巣鴨プリズン: 教誨師花山信勝と死刑戦犯の記録 (中公新書 1459)
- 中央公論新社 (1999年1月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121014597
感想・レビュー・書評
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第二次大戦後、連合国軍によつて戦犯とされた人々が収容された「巣鴨プリズン」。この施設で多くの死刑囚を看取つた、初代戦犯教誨師の花山信勝の視点から、戦犯たちの心の軌跡を辿る一冊であります。
1945(昭和20)年、GHQに接収された巣鴨拘置所が巣鴨プリズンと改称され、東条英機・広田弘毅らA級とBC級と称される戦犯たちが強制収容されるのであります。翌昭和21年1月の天皇人間宣言を経て、2月に東大助教授(のち教授)の花山信勝が巣鴨プリズン教誨師に就任します。かかる経験は過去に例がないので、花山教誨師は迷ひ戸惑ひ、苦悩の日々を送りました。どんな講話をすればいいのか、死刑台に向かふ囚人に、何と伝へるべきなのか。
花山教誨師は、BC級の尾家刢(おいえ・さとし)といふ元陸軍大佐の遺書に衝撃を受け、爾後死刑囚との面談時にそれを朗読する事にしました。特段に立派な内容ではなく、むしろ嘗ての部下を中傷する内容があるなど、通俗的で生への未練を感じされるものなのに、花山教誨師はそれを朗読することで自分の意を伝へんとしたのです。
即ちこの東京裁判が、あくまでも戦勝国側による一方的な内容である事。それなら恨みつらみがあるのは当然である、凡夫でいいのだと。そして尾家の遺書には「軍人無常」「戦争無用」の思想が感じられ、遺書を朗読する事でそれを伝へたいとの思ひがあつたさうです。
彼はプリズン内での事象を他言できませんので、黙して語らずの人だつたやうです。自分の発言が政治利用されるのを警戒したとも言はれてをります。ゆゑに、受刑者たちの間では「冷たい」「親身ぢやない」などと思はれ、評判は今一つだつたらしい。
花山の後を継いだ二代目教誨師の田嶋隆純といふ人は、受刑者と共に涙し、減刑の嘆願運動をした事で人気があつたので、比較され余計に評価を落とした面もあるでせう。
元元花山教誨師は、仏教学者であり浄土真宗本願寺派の僧侶ですので(学者としての側面が強いが)、本書でも仏教関係の記述に多く割かれてゐます。専門用語が多く、無知なわたくしは理解するのに些か時間がかかつてしまひました。本書の目的は巣鴨プリズンの歴史でも東京裁判の記述でもなく、先述の通り教誨師と戦犯たちの心の軌跡を辿る書物ですので致し方ありません。
花山教誨師については、色色と毀誉褒貶あるやうですので、他の図書も覗いてみたく存じます。詳細をみるコメント0件をすべて表示