水底のスピカ (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.58
  • (20)
  • (67)
  • (62)
  • (8)
  • (3)
本棚登録 : 570
感想 : 55
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120055751

作品紹介・あらすじ

その転校生は、クラス全員を圧倒し、敗北させた――
夏休み明け、北海道立白麗高校2年8組に、東京からひとりの転校生がやって来た。汐谷美令――容姿端麗にして頭脳明晰。完璧な彼女は学校中から注目を集めるが、些細な事からクラスで浮いた存在になってしまう……。学校祭準備で美令と友人となった、クラスで孤高を演じる松島和奈。そして美令が孤立する原因を作ってしまった、クラスのカースト上位である城之内更紗もまた、美令、和奈と深く関わってゆく。それぞれ秘密を抱える三人が向かう先に待つものは、そして美令の「私、神様の見張り番をしているの」という言葉の意味とは……。今、彼女たちの人生で、もっとも濃密な一年が始まった――。誰もがあの時を思い出す、青春群像劇の傑作! 最高に美しいラストシーンを、ぜひご堪能ください!!
「 今、私がひとりではないことが、奇跡なのだ――」

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 高校生たちの青春群像もの。

    札幌にある白麗高校に転校してきた汐谷美令という美しい高校生。
    城之内更紗が『東京の人』というあだ名で呼び始めます。
    松島和奈は美令の最初の友人になります。

    赤羽清太は美しい美令にいきなり告白をして玉砕しますが、友人の青木萌芽、和奈、更紗、美令とLINEのグループ『自由行動組』を作ります。

    美令は和奈が部長を務める百人一首部に入部しますが、毎週木曜日は清太の自転車を借りて海を見に行くという謎の行動をとります。
    また、中学の時美令は映画に出演していたという噂も流れます。
    謎の多い美令ですが、父の転勤が多く、白麗高校を卒業できるかどうかもわからないといいます。
    「私は『神様の見張り番』をしている」という美令。
    美令の言う神様とは、一体何なのか…?

    最後に美令の神様とは何だったのかが判明します。
    美令が「私は恋人とは一番にならないな。恋人と友達だったら、友達を優先したい。私、恋人は裏切れても和奈と更紗だけは裏切れない」と言い、和奈が「高校生の私たちが、一生の友達になるなんて、無理なのだろうか」と自問自答するところでは「無理じゃないよ。一生の友達になれる人はなれるんだよ」と言ってあげたいと思いました。

    ラストシーンを読むと、この三人はもう一生の友達になっているとしか思えないと思いました。

  • 「人の秘密は借金みたいなもの。連帯保証人になる覚悟はあるか?無いなら知る資格もない」
    ヤングケアラー、毒親、孤独感、トラウマ、、、、、。人の秘密はホワイトアウトやブラックアウトみたいに底が深い。

    そんな光輝く人間関係の在り方を問う高校生の青春群像劇です。  
    青春の甘酸っぱい思い出が懐かしく本を閉じました。

    装画が全て物語っています。雪下まゆさんの装画は素敵です。


  • 人に言えない秘密を抱える3人の女子高生。

    一人は痛みを隠して周りに敢えて溶け込み、
    一人は平凡を蔑み孤独を孤高に置き換え、
    一人は鎖を達観したかのように背を伸ばす。

    違いを嫌悪する心と特別を切望しする気持ち。

    水中に揺蕩う泡沫のような儚さと、
    自他を傷つける諸刃の剣のような危うさ。

    さまざまな角度に化学反応を起こして変化する、
    無数の可能性と輝きの瞬間を切り取った物語。

  • アオハル!青春!!友情!!

    特別な何者かになりたい和奈。自分は孤高だと思いクラスの皆を見下しながら高校生活を送る。
    そんな和奈だったけど、特別な魅力を持った転校生と友達になり、苦手女子だと思ってた子とも友達になり3人で過ごすうちにどんどん変わっていく。
    スクールカースト、ヤングケアラー、震災、と多々ありながら、大人でもない子どもとも違う高校生の特別な時間をいろいろ悩みながらもラストはキラキラで眩しかった。

  • 東京からきた、芸能人レベルの容姿端麗な転校生。
    心をざわつかせる美令の存在に、変わっていくクラスメイトたち…。

    他人の辛さを正確に理解することは難しい。
    その辛さを自分と比べずにいることも難しい。
    自分はもっとしんどい思いを知っているとか、
    逆にこの程度でしんどいなんて言うわけにはいかないとか、無意味な比較をしてしまう。

    大人になれば世界の多様さがわかるけど、
    学校という場所は特に比較の物差しが限られているから、クラスの中の自分、が際立ってしまう。
    この、学生時代ならではの痛々しさ。

    それぞれが抱える鬱屈を乗り越えていくラストがよかった!

