日本鉄道史 幕末・明治篇 - 蒸気車模型から鉄道国有化まで (中公新書 2269)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022691

作品紹介・あらすじ

一八五四年、来航したペリー提督は蒸気車模型を幕府に献上。以来、日本は鉄道時代に突入した。幕末の外国人たちによる敷設計画に始まり、新橋〜横浜間の開業、官設鉄道を凌ぐ私設鉄道の全盛期を経て、一九〇六年の鉄道国有化と開業距離五〇〇〇マイル達成に至る半世紀-。全国的な鉄道網はいかに構想され、形成されたのか。鉄道の父・井上勝をはじめ、渋沢栄一、伊藤博文などの活躍とともに日本鉄道史の草創期を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、1854年二度目の来航を果たしたペリーが蒸気車模型を幕府に献上してから、1906年鉄道国有化法が通るまでの日本の鉄道史を書いた本です。私は鉄道よりも明治時代の産業発展に興味があったのですが、まさに鉄道の目線を通じた産業発展および社会の変化が、当時の新聞記事の紹介など、わかりやすい形で示されていました。
     特に鉄道が地域にもたらした影響が極めてリアルに書かれていて興味深かったです。村の産業全体が壊滅状態になるところもあれば、日光のように観光客数は増えたものの(鉄道によって日帰りできるようになって)宿泊客が減少すると言ったように、当時の日本人に与える影響が全国津々浦々いかに大きかったか、とてもよくわかりました。
     またこれは本書の主題ではないのですが、改めて鉄道(線路と車両)というシステム自体を考え出したイギリス人の発想力というかイノベーション力はすごい。急速にキャッチアップしていった日本もすごいが、改めて本書を読んでイギリスもすごいと感じました。本書を読んで、日本の鉄道史自体の理解も深まりましたが、改めて別の興味もわいてきたので満足しています。

  • ===qte===
    鉄道150年 未来への課題
    人口減で採算悪化続く/赤字路線の戦略明確に 山田剛
    2022/11/21付日本経済新聞 朝刊

    近代国家建設を後押しし戦後復興を支えた日本の鉄道は開業150周年を迎え、新幹線はさらに延伸を続けている。だが、人口減少による経営悪化やローカル線対策などの問題はより深刻化してきた。現代につながる鉄道の歴史と未来について考えてみよう。

    JR九州の初代社長として関連事業の拡大を進め、株式上場への道筋をつけた石井幸孝氏の『国鉄―「日本最大の企業」の栄光と崩壊』は、新幹線という最高峰の鉄道技術に到達した巨大官僚組織の盛衰を内部からの視点で描く。

    国境問題や食糧自給の観点から北海道の路線維持を強調。「コンテナ新幹線」の導入やJR各社が走らせる新幹線を一体運用する半官半民の「新幹線会社」設立など、未来への提言も盛り込む。国鉄は38年で使命を終えたが、「民営化後35年が経過したJRも体制を見直すべき時だ」という。

    沿線人口密度と経営の相関関係を分析した石井氏は「2050年にはJR東日本、西日本の鉄道事業はほぼ利益が出なくなる」と予測。しかも新型コロナウイルス禍は時代の変化を加速させ、鉄道各社が鉄道以外で稼ぐことはもはや不可欠になると指摘している。

    小牟田哲彦著『「日本列島改造論」と鉄道』は、1972年に田中角栄通産相(当時)による政策提言書が示した鉄道政策を読み解く。主要都市を新幹線で結んで産業や人口の地方分散を目指すとした本書は、直後に田中氏が首相となった話題性もあり、1年で91万部を売るベストセラーとなった。

    田中政権は北海道、羽越、奥羽、中央、四国、東九州など12の新幹線基本計画路線を策定。国が将来建設する新幹線として法的に位置づけたが、このうち10路線までが「改造論」の中身と一致している。

    高速道路や航空網の整備もあって、新幹線はむしろ東京一極集中を加速させたとの見方も多い。「地方のためなら鉄道は赤字を出してもよい」とした田中氏の主張も、最近まで受け入れられていた。

