欧州複合危機 - 苦悶するEU、揺れる世界 (中公新書 2405)
- 中央公論新社 (2016年10月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121024053
感想・レビュー・書評
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第一次世界大戦前のバルカン半島が「ヨーロッパの火薬庫」であったように、今ではウクライナが現代版「火薬庫」になっていますね。
この本を読んで、今現在、進行しているウクライナ情勢の背景を垣間見ることができました。
しかし、ロシアの思惑ばかりが進行しているとは一概に言えず、EUをはじめとする国々の利害が錯綜していると思われました。
それはともかく、早く戦闘が終わることを願っています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ユーロ危機、欧州難民危機、ウクライナ危機やパリ同時テロ事件といった安全保障上の危機、イギリスの国民投票によるEU離脱決定という、2010年代のEUを襲った複数性、連動制、多層性を持った危機を「欧州複合危機」と捉え、EUが大きな分岐点にあることを指摘した上で、それぞれの個別の危機を振り返るとともに、欧州複合危機の背景や構造を歴史的、政治学的に分析し、今後の展望を示している。
本書では、歴史的には、EUは、ドイツ問題と東西冷戦の解決の手段として形成されてきたが、現在のEUは「問題解決としてのEU」から「問題としてのEU」になってしまっていることが指摘される。そして、それを読み解くキーワードとして「アイデンティティと連帯」、「デモクラシーと機能的統合」、「自由と寛容」、「国民国家の断片化/再強化」が挙げられている。特に、複合危機に対処するためには、機能的にEUを強化する必要があるが、それを支えるEUの民主的正統性が稀薄であるために、機能強化が進まないという悪循環に陥っていることが強調されている。一方、危機に見舞われても生き残るEUのしぶとさについても、EUの権力性の点などから言及されている。そして、EUのインナーを中心とする同心円的な再編を展望するとともに、欧州複合危機が現代の先進民主国に通底するものであることを、〈グローバル化=国家主権=民主主義〉のトリレンマという観点から明らかにしている。
本書は、必ずしも読みやすいものではないが、複合的な危機に見舞われている現在のEUを理解するために有益な、骨太の内容だと感じた。 -
学者先生の本というのは、どうにもお堅いものが多い印象で、この本もお堅いなあと感じました。
ただ、文章こそお堅いものの、難解な表現はそれほどなく、EUのことなど全然よくわかっていなかった自分にも、EU事情をだいぶ整理することができました。
この本で特に注意すべきは、大要次のとおりだと思います。
いま世間の人々をエリートと大衆という形で大雑把に二分した場合、大衆のエリート不信が高まっている、ということです。
我が国でも左派とかリベラルとか言われる人たちが選挙の得票はからっきしで、アメリカであればポピュリズムと言われながらもトランプ大統領が誕生したわけですが、これは断じて軽視すべからざることです。
どうも我が国のマスメディアも、アメリカ国民の選択を訝しんでいるわけですが、民主主義の先輩をそう侮らないほうがいいでしょう。
彼らに選挙で勝てる人々がいないという事実、国民から選ばれるリベラルではない、という事実は、民主主義の世の中にあって、致命的な問題です。
民主主義における正統性の所在について、もっと真摯に向き合わない限り、EUと同様の危機に瀕するのではないか。
理念が崩壊するというのは、理念の体系が崩壊することではなくて、理念の聴き手・担い手がいなくなることだと、私は感じるわけです。 -
現在進行しつつある欧州複合危機を簡潔にまとめている良書。内容としては
① EU通貨危機(及び金融危機)
② 難民の大量流入
③ 民主主義の赤字(ガバナンスの危機)
④ EUの正当性の危機
この4つの危機が同時に進行しているというもの。