれど、いろんなことにも通じる言葉のように感じた。
そして運命の東京大空襲の日。
こうやって僅かなことが生死を分けたという出来事はたくさんあったのだろう。
亡くなった人々、家族を失った人々、一人ひとりにそれぞれのドラマがある。
ただどうしてこんなファンタジー要素を入れる必要があったのだろうと疑問に思うことも多かった。
謙次郎の突然の退場、源助の片目が蒼い謎の放置、リツのその後…モヤモヤするところも多い。
読み終えて初めて知ったが、文芸誌『小説BOC』創刊にあたり、8組の作家による「螺旋プロジェクト」が企画されていて、この作品はその中の一つということらしい。
他に大森兄弟、澤田瞳子、薬丸岳、伊坂幸太郎、天野純希、朝井リョウ、吉田篤弘が参加。海と山の一族の対立という共通テーマで原始~未来を描く。
だから切り取り感があったのかと納得。また蝸牛のような螺旋模様のペンダントが重要視されていた理由も。
とは言え、それぞれの作家さんの作品は独立していて、清子とリツの物語はこの作品だけらしい。
個人的には浅い感じが否めなかったので、全体的にもったいない感じのする作品だった。 -
「螺旋プロジェクト」の1つ。
全てを読んでいないし、海のものと山のものが相いれないという設定に難しさを感じる。
今回は戦時中、東京から東北に疎開した先での出来事。
東京の清子、疎開先のリツ。出会った瞬間からお互いを嫌いあう。
最後にはそんな2人が会話をし、リツは清子を助ける事になる。
嫌い合いながらも、無にする事はできない存在。 -
螺旋シリーズ最後の作品です。
螺旋シリーズの中では好きな作品です。
清子とリツの関係は、海族と山族の象徴としてかなり分かりやすく対立した関係性で描かれていましたが、
誰でも似たり寄ったりな気持ちはあるのではないでしょうか。
清子の母親や源助の言葉も身に染みました。
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螺旋プロジェクト、私が読むのが2冊目の本です。 東京から宮城に疎開してきた、蒼い目をした清子と、地元の山の中を縦横無尽に駈けるリツが主人公。 お互い、嫌いあいます。 ただ、その中で、お互いの成長が見える事と、嫌いあって戦うだけが解決じゃない。ということを2人は学んで行きます。 一生交わらないけど、一生忘れない。 お互いのその思いが印象的でした。
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相容れない「海」と「山」の種族の2人の少女。
本能的な憎しみを克服してお守りを作るリツの努力に心を打たれる。 -
海と山の民の対立を書いた螺旋プロジェクトの昭和前期を舞台としたもの。児童疎開が舞台になっていて良く調べているかなとは思いました。が、全体的に教科書に載っている小説という感じで、よくかけているのだけど、面白いかどうかでいうと、かなり薄味。
悲惨な事件が起きてもなぜか心が揺れるような感じがしない。逆にそれが不思議だった。
技術的にはいろいろ思うことはあるのですが、プロの方に私が指摘するなど僭越でしょう。
自分の中に止めて、自作の参考にしたいと思います。 -
最初、二人の女が一人の男を取り合う話かなとおもったが、浅はかでした。
これは近代の老若男女どの立場の人間全てが読むべき道徳本でした。
憎しみを相手に向けるのではなく自分の中で戦う。
自制心。
ラストは分かりやすいが安定した着地で読み終えた。
これ、後から全8つの物語からなるうちの一冊と知った。
仕方がない、読むかw -
螺旋プロジェクトの一作らしいが、朝井リョウと伊坂幸太郎のものを読んできたが、これが今のところ一番良かった。しかしこの企画には無理を感じる、海の民と山の民の争いの物語ということであるが、このテーマが出てくると途端に物語が不自然になってしまう。本作も「この世界の片隅に」風の戦時中の疎開生活で健気に生きた少女たちの記録であり、終わりかたも「この世界」を彷彿とさせる。単体の物語としてはファンタジー要素も入った秀作だと思う。