    『後藤新平の「仕事」』(藤原書店編集部編)では、南満州鉄道(満鉄)や鉄道院の初代総裁を務め、鉄道の近代化に尽力した後藤氏の業績をたどる。

    東京―下関間に広軌の新線を建設し高速列車を走らせるという壮大な計画は、地方での鉄道敷設を優先する政治勢力に押されて実現しなかったが、後藤氏の薫陶を受けた十河信二・国鉄総裁らの下で東海道新幹線として結実する。

    鐵坊主著『鉄道会社 データが警告する未来図』は、巨費を投じて復旧させた只見線の将来やリニア中央新幹線建設に伴うトンネルの湧水、静岡空港駅建設など様々な問題を「鉄道解説系ユーチューバー」として知られる筆者が中立的視点から解説する。

    佐藤信之著『鉄道会社はどう生き残るか』は、諸外国の鉄道経営の現状についても詳しく解説。JR東日本などが英国の鉄道事業に参画するなど新たなビジネスチャンスが生まれた事例を紹介する。

    富山ライトレールやえちぜん鉄道、宇都宮市で建設が進む次世代型路面電車(LRT)など、地方都市で鉄道が交通の主役として生き残る可能性も示す。一方で、赤字に陥った地方鉄道を国に押し付けるという考えには疑問を呈し、「民間と公共がやるべきことを明確にする必要がある」と提言している。

    佐藤充著『明暗分かれる鉄道ビジネス』は、JR各社や大手私鉄について営業収益や利益、事業構造など経営面の指標を分析。東海道新幹線というドル箱を抱えるJR東海の高収益構造や、営業収益の6割を鉄道以外で稼ぐJR九州の多角化ぶりがわかる。

     【さらにオススメの3冊】
    (1)『日本鉄道史』(老川慶喜著)…陸(おか)蒸気からの歴史たどる。
    (2)『大日本帝国の海外鉄道』(小牟田哲彦著)…海外の鉄路は戦前の観光ブームを後押しした。
    (3)『よくわかる最新鉄道の技術と仕組み』(秋山芳弘監修)…経営問題も解説した入門書。
    ===unqte===

  • ペリーの2度目の来航の際、蒸気機関車の模型を将軍へ献上し、横浜の応接場の裏で組み立て、運転して見せた。その数か月前、長崎にプチャーチンが来航した際にも、佐賀藩の精錬方が艦内で蒸気機関車の模型を見学しており、その2年後にはアルコールを燃料として走らせる蒸気機関車の模型を完成させた。

    長州ファイブの1人である井上勝は、ロンドンで鉄道技術を体系的に学び、鉄道専門官僚として日本の鉄道ネットワークづくりと鉄道技術の自立化に生涯をささげた。

    1865~70年の日本の輸出額は、生糸が52%を占めており、集散地の上田や前橋に向かう鉄道を敷設すれば、輸出が増大すると考えられた。

    日本初の私鉄である日本鉄道は、岩倉具視をはじめとした華士族層を主唱発起人として特許を受けた。83年に上野~熊谷間、84年に前橋までを開業すると、生糸の輸送に大きく貢献した。85年には品川から東京西郊を迂回して板橋を通り、川口に達する品川線が開業し、上毛地方と横浜が鉄道で結ばれた。

    81年に、明治14年の政変で大隈重信が失脚すると、松方正義が大蔵卿に就任した。81~85年の松方財政の時代には、貨幣制度の整備と通貨価値の安定による金利低下の結果、投資意欲が刺激された。85~89年にかけて、会社の数は3倍に増加した。中でも、日本鉄道の業績が良好なのを受けて、鉄道業の次に紡績業、さらに鉱山業と移る形で、これらの増加が著しかった。

