人民元は覇権を握るか - アジア共通通貨の現実性 (中公新書 2219)
- 中央公論新社 (2013年5月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121022196
作品紹介・あらすじ
近年、ユーロ圏の財政・金融危機が取り沙汰される一方で、国際通貨であるドルの脆弱性もささやかれている。依然ドルの影響力が大きいアジア圏では、経済成長いちじるしい中国の人民元が、今後、基軸通貨として擡頭してくるだろう。しかし人民元の覇権は、日本経済を衰退させる危惧があるのみならず、アジア諸国の安定成長を阻害しかねない。日本の通貨戦略はどうあるべきか。アジア経済の今後を占う。
感想・レビュー・書評
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「覇権」の反義語は「従属」だ。「日本は××国に従属している=属国だ」という言説には刺激的な響きがあるし、強い反感も招く。しかし現在、こと通貨経済においては日本はおろか、世界中の殆どの国はアメリカの属国なのだと言われたらどうだろう。
貿易通商において「ドル」という特定の通貨を基準にせざるを得ず、獲得したドルを次の取引に備え一定限度手元に置き、これを米国債等に投資することでアメリカの巨額の経常赤字をファイナンスする。まことに甲斐甲斐しい属国ぶりというほかないが、著者はここで陰鬱なアジアの将来像を提示する。このまま何もしなければ、アメリカに代わってアジアでの通貨の覇権を握るのは中国であり、その時人民元に円をペッグするわけには行かない日本は極めて困難な状況に追い込まれる、と。
そのような苦境を回避するには一刻も早く(人民元が国際性を獲得する前に)日本主導でアジア共通通貨体制を構築すべきなのだが、残念ながら通貨危機を生々しく記憶するはずのアジア諸国にも、最もインセンティヴを有するはずの日本にもその危機感はない。以前、日韓関係悪化を機に両国間のスワップ協定が延長されなかったことがあるが、そのような近視眼的な意地の張り合いを理由に通貨・金融協力の枠を狭めることが将来いかに自分の首を絞めることになるか、きちんと認識する必要があると思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
基軸通貨としてのドルによる体制からユーロ、そして本書でいうアジア圏の共通通貨の構築に至る構想の説明がなされています。東アジアと東南アジアの成長は世界を席巻することに異論はなく、実物経済の発展は言うまでのないのですが、加えて筆者は通貨面におけるアジア圏通貨の構築のよってさらなる発展が期待できると説きます。
政治的イニシアチブと経済格差の是正、地域共同体としての価値観の共有などを欠いたアジア圏では確かに困難な構想であると思います。中でも中国の経済的台頭によって人民元を中心とした共通通貨になりえる可能性がある。だが、現在の中国のカントリーリスクや資本取引の自由を欠いた状態では、人民元中心には危ういと言わざるを得ない。 -
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