人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書 2388)
- 中央公論新社 (2016年8月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121023889
感想・レビュー・書評
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本書の主題を一言で言えば、経済成長は人口の伸びとは関係ない。ゆえに人口が減少するから経済が必ず縮小するとは限らず、イノベーションによって1人あたり所得が増えれば経済成長も可能である、というものです。
まず理屈としてはそうだろうな、確かに100%衰退するとは限らないだろうなとは思いましたが、本書の説得力があったか、と言われるとそこは微妙でした。まず本書の主張の大前提が過去の経済学の知見であること。ケインズ、シュンペーター、マルサスなどの主張が織り込まれているのですが、実は足元で起こっていることはこれまでの経済学のフレームでは説明できないことかもしれないということです。本書では人口減少だけがトピックになっていますが、AIやIoTといった情報技術の発展が同時に起こっており、これらの現象はわれわれを別の次元の社会に導いているのかもしれません。つまり18世紀の産業革命が近代経済学の生みの親だとすれば、現在の情報通信革命は、今の経済学が前提としている多くの「あたりまえ」を覆し、全く異なる経済学の誕生を望んでいるのかもしれないということです。
産業革命時の英国は、国力を測るのにストックではなくフローで計測すべきだと考えましたが、これは当時画期的な発想で、それまでは国が蓄積している財貨(ストック)の量が国力を表す指標だと考えられていました。現在のわれわれはGDP統計に代表されるフローこそが国力をあらわす指標だと固く信じていますが、100年後の人類からすれば「何を馬鹿なことを」と思われるようなことなのかもしれません。そういう感覚がうっすらとあるものですから、本書のようにいわゆる伝統的な経済学者の論考だけを持ってこられても、(確たる反証はないのですが)どうしても心の底から納得できない自分がいました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本書は日本経済への悲観論に対して、主にシュンペーターのイノベーション(新結合)を中心にした解決を紹介しているように見えた。
オビに「悲観論を乗り越える」とあるが、「悲観論」を「(能動的)ニヒリズム」と読み替えたほうがわかりやすいと思う。なぜなら「悲観論」のもう一端は「楽観論」となってしまうので。楽観論という語句が与えるフワフワした印象は、本書による「日本経済の悲観論への批判」という性格を表していないと感じる。
また本書全体を見ると、結びの4章では、副題にある通り「長寿、イノベーション、経済成長」について著者の主張が明確に書かれているものの、新書サイズという点で割り引いてもかなり物足りない結論に感じる。
本書を雑にまとめると「単に経済成長という数値を高めることを目的としたばかりに、マルサス、アダム・スミス的に捉えすぎて悲観的にならざるを得ない状況だが、様々な数字から見ると先細りという帰結に限定することはできない。また経済成長について視点を転じるためにスチュアート・ミル、マンデヴィル、とくにシュンペーターの視点からも捉える必要があるのではないか」という感じか。
ベタといえばベタな内容。 -
まさしく人口と経済の関係性を説いた書。
歴史的に過剰人口が問題だった事に触れ、マルサスの「人口論」やリカードの自由貿易論、ケインズの人口減少による投資・需要減少論、ビクセルの最適人口論、ミュルダールの子育て支援論をあげる。一方日本では人口減少と急速な高齢化によって社会保障・財政への負荷や地域社会の消滅(地方消滅)が指摘されている。ただ経済成長に関しては労働生産性(つまり資本蓄積と技術進歩・イノベーション)増加でどうにかなると語る。労働力供給と生産性向上、消費財の普及と人口移動による世帯増加が高度成長の源泉だったことをデータも交えて振り返り、4次産業革命でのAI普及でもイノベーションが鍵になることを述べている。
豊さの中で富裕層の出生率が低下するのはギリシャもそうらしいが、人口の原理とは裏腹に平均所得上昇と出生率低下、平均寿命の延びがセットで来た。平均寿命の話で、都市化の進展が寿命に悪影響であることや戦前日本の所得不平等→乳児死亡率(所得と相関)高→平均寿命短の関係を(寿命)ジニ係数を使って明らかにしたり、戦後日本は所得向上・医療改善・皆保険によって寿命を勝ち得たことを示した。ソ連の話はトッドと関係がありそう。最終章では経済(集団的物資代謝→贅沢によって加速・蜂の寓話)と経済成長(GDPという価値点数的指標の成長)について語る。先進国の成熟経済は需要の飽和(ロジスティクス曲線)に常に晒され、成長率低下圧力がかかっている。
筆者はシュンペーター的なプロダクトイノベーションを推す。ミルのゼロ成長論からの所得平等・定常状態幸福論には、筆者は江戸時代の栄養不足や災害対応を用いて鋭く反論する。最後に筆者は、そのような経済成長も平均寿命の延長に帰着すると主張する。経済成長がいいかどうかはもっと生きたいかという死生観と関わってくるのだろうと結論付けて終わる。
流石東大教授といった感じで文章も分かりやすくデータの繋がりもしっかりしていて読みやすかった。ただ一般向けということでやりにくさは感じた。平均寿命と所得の関係などは非常に興味深かったので詳しい本があれば読んでみたいと思う。戦前日本については戦死者や災害死の割合、そもそも日本を先進国に入れて議論していいのかという話もある。一人当たりの所得などを鑑みずに議論を展開しているのは紙幅の問題もあるだろうが、尽くされていないと感じた。題名通り日本経済と人口に絞って書いても良かったとは思う。 2021/2/6 -
人口と経済は切っても切れない関係だと思うが、労働人口の増加と生産性の劇的な改善により、これを乗り越えるべきだというのは賛成。
具体案がないところが経済学者らしい。 -
人口減少が日本経済の衰退になるか。
これは、難しい問題である。と私自身も感じてきた。
この本によると、人口減少は必ずしも日本の衰退には繋がらないとのこと。
イノベーションを起こすことで、成長も可能とのことだった。
一部賛成するが、やはり人口の維持は必要な気がする。
疲弊する地方、いなくなる人口。経済の分野では必ずしも必要ない部分になるのかもしれないが、私たちは人間である以上、活気が必要だ。人間としての情が必要だ。と感じた一冊。
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人口減少は重大な問題ではあるが、経済学の視点に立って、人口減少ペシミズム(悲観主義)への警鐘を鳴らした本。グラフの読み取り、資料の分析方法も勉強にある。
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人口問題の学術的入門書。人口問題を解決するのは民間企業(民間法人)である…らしい。社会のために貢献しなくてはならないか。
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人口減少、市町村消滅危機と将来に対して、ペシミズムに考えがちな現在に対しての一つの提言が成る程と思える説得力がある。
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図書館本。うーん、予測小説で分かりやすく説明してくれてるのはいいけど、ちょっと作者さんと考え方が違う感じがして、読んでて違和感があった。