ヘルメス (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120056871

作品紹介・あらすじ

2029年に起きた小惑星衝突の危機。すんでのところで衝突は免れたものの人々の恐怖は拭いきれず、シェルター用の実験地底都市が建造された。劣悪な環境下で暮らす実験期間は10年、被験者たちには終了時に巨額の報酬が約束されている。しかし実験終了目前、239人の被験者たちがなぜか地上に出たくないと抵抗し始めた――。『百年法』の著者が描く、緊迫のエンターテイメント長篇!

感想・レビュー・書評

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  • この物語の舞台は現在からそれほど遠くない近未来。地球の生物にとっての非常事態を踏まえて、近未来の格差社会と信仰について描かれているようだった。富と力を持つものは人類存続を目的とした実験地底都市を作り、持たないものは莫大な報酬を得るために応募する。これは小惑星衝突の危機がきっかけとなっているのだが、その先の未来では格差が明確になり、持つものにはまた別の目的もあるように考えてしまう。ちょっと穿ち過ぎだろうか?だが、エピローグを読むと実験地底都市のその先のことが描かれており、ある人物がここに出てくるのであながち間違いでもないように思う。そして、後半の運動の対立も持つものと持たないものとの格差によるもの。それぞれに何を望むかの信仰心の強さを競うかのような様相になる。現代社会でも何か非常事態が起きたら、ここで描かれるような未来になるのだろうか?

    2029年、小惑星が地球に接近することが判明し、衝突すれば地球上の生物の70~90%が死滅すると推測された。計算の結果、衝突不可避とされたが、ギリギリになって軌道が変わり衝突することはなかった。しかし、危機意識は残り、居住可能な実験地底都市を建造する。実験期間は10年。被験者は莫大な報酬を得られることで参加していたが、実験終了直前に地上に戻らないと抵抗する。

    実験地底都市に残った被験者たちとは途中から通信が途絶して、状況の分からない期間がある。この期間のことは、後に判明した事実から推測という形で描かれる。それは隔絶されたコミュニティなら起きてもおかしくない出来事だった。希望を持ちたくて残ったと思われるが、閉鎖空間で次第に苛まれていく日々は一体どんなだっただろう?希望と絶望を一身に受けたルキは想像を絶するほど辛かったのではないだろうか?地上で過ごせた僅かな日々が幸せだったことがせめてもの救いか。

    物語は2099年まで続くのだが、絶望した人は精神の拠り所を求め、希望を持った人は社会的な安定を求め、その対立は格差社会によるものなのだろう。最後は少し興ざめするように感じる部分もあったが、それは個人的に精神的にも社会的にも拠り所を強く求めたことがないということだろうか?これは諦めなのか?

  • 初めて読む作家。最初は地球に小惑星が衝突するという社会を描く極めて古典的なディストピア又はパニック小説かと思ったが、そんな簡単な内容ではないらしい。よくある衝突騒ぎまでの人間の様々な葛藤を描くのではなく、運よくパニックを回避した後の人間の挙動に注目を当てた小説。しかも、普通なら一旦衝突を回避したら希望に満ちたユートピア世界が永遠に続くと言うのが定番だったが、ここは少し捻ってくる。この様に、ちょっと切り口に工夫を加えるだけで、こんなに面白い小説ができるだなんて、SFの可能性は無限大ですね。

    些か初期設定に納得できない所がある。2029年ってもうすぐやって来るが、さすがに小惑星の軌道なんてスパコンで簡単に求められるだろう。ギリギリ直前にならなくても、衝突するかしないかは簡単に判別できると思うのだが。そんなに科学力が弱い設定なのか?そうか、これは今我々が生きている次元の話じゃないんだ。どこかのパラレルワールドの話なんだ。SFだもん、それで、納得した。

    そして、地球に寸前の所で衝突しなかったこの小惑星には2029JA1と名付けられたが、これがまた再び地球に衝突するという話が湧き上がって、再び人類を震え上がらせるなんて、ちょっと強引、虫の良すぎる設定じゃないの?そして再衝突の予想日が2099年7月27日ですって?ちょっと安易な設定、ていうかふざけてません?これって、ノストラダムスの大予言で有名な「1999年7の月」の100年後と言う事でしょう!もう忘れかけていた事柄とはいえ、流石にいくら何でも流用しすぎでしょう。確かにインパクトはあるかもしれないが、若者には全く響かないことは間違いなし。そして、2029JA1は最後に誰にも予想できない状況になる。これが人類に対して永遠に関わる訳だ。恐れ入りました。もーー、強引にも程がある。

    そう、思い起こせばノストラダムスのことは当時かなり話題になった。1999年7の月が近づけば近づく程、恐怖が日本社会を席巻しメディアもこれを煽った。この私でさえ、五島勉の本を買ってくまなく隅から隅まで読んで勉強した記憶がある。丹波哲郎の映画も見た。小松左京の「日本沈没」の二番煎じ感は拭えなかったが。そして、アンゴルモアの大将軍(大王)はどのような形で現れるのかドキドキしながら6の月を過ごしていたのが懐かしい。やがて7の月になって一日一日がとても長く感じられた。夏休みになったら、一日中テレビにかじりついて、何か大ニュースが発表されないかハラハラしていた。そして遂に、7の月は終焉を迎えた。まさしく、この小説の登場人物になった気分。だが、不思議なことにあまり怒りは湧かなかった。ああ、やっと危機を回避したんだという安堵感の方が絶対的に私を支配していた。そしてその後、私はSF小説に深く身を投じることになる。ああ、真の平和が訪れたのだ。