  •  北海道札幌市内の高校に通う3人の女子高生の成長を描く群像劇。

          * * * * *

     スポットは美令、和奈、更紗の女子3人に当てられていますが、ヒロインは和奈で美令と更紗は準ヒロインという位置づけ。時おりクラスメイト男子の萌芽の視点が挿まれるのは、彼が和奈との淡い恋の相手だからでしょう。


     それにしても、なかなか重厚なストーリーでした。

     キャラ設定からしてよく練られている印象を受けました。特に脇を固める人物がすばらしかった。

     何と言っても、準ヒロインの2人の少女がいい。
     
     転校生の美令はミステリアスな雰囲気を持つ美少女で、超然とした態度を崩さないクールビューティ。
     更紗はクラスカーストの上位者で明るさと要領よさを持った女生徒です。
     この2人の存在感の大きさが、常に「観察者」でいようとする和奈の地味さを絶妙にカバーしているように思いました。

     さらに2人には心にのしかかる重い事がらがあります。
     美令はヤングケアラーであり、更紗は6年前に東日本大震災で被災し父親を津波で亡くした経験を持っています。
     そんな内面に影を落とさざるを得ない事情を抱えながらも、2人はそれを表に出さずに学校生活を送っているのです。
     
     ともすれば重く辛気臭い展開になってしまうところですが、そうならないのは美令と更紗に通ずるところがあるからでした。
     どちらもまっすぐで潔い。そんな芯の強さを持った2人の人間的魅力が、コンプレックスが強く殻に籠りがちな和奈を変えていきます。見事な筋立てだと思います。
     ( 目立たないながら夏月の存在も大きかった。個人的にはいちばん気になる人物なので、もっと登場させて欲しかったと思います。)

     次に、ストーリーに盛り込まれた出来事も、これ以上ないほど重要な役割を果たしていました。
     北海道胆振東部地震によるブラックアウトと猛吹雪によるホワイトアウト。実際にあったそれぞれのできごとが、物語にリアリティを与えるだけでなく、少女たちの成長と覚醒を促すポイントとなっています。

     さらに、タイトルにもなった和奈のハンドルネーム「スピカ」。
     和奈と直接関係する、乙女座や豊穣という意味あいのほかに、「他者との違いに強い拘りを持つ」という星言葉もあることを知り、乾さんの構想の緻密さに脱帽。こんな作品をもっと読みたいと思いました。

     ところで乾ルカさんは『動物のお医者さん』のファンなのですね。作品中のそんな何気ないセリフもとても嬉しかったです。また、『ちはやふる』でお馴染み「下の句カルタ」が出てきたのも笑ってしまいました。もしかして、マンガ全般が好きなのかな。

  • 高校時代の女子生徒の人間関係。
    転校生、スクールカースト、友情…。
    前作『おまえなんかに会いたくない』と似た雰囲気の作品で、学生時代を追体験している感覚もあり、さらりと読めた。

  • それぞれに秘密を抱えた3人が支え合いながら友情を育む物語。恋愛要素を極力排したのがむしろ良い。石狩の風景が目に浮かぶ綺麗な描写も秀逸。表紙絵の場面が出た時はスカッとした。

  • 何もかもがつらくて、何もかもが憎くて、何もかもが曇って見えてて。そんなあの頃のことを思い出した。
    三人の出会い、それぞれの持つ秘密と痛み、遠慮と共感と友情、そして新たなる旅立ち。
    このかけがえのない時間を彼女たちとともに駆け抜けることができて、本当によかった。
    一緒に悩み、一緒に痛みを感じ、一緒に笑った。この時間を私はきっと忘れない。

    いつも何かを探していた。今ここにいる私じゃない私になるために。何者かになりたくて、何者でもない自分が大嫌いで。でもずっと探していたんだ。私も、そしてあの頃うらやましく見上げていたあの子も。
    いつかきっと、と思いながら生きていられたのは、きっとあの子がいたから。友だちがいたから。

    今、もしかすると真っ暗闇のなかで一歩も進めなくなっているどこかのだれかにこの本を届けたい。
    傷ついて、落ち込んで、後ろを向いて過去にすがっている誰かに届けたい。
    大丈夫だよ、って言いながら届けたい。

  • 自分のことを大切に思ってくれる友達を一生の中で作っていきたい。
    誰よりも大切に思える友達を作りたいと思った。

全55件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

乾ルカ
一九七〇年北海道生まれ。二〇〇六年、「夏光」でオール讀物新人賞を受賞。一〇年『あの日にかえりたい』で直木賞候補、『メグル』で大藪春彦賞候補。映像化された『てふてふ荘へようこそ』ほか、『向かい風で飛べ!』『龍神の子どもたち』など著書多数。8作家による競作プロジェクト「螺旋」では昭和前期を担当し『コイコワレ』を執筆。近著の青春群像劇『おまえなんかに会いたくない』『水底のスピカ』が話題となる。

「2022年 『コイコワレ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

乾ルカの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×