桂太郎 - 外に帝国主義、内に立憲主義 (中公新書 2162)
- 中央公論新社 (2012年5月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121021625
作品紹介・あらすじ
日本最長の八年に及ぶ首相在任期間を誇る桂太郎。三度の政権下、日露戦争、韓国併合と、外には帝国主義政策を断行、内には伊藤博文らの次世代として、最後には政党結政に動く。山県有朋の"傀儡"と、低く評価されてきた桂だが、軍人出身ながら、軍の予算を抑制、国家全体の利益を最優先し、緊縮財政を追求し続ける。時代の制約の中、「ニコポン」と呼ばれた調整型政治家が求めたものは何か-。その全貌を描く。
感想・レビュー・書評
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本書は明治後期から大正にかけて活躍した政治家「桂太郎」の詳細な研究書である。
現在ではあまり知られているとは言えない政治家と思うが、本書を読んで、幕末から明治の英雄たちに負けない「大政治家」であると思った。
本書によると、「桂太郎」は歴代の総理大臣としては在任期間最長の2886日(約7.9年)を担い、そのキャラは「ニコポン」と言われた柔軟な政治手法を得意としながら「日露戦争」と「韓国併合」という国家の命運をかけた重要な政治課題を遂行したという。
いやいやこれは、日本の「中興の祖」といっても良いような「大政治家」ではないか。
そして、本書で紹介されている「桂太郎」の経歴と当時の日本の政治・軍事の進行の紹介は、実に詳細かつ緻密である。
当時の日本が、国際関係の世界的再編の中で「帝国主義的国策」にどのような経過でつき進んでいったのかがよくわかる。
しかし、昭和の時代の我が国だけでも300万人以上の戦死者を出した「昭和の戦争の破局」を思い起こすと、明治から現在までの歴史でどこで誤ったのだろうとの思いを持つが、本書での「日露戦争」や「韓国併合」の歴史を読んでも、よくわからないとの感想を持った。
これは、「歴史知識」の問題ではなく、「歴史認識」の問題なのだろうか。
本書で紹介されている、本来なら「偉大」といっても良いほどの経歴を持つ「桂太郎」だが「スペシャルドラマ・坂の上の雲」でも完全に脇役だった。
日露戦争という勝った戦争には英雄がいるが、その後破局を迎えた「帝国主義政策」を推し進めた主人公の歴史的評価は高くはないということなのだろうか。
そして本書でわかりにくいのは、当時の日本の国家体制についてである。
「元老」というこの時期のみに存在した役職や、現在とは全く違う黎明期の「政党」がくんずほぐれつして展開する事態は、その持つ意味と「時代の空気」がわからないためにイメージしにくいものとなっており、よほどこの時代に興味を持つ読者以外は、なかなか読み通すことが困難な内容になっているように思える。
新書の分量で、この時代の全てを考察することは、ちょっと無理があるのかとも思えた。
この時代を鳥瞰するという意味では良書であると思うが、時代を理解するという意味ではちょっと不満が残る書である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
特に目新しい論点はなかったように思いますが、桂の生涯についてそれほど詳しく知っていたわけではなかったので、その意味では勉強になりました。
一見、柔軟かつ無節操なようでいて、実は緊縮財政と対外的拡張主義という哲学を持っていた桂という政治家をおもしろいと思いました。長州出身でありながら、特に後半生において、藩閥の枠を越えた行動をするあたりは、彼の政治的後ろ楯であった山県よりも、むしろ伊藤に近いように思います。また、そんな桂が「閥続打破」を掲げた第1次護憲運動によって失脚する巡り合わせには、何とも皮肉なものを感じました。 -
軍人として日本の軍制を整え、政治家として日露戦争に勝利、韓国併合を成し遂げ歴史に名を刻んだ桂太郎。日本最長の通算八年間の首相在任を果たしながら、今や一般には半ば忘却された政治家の歩みを余すところなく書いた伝記。新党の設立に失敗し、首相の座を追われてから、時を置かずこの世から去った。桂が生きていたら、日本の歴史は変わっただろうか、筆者は、変わりはなかっただろうと分析する。私も考えを同じくする。ただ、もう少しこの希代の調整型政治家の姿を見ていたかったと感じた。
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千葉功 『桂太郎』(中公新書)
以前、小林先生の桂太郎を呼んだ事があるので、こちらも読んでみました。
紙幅の関係もあるのか、前半生が飛ぶように過ぎていきました(笑)
半分以上が日露以後(首相就任以後)で構成されています。
軍人というよりも政治家としての側面が強い桂の生涯が垣間見る事ができます。
山縣閥として目されている桂を取り扱っている割りには、山縣との関係よりも伊藤系との関わりや大蔵系官僚との関わりについて書かれていました。
桂が自身の後継者に誰を選んでいたかなど、高明と後藤のところはとても面白かったです。
統一党の話は小林先生の本にも書いていなかった(多分;;)ので、そこも。
それにしても、ここでもやはり桂太郎は楽観的と書かれているのには笑いました。
ここまで言われるのなら、やはり楽観的だったんだろうなあ…なんて(笑) -
大正政変など晩年のイメージの悪さから、あまり評価されていない桂太郎。しかし「なぜ政権はかくも長く続いたのか」と帯にもあるように、日本最長の首相在任期間を誇る。とくに本書では、日露戦前、戦中、戦後における桂の政治的歩みを取り上げ、再評価を試みている。。軍人から政治家に転身し、首相でありながら大蔵大臣を兼任し、緊縮財政を志向。軍などの個別利益よりも国家という全体利益を優先した。財政家としての桂を評価している。蛇足ながら、政治家の自伝との距離の取り方が勉強になる。
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個人的には桂のイメージが変わりました。確かに自分より上の権力にすがる(天皇、山県)のイメージは強くあり、それについての記述もありましたが、意外に寛容な人なのだという印象も受けました。
若干記述が難解なきらいはありますが、これほどの長期政権を築いた人物はいないので、何故長期政権を築くことが出来たかを考えながら読むと良いと思います。 -
ページ数の制約もあってか日露戦争までの内容は少し物足りないが、
日露戦争後の国政については桂という人物が何を問題視し、
どう取り組んだかについて興味深く読むことができた。
桂園体制において桂が目指したことが分かりやすく描かれており、
桂の内心が伺える。