    この小説ではシェルターの功罪にも言及しているような気がした。核シェルターに入れる人はどの様な人なのか、どんな基準で選定されるのか?軍関係者?国会議員とその家族?一流企業の社長家族、財閥の会長家族?持っているお金の順?卑屈な人間はそう思ってしまう。そりゃ、当然でしょう。ところでその核シェルター何年持つの?様子を見るため外に出ようとしたら、海底にいたためハッチが永遠に開かないという笑い話もあった。そう言えば、地上に完全な閉鎖空間を建てて、その中で生活する人々の精神状態を解析する実際のプロジェクトをどこかの国で行っていた記憶がある。その後どうなったのかな。詳細な研究内容は公開されないのだろうか。そうだ!潜水艇の中でどれだけの期間、生活できるのかな。これはデータ得やすいかも。人間は安全が欲しい、安全がいの一番、安全だとひとたび妄信したらそれから逃れられない性質を上手く表現した小説だな。そして、この妄信こそが科学を上回る力を持つ、すなわち宗教は最強であるかもしれないという結論なのかも。だから地球上から戦争は無くならない。

    エンディングではアイロニーがスパイス以上に効いていてちょっと痛快だった。イーロンマスクは宇宙船の中で生涯を閉じるべき。これこそ本当の宇宙葬と言える。

  • 近未来もの。SF。
    実験地底都市、〈eUC3〉→ヘルメス。
    小惑星が近づいてきて、人類は恐怖する。
    地球の生物はみんな死んでしまう!と。
    不安、怯え、困惑、恐怖。
    でも小惑星は落下しなかった。
    その時の教訓として、地下都市を建築する。
    地下3000メートル。
    地下で生活をしても支障がないのか?
    実験として10年間データを取るために
    住人を募る。
    地下での生活を10年間続けてヘルメスの住人は任期を終えても地上には出たがらなかった。2年延期して欲しいと願い出る。
    地上に出るのが怖い。
    小惑星が落下して死んでしまうという恐怖から、逃れられない人達。
    まるでカルト集団のように。
    場面が変わり地上の様子。
    実験住人ではなく、医療スタッフの家族の様子など。
    任期を終えて報酬をもらい、戻ってきて欲しい。
    しかし、戻ってきたのはたった1人。
    ヘルメスで誕生したルキ。
    地上に生還したルキは短命だった。
    ストーリーはそこで終わりでも良かったのでは?と思うが、
    その場面は中盤で、まだまだ先が長かった。
    再び地球に接近する小惑星。
    世界が滅びて欲しいと願う若者たちと
    生き延びたいと願う若者たちの衝突。
    第2の月の誕生。壮大な世界観。
    そしてアメリカでは?
    繰り返す恐怖。
    すごい話だった!
    学校図書館 ◯

  • 時代を3部にわたり描いたSF。

    いろんなSF作品を組み合わせたイメージは否めないが、最後のオチが秀悦であった。

    「百年法」の記憶があるので期待したせいもあるが、内容としては少し若者向けを意識した?感じがした。

    もう少し2部を膨らませることで、また違った印象になった気もする。

  • 設定に惹かれて読む。想像の斜め上を超えてくる。ハテナと思うところもあるがぐいぐい読ませる。

  • 100年法がおもしろくてSF苦手なのについ買っちゃった

    設定がおもしろくて、第二章までぐんぐん読んだ。
    が、アバターみたいなのが出始めてから、
    リアルSFというよりファンタジーSF要素が強くなり、ハイハイハイという気持ちで読了。

    続きは気になるものの、
    気になったものは全てうそか本当かよくわかやないファンタジー要素で回収されて、なんやねんみたいな

    やっぱりsfてすきじゃないし、奇跡みたいなのは自分に起きない限り超しらける

  • 先が気になって仕方ないストーリー。
    なぜ瀬良はヘルメスに留まったのか、そこで何があったのか、ルキは何を見たのか、そして小惑星は地球に激突するのか…。解決するのは最後の点だけだけど、それに至る過程はとても面白い。
    また、報われない生活への不満を持つレンと咲の交流が最後までレンの中で大事な記憶になっていたことは嬉しかった。

    欲を言えば、瀬良(兄)のヘルメスでの話をもう少し知りたかったなあ。

  • ソウル・クリスタル実現したらいいのに。

  • 謎は謎のまま残るタイプのSF。

  • 2024年2月25日読了

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著者プロフィール

1965年愛知県生まれ。筑波大学大学院農学研究科修士課程修了後、製薬会社で農薬の研究開発に従事した後、『直線の死角』で第18回横溝正史ミステリ大賞を受賞し作家デビュー。2006年に『嫌われ松子の一生』が映画、ドラマ化される。2013年『百年法』で第66回日本推理作家協会賞を受賞。その他著作に『ジバク』『ギフテット』『代体』『人類滅亡小説』『存在しない時間の中で』など。

「2022年 『SIGNAL シグナル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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