    89年に東海道線が全通し、91年に日本鉄道が青森まで開通した。92年には、中央線、北陸線、北越線、奥羽線、山陽線、九州線などを拡張する鉄道敷設法が成立した。

    90年の恐慌後、94~95年の日清戦争後に鉄道熱は再燃し、北海道鉄道、日本鉄道、山陽鉄道、関西鉄道、九州鉄道をはじめとする私設鉄道が著しい発展をとげた。

    1904~05年の日露戦争後、鉄道の統一、貨物運賃の低廉化、植民地鉄道と内地の鉄道の一体化の視点から鉄道の国有化が主張されるようになった。06年に鉄道国有法が公布され、五大私鉄をはじめとする17社が買収された。国鉄のシェアは、開業距離で32%から91%、輸送人キロで29%から91%に増加した。

  • 所々、時間が入り乱れてはいるが、全体的に時間の流れに沿っているので、鉄道と社会の変遷が対比して読むことができた。
    何より、日本最初の鉄道計画が東京・京都間と、京都・敦賀間であったことに驚いた。

  • <目次>
    第1章 鉄道時代の到来 ペリー来航から廟議決定へ
     ? 「交通革命」の渦中で
     ? さまざまな計画と主導権争い
     ? 鉄道敷設の廟議決定
    第2章 「汽笛一声」からの道のり 鉄道技術の自立
     ? 開港場路線の実現 東京〜横浜間鉄道
     ? 関西圏を結ぶ 京阪神間鉄道
     ? 海運網と連絡する鉄道 大津線と敦賀線
     ? 日本人技術者の養成
    第3章 東海道線の全通 東と西をつなぐ幹線鉄道
     ? 東海道経由か中山道経由か
     ? 中山道鉄道の敷設
     ? 東海道経由へのルート変更
     ? 全通とその余波
    第4章 私設鉄道の時代 鉄道熱と鉄道敷設法
     ? 投資対象としての鉄道
     ? 私設鉄道の勃興
     ? 列島縦貫線の延伸をめざして
     ? 鉄道敷設法体制の成立
    第5章 鉄道開通がもたらしたもの 生活と社会の変容
     ? 旅と行楽
     ? 変わりゆく地域と産業
     ? 広がる地域格差 「裏日本」と東北
    第6章 国有鉄道の誕生 帝国鉄道網の形成
     ? 鉄道敷設法の公布以降
     ? 国有論の高まり
     ? 自由主義者の「独占」批判
     ? 国有鉄道の誕生
    あとがき



    2014.06.15 新書巡回をしていて見つける。
    2014.07.07 読了

  • 鉄道博物館で鉄道史の年表を見て、国有鉄道と私鉄の関係や成り立ちを、理解することができずこの本を手に取った。
    ペリーによる蒸気機関車模型から、人の乗れる鉄道の開通、各地に広がる鉄道、そして国会での強行採決による幹線の国有化までの流れを理解することができた。

    日本の鉄道の産業発展への貢献度が大きく、人々の生活リズムを分単位、秒単位へ変化させていった、現在の鉄道にも通ずる功績はこの時代から始まったのだと実感できた。

  •  近代日本の交通・流通史の第一人者である著者によって語られた鉄道を軸とした日本経済の通史。それだけに,単なる鉄道の経営・技術開発史ではなく,外交や出資,社会生活との関係性をも記している点で,鉄道ファンでなくとも親しみやすい。
     従来,明治日本経済史における鉄道の役割は,新橋―横浜間の開通に始まり,殖産興業期における「開港場路線」としての限界,松方デフレを経て企業勃興期における鉄道建設ブーム,明治23年恐慌によるその終焉,日露戦後経営期の鉄道国有化と,主に明治政府による経済政策の変遷にあわせて段階的に描かれてきた。しかし,本書ではその間隙を縫うかの如く,東と西をつなぐ幹線鉄道としての「中山道鉄道の敷設」の意義や,鉄道敷設法体制下における小規模私設鉄道の濫立と広軌鉄道問題などに焦点を当てることで,明治期の鉄道史を連続的に表すことに成功している。
     こうした連続的な明治鉄道史像を描写することによって,当時の人物に対する評価も変化してくる。これまで「長州ファイブ」(20-21頁)の中では「いぶし銀」的存在だった鉄道庁長官・井上勝は,井上馨や伊藤博文らを脇役へ追いやって,「鉄道のテクノクラート」(144頁)として主役の座を勝ち取っている。また,渋沢栄一は,「金本位制採用論争」に続いて,大蔵省の阪谷芳郎ら鉄道国有論賛成派に対する反対論を唱えるが,結局のところ日露戦後期には国有化を主張するように転換してしまう(193-195頁)。こうした鉄道に携わる人間模様も活発に語られているのが,本書の面白さだといえよう。
     ただ1点気になったのは,97頁(初版)の記述である。高崎―横川間の官設鉄道が1885年10月に開業したことで,途中の磯部駅には湯宿が軒を並べており,「外務卿の井上馨らが別荘を建て,三菱の岩崎弥太郎もしばしばこの地を訪れるようになった」と書かれているが,弥太郎自身は同年2月7日に没している。おそらく,岩崎弥之助の間違いであろう。

