対象喪失: 悲しむということ (中公新書 557)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121005571

感想・レビュー・書評

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  • この著作からどう研究が進んだのか、気になりました。

  • 肉親や恋人・配偶者、子ども。ひとは生きていれば必ず死別を経験する。
    私が経験した死別は、当時の私にはとても強烈であり、数年にわたってーいやおそらく一生にわたって、大きな影響を残した。まさに喪失だった。
     悲嘆に暮れる日々に大学の図書館をあてもなくさまよっていたとき、この本の背表紙が目に入った。そこには、自分がまさに経験している悲嘆と同じものが描かれており、自分の抱えている、どうしようも処理しきれない莫大な感情が、「対象喪失」のあとに起こることとしては普通のことなのだと知ることができた。当時の私にとっては、そのことだけでも大きな助けを得た気持ちだった。胸を張って悲嘆することができるようになったと言おうか…。
    近年は「グリーフケア」ということも言われており、対象喪失とその後の悲嘆に対するケアの重要性が説かれている。本書はフロイトのエピソードや分析を紹介しつつ、悲嘆がどのようなものかを事例をもとに解説する、基本的な書物の一つだと思った。

     なお、紹介されている事例は、単純な悲嘆のみならず、むしろ葛藤のある関係での喪失体験の紹介が多い。これは、そういった事例で精神神経科的な問題が起こりやすいことの表れなのだと思われた。

  • もう一度読んで、理解を深めたい

  • 最愛の人や大切なもの、かけがえのない対象を失ったときに、人の心が受けるダメージは図りしれず、耐え難い苦痛を伴う。個人的には、そのような対象喪失の苦悩に対して人間の精神は十全に防御することができず、そのような実存の危機に際するたびに、宗教的救済をはじめとする"後ろ向きの逃避"としてもよい慰めを見出してきたのではないか。

  • 小此木啓吾 「 対象喪失 」 対象喪失により引き起こされる悲哀 に関するフロイトの研究をまとめた本。対象喪失とは、愛情や依存の対象であった者の死、アイデンティティの喪失など。

    著者の主張で 驚いたのは
    フロイトの悲哀研究は、父の死を経験したフロイトの自己分析から行われているとした点。悲哀の心理プロセスを、転移、投影同一視、未開人の喪の慣習 から 紐解いている


    悲哀を避けるな 克服せよ という 父性的メッセージを感じる
    *悲しみを悲しみ、苦痛を苦痛として味わう〜人間にごく自然に与えられた心のプロセス
    *人生は対象喪失の繰り返し〜悲哀と対象喪失をどう受容するかは もっとも究極的な精神課題である


    山あらしのディレンマ
    寒さに凍えた山あらしのカップルが、暖めあおうと近づいたが、近づくほど、トゲでお互い傷つけてしまう。近づいたり離れたり繰り返して、適当に暖かく、お互い傷つけない 距離を見つけた


    フロイトの母の言葉「人間は土から作られていて、土に戻らねばならない」

  •  愛する対象を失う悲しみをカガクする一冊。本書は、愛情・依存の対象を失うこと(「対象喪失」)に対する心のメカニズムを、フロイト研究でも有名な精神科医の著者が一般読者向けに解説したものである。その内容は、精神科医として著者がこれまで診てきた患者を例に「対象喪失反応」について分析した章と、フロイト研究者として彼の精神分析理論が構築される過程を分析した章に分かれる。
     著者は、対象喪失に対しては「その悲しみや思慕の情を、自然の心によって、いつも体験し、悲しむことのできる能力を身につけること」(p.156)が大切だとする。一見すると”当たり前“の話に思えるが、実際には、その”当たり前“が非常に難しいことを本書は教えてくれる。即ち、失った対象への悲しみだけでなく、憎しみや罪意識といったネガティブな感情が生じるのは人として必然であり、そうした感情に真正面から向き合う覚悟こそが重要となる。
     本書は「悲しみ」に対する特効薬となるような記述があるわけではない。だが、そうした場面に直面した時、人の心はどのような反応を示すのかを知っておくことで、初めて人は素直に「悲しむ」ことができるのではないだろうか。

  • フロイトの「mourning work」を中心にした対象喪失の解説。

    初版79年代のため内容はやや古くさいというか全体的に「70年代知識人」と言った感じがする。良い悪いは別として。

    内容の新しいモーニングワークの本を読んだ方がよかった気もする。

  • 何かを失うということはつらいこと。

    つらいことは避けたくなるけど、きちんと向き合うことが今後の自分にとって大切なことだと教えてくれた本。

  • 小此木啓吾『対象喪失』中公新書 読了。大切な何かを失う悲しみをどのように乗り越えるか。やや昔の精神分析論だが、いつの時代も変わらない重大なテーマ。現代社会においては悲哀を排除しがちだが、対象喪失を受容し克服していくには、悲しみ苦しむ、その自然なプロセスを踏むことこそが必要である。
    2017/06/12

  • 一見難しい本に思えるが、実例を用いて説明しているので、とても分かりやすく読みやすい

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著者プロフィール

1930年東京府生まれ。日本の医学者・精神科医、精神分析家。学位は、医学博士。1954年慶應義塾大学医学部卒業。1960年「自由連想法の研究」で医学博士の学位を取得。慶應義塾大学環境情報学部教授、東京国際大学教授を歴任。フロイト研究や阿闍世コンプレックス研究、家族精神医学の分野では日本の第一人者である。著書はいずれも平易な記述であり、難解な精神分析理論を専門家のみならず広く一般に紹介した功績は大きい。2003年没。主な著書は『精神分析ノート』(日本教文社,1964年)、『モラトリアム人間の時代』(中央公論社、1978年)、『フロイトとの出会い―自己確認への道―』(人文書院、1978年)など。

「2024年 『フロイト著作集第7巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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