資本主義の方程式-経済停滞と格差拡大の謎を解く (中公新書, 2679)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026798

作品紹介・あらすじ

順調に成長を続けた日米欧経済はなぜ長期停滞や格差拡大に陥ったのか。従来の経済学ではうまく説明できない。本書ではお金や富の保有願望=「資産選好」に注目し、経済が豊かになるにつれて人々の興味が消費から蓄財に向かい、経済構造が大きく変貌した経緯を解明。高度成長期を支えた従来型の金融緩和や構造改革、減税やバラマキ、教育方針が、今では無意味か逆効果であることを明らかにし、低成長時代の経済政策を提言する。

感想・レビュー・書評

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  • 先進国の成熟経済における、デフレの理由と解決策を提言した本。経済学の知識が無くても分かるように書かれている点は良かったが、難しい話だったため理解するのが大変だった。

  • コロナ対策として全員一律に配られた10万円。
    ありがたく使わせてもらった一方で、確か直前まではシングル子育て家庭へ30万円支給という話も報道されていたのに、これでよかったのかな、とも思っていて、その疑問に対する一つの答えがあるかも、と思って読みました。

    成熟経済下では、成長経済下とは異なり、(政府が裕福な人から赤字国債という名の借金をして)政策でお金を配ったところで、裕福な人は個人名義の資産にするだけで(政府への債権と現金の2重取りですね)、社会経済への効果はほとんど見込めず、政府債務が膨らむだけ、ということ、と理解しました。

    政府債務、この調子で大丈夫なのかな?

  • 成長経済と成熟経済の違いがよく分かった。成長経済を前提とした昔の経済理論は現代の日本には適用できないという点は納得できる。
    4章までは分かりやすかったが、5章の国際競争の話は納得がいかない。今の円安は説明できないのではないか。
    6章の政策提言はやや中途半端に感じる。正解がないのだろうが、
    ・再分配政策をもっと突き詰める(ベイシックインカムも有効かもしれない)
    ・軍備や防災などに国家予算を投入する点も深く検討する
    ・大きな政府と小さな政府のどっちが良いのかもっと突き詰める
    ・政治家は言えないので、金持ちからもっと税金を取る方策を深く検討する
    など、もっとページを割いて書けるのではないかと感じた。

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/1302078

  • 方程式をもとになぜ日本が長期のデフレ状況になっているかを説明している。
    キーワードは資産選好。生産能力が十分にあり、最低限の生活をするのであれば他の国に比べても相対的に低コストで賄えるようになった日本。まさに成熟経済であるが、今日のマクロ経済学(ケインズ経済学)は供給に対して需要が見込まれる前提で理論が組み立てられてきた。つまり、とりあえず公共投資をしたり、貨幣供給にて国民所得を上げることでデフレを改善・失業をなくせるとしてきた。
    対して、今の成熟経済である日本でおなじ経済政策をしたとしても効果は薄い。意味のない公共投資やお金のバラマキではデフレを改善できない。このことを方程式を使い、説明している。成熟経済での方程式には資産の変数がなく、デフレ・ギャップ改善の要因にはならない。

    対策として実需のある公共投資。具体的には医療や環境などの充実に重点を置くべきと考えている。

    経済成長は目的ではなく手段。本当に目指すべきは健康で幸福な生活を提供できる社会。
    今の状態の日本では一向に格差拡大が広がり、そのような社会から遠ざかってしまう。
    消費税撤廃や生活保護などの現金給付ではなく、実需のある公共投資を促す政治を支持していきたい。

  • この本の中で紹介されている経済学は、従来の経済学とは違い、資産選好という概念を中心にしています。
    これは、預金や債券や株式や投資信託などの金融資産を保有すること自体に快感を感じることです。
    この資産選好が強過ぎると、今の日本のように経済がうまく回らなくなるということだそうです。

  • 資産選好プレミアム…貯蓄することにより得られる満足感
    という概念から作られるシンプルな方程式によって、近代の資本主義経済の停滞や格差社会を説明する。
    数学に長けていても、経済にうといばあい、少し難しく感じる。もうちょっと経済を基礎から勉強したい。

  • なぜ日銀が金融緩和を続けるのか、なぜ給付金などのバラマキが消費を押し上げる上で効果が無いのかなどが論理的に理解できる。しかも、シンプルな方程式を用いて説明されているところが興味深い。

    セオリー上はそうなのだが、現実にはそうなっていない。そこは、不合理な側面も考慮した行動経済学の出番なのだろう。

  • 旧来の「成長経済」を説明する経済理論ではなく、現在の先進国における「成熟経済」を説明する経済理論が必要である、という話。

    人々が所得を「現在の消費」と「将来の消費=貯蓄」に振り分けるというのが伝統的な経済理論であるが、成熟経済における貯蓄には
    「資産が増えるからカネをたくさん持っているという満足感(資産選好)も得られる」
    という性格があるので、旧来の財政・金融政策によって好景気をつくり出そうとしても金が貯蓄に回されてしまい、金持ちはより金持ちになって格差は拡大するし、政策効果も得られない。

    そのように成熟経済を理論的に説明しながら、政策提言をしている一冊である。とても説得力がある。
    難点があるとしたら、「第6章 政策提言」が抽象的な書き方になっていて伝わりにくいということか。その前の第2章~第5章で具体的に書いているから繰り返さないというのは美学としてはわかるけど。
    あとまあ、現在の経済システムの安定性を前提にした議論だとも思う。新書なのでそれでよいのだけど。