  • 文字通りに「蒸気車模型から鉄道国有化まで」の状況が綴られている。非常に興味深い。
    この「明治時代の話し」で少し驚くのは、“鉄道”に対して“海運”が「競争相手」的な位置に在ったことや、現在では想像し悪い程に大きかった鉄道の“存在感”だ。そして「分単位の運行」が行われる列車の故に、「日本人の時間感覚」が変わって行ったという事実である。
    本書は文字通りに“温故知新”という感じがする。なかなかにお薦めだ!!

  • 日本鉄道発展前半満鉄以前までの通史。明治の鉄道開通から国有化までの軌跡が描かれる。1906年に鉄道国有化なんていうことがあったとはつゆも知りませんでした。

  • 近代化していく中で鉄道が敷設される過程や、社会的経済的な影響が紹介されている。鉄道萌芽の時期は、いわゆる開明派官僚である大隈重信大蔵兼民部大輔、伊藤大蔵兼民部少輔がイギリス支援の下で推進していくことになる。
    イギリス支援時に日本の鉄道路線の狭軌採用が決定した事実は恥ずかしながら初めて知った。
    鉄道敷設に尽力した人物として井上勝が紹介されている。井上はいわゆる「長州ファイブ」として知られる人物であり、イギリスで鉄道技術を学んでいる。

    日本の鉄道敷設でまず検討されたのが、1869年に東西両京間の鉄道敷設である。1870年からはモレルが東京~横浜間を測量開始し、二年後には新橋~横浜間の仮開業までこぎ着ける。その後、1874年には大阪~神戸間の開業、三年後には京都~大阪間の開業と徐々に敷設距離を伸ばしていく。
    東西両京間鉄道も当初は中山道ルートを採用していたことも意外であった。

    政府だけ敷設を進めるのは困難であったため、私設鉄道を認めていくことで鉄道敷設を促進させた。その代表例が、1881年設立の日本鉄道会社であった。その後、松方デフレからの企業勃興が起こり、私設鉄道が官営鉄道を上回っていくことになる。
    しかし、一方で政府内部では鉄道国有化という意見が出始め、将来的な鉄道国有を匂わせつつも、私設鉄道を容認する鉄道敷設法が出される。私設鉄道は当時、小規模鉄道会社の分立経営状態が続いており、経営も不安定であった。尚且つ、路線も分立しているため運輸もきわめて不便であり、統一した鉄道経営が望まれ始めてきた。
    こうした流れの中での鉄道国有化であるということを本書はとても明快に示してくれており、交通史門外漢の小生にも分かりやすかった。

    また、鉄道による地域格差(有名な「裏日本」の問題など)も紹介されており、鉄道による社会に与えた影響も紹介されている。

    また、鉄道萌芽の時期の鉄道敷設に関して、郡司的理由というよりも経済的理由が優先されていたという事実も意外であった。

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著者プロフィール

立教大学経済学部教授。経済学博士。前鉄道史学会会長。
1950年埼玉県生まれ。72年立教大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了、博士課程単位取得退学。

「2015年 『⑩JR・私鉄・運輸 2016年度版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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