  • 資産選好社会が生産活動を抑制し、そのために格差が拡大している。
    生産能力が小さければ、消費選好のために経済は活性化する。
    海外旅行でも、パック旅行でないものは手間がかかる。だんだん苦痛になりいかなくなる。カネは増えても苦痛にならない。具体的に使う当てがなくても、カネを持っていたいという気持ちが資産選好。
    いま消費するか将来するか、は時間選好によるが、将来は消費する。将来の消費のための貯蓄は投資に結び付き将来の経済成長になる。
    資産選好はカネを貯蔵するだけ。将来の消費にもつながらないから総需要不足が収まらず、投資にも結び付かない。
    デフレとは貨幣のバブル。デフレ社会になったのは、貨幣がバブルになったから。
    格差の拡大も資産選好で説明できる。自己責任は、運不運と同義。従来の財政金融政策はきかない。再分配が必要。

    企業の独占的な価格付け行動を前提とするニューケインジアン理論でも、作ったものが売れないという事態は想定していない。
    異次元緩和でも、貨幣が増えるだけ。インフレ期待は起きない。
    効率の悪い企業が残っているからという説も総需要不足という発想はない。
    労働市場の自由化、女性高齢者の活用は、生産側を促しているだけ。
    貨幣のバブルは、資産選好を満たすという価値があるから正確にはバブルではない。資産選好が続く限り、バブルとはいえない。国債は資産だが、負っているのは国民。しかし当事者とは考えない。
    国債や貨幣の信用がなくなればハイパーインフレになる。これがバブル崩壊。
    株式の高騰は消費に結びつかない。資産選好のため金融資産増大効果は金融資産に向かうだけ。

    新消費関数=消費は、総需要と生産能力によって決められる。収入が増えても消費は増えない。物価変化率にだけ依存して決まる。物価が下落していたら消費は増えない。ばらまきで可処分所得を増やしても、消費は増えない。
    政府需要を増やすと総需要が増えて生産能力とのギャップが埋まる。補助金や助成金は、新たな需要を作らないため物価変化率には影響を与えない。
    消費税付加価値税率と実質成長率との関係はない。消費税が下がったら消費が増えるわけではない。
    以前の経済学では、穴を掘って埋める政府支出でも、補助金と同じだけの効果はあると考える。しかし政府がカネをばらまいても消費は増えない。
    MMTの赤字財政がインフレも財政破綻も起こさないという状況は資産選好で説明できる。しかしハイパーインフレになると回復は不可能になる。
    財政支出は、どれだけの新規雇用や需要を作り出したかが重要である。民間の代替品ではないもの=社会インフラ、医療、介護、環境、観光、芸術など。民間の代替物を政府が作ると民業圧迫になって総生産は増えない。
    総需要が総生産を決める=需要の経済学。金をばらまくのではなく、いかに有効な政府需要を増やすか。

    労働生産性を低下させなければ雇用は維持できない。日本とフランスでは、一人当たりのGDPはほぼ同じ。失業率も労働生産性もフランスが高い。公務員はフランスのほうが多い。公共部門の大きさで生産性は測れない。
    労働市場だけ改革して効率化しても総需要が延びない以上、生産性は上がるはずがない。
    新製品が出ても、代替消費が減るだけ。イノベーションは一時しのぎになるだけ。
    環境対策は、政府需要の新たな使い道。

    災害などの供給ショックは一時的なモノ不足になるだけ。コロナ対策で金を配るのは消費は増えない。一律バラマキよりも所得補償のほうが効率がいい。

    個人の勤勉は経済成長にはつながらない。総需要が不足する。豊かになるほど貯蓄傾向が高まる。
    たまたま初期条件がいいだけで豊かになる人がいる。資産格差は、再分配以外に広まらない。借り入れ制約を緩和しても富が貧困層から富裕層に移転するだけ。

    円高で稼いだ金を使えば、豊かな社会になるが、資産選好が強いと円高は過度に進むから、不況が悪化する。金は稼ぐだけではだめで、使わなければ経済は悪化する。

    マンデルフレミングモデルは理論上の欠陥を抱えている。モノの生産や需要は貨幣市場で決まる、という不可解な想定をしている。
    外需に頼ると円高が起こって経済が悪化する。自国で消費しなければダメ。

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著者プロフィール

小野善康

大阪大学社会経済研究所特任教授。1951年(昭和26年)、東京都に生まれる。東京工業大学工学部社会工学科卒業。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。武蔵大学助教授、東京工業大学教授、大阪大学社会経済研究所教授・所長、内閣府経済社会総合研究所所長などを経て、現職。大阪大学名誉教授。専攻、マクロ動学、国際経済学、産業組織。著書に『寡占市場構造の理論』『国際企業戦略と経済政策』(日経経済図書・文化賞受賞)、『貨幣経済の動学理論』『不況の経済学』『金融 第2版』『景気と経済政策』『国際マクロ経済学』『景気と国際金融』『誤解だらけの構造改革』『節約したって不況は終らない。』『不況のメカニズム』『成熟社会経済学』『消費低迷と日本経済』など。

「2022年 『資本主義の方程式』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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