資本主義の方程式-経済停滞と格差拡大の謎を解く (中公新書, 2679)
- 中央公論新社 (2022年1月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121026798
作品紹介・あらすじ
順調に成長を続けた日米欧経済はなぜ長期停滞や格差拡大に陥ったのか。従来の経済学ではうまく説明できない。本書ではお金や富の保有願望=「資産選好」に注目し、経済が豊かになるにつれて人々の興味が消費から蓄財に向かい、経済構造が大きく変貌した経緯を解明。高度成長期を支えた従来型の金融緩和や構造改革、減税やバラマキ、教育方針が、今では無意味か逆効果であることを明らかにし、低成長時代の経済政策を提言する。
感想・レビュー・書評
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先進国の成熟経済における、デフレの理由と解決策を提言した本。経済学の知識が無くても分かるように書かれている点は良かったが、難しい話だったため理解するのが大変だった。
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コロナ対策として全員一律に配られた10万円。
ありがたく使わせてもらった一方で、確か直前まではシングル子育て家庭へ30万円支給という話も報道されていたのに、これでよかったのかな、とも思っていて、その疑問に対する一つの答えがあるかも、と思って読みました。
成熟経済下では、成長経済下とは異なり、(政府が裕福な人から赤字国債という名の借金をして)政策でお金を配ったところで、裕福な人は個人名義の資産にするだけで(政府への債権と現金の2重取りですね)、社会経済への効果はほとんど見込めず、政府債務が膨らむだけ、ということ、と理解しました。
政府債務、この調子で大丈夫なのかな?
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成長経済と成熟経済の違いがよく分かった。成長経済を前提とした昔の経済理論は現代の日本には適用できないという点は納得できる。
4章までは分かりやすかったが、5章の国際競争の話は納得がいかない。今の円安は説明できないのではないか。
6章の政策提言はやや中途半端に感じる。正解がないのだろうが、
・再分配政策をもっと突き詰める(ベイシックインカムも有効かもしれない)
・軍備や防災などに国家予算を投入する点も深く検討する
・大きな政府と小さな政府のどっちが良いのかもっと突き詰める
・政治家は言えないので、金持ちからもっと税金を取る方策を深く検討する
など、もっとページを割いて書けるのではないかと感じた。 -
桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/1302078 -
方程式をもとになぜ日本が長期のデフレ状況になっているかを説明している。
キーワードは資産選好。生産能力が十分にあり、最低限の生活をするのであれば他の国に比べても相対的に低コストで賄えるようになった日本。まさに成熟経済であるが、今日のマクロ経済学(ケインズ経済学)は供給に対して需要が見込まれる前提で理論が組み立てられてきた。つまり、とりあえず公共投資をしたり、貨幣供給にて国民所得を上げることでデフレを改善・失業をなくせるとしてきた。
対して、今の成熟経済である日本でおなじ経済政策をしたとしても効果は薄い。意味のない公共投資やお金のバラマキではデフレを改善できない。このことを方程式を使い、説明している。成熟経済での方程式には資産の変数がなく、デフレ・ギャップ改善の要因にはならない。
対策として実需のある公共投資。具体的には医療や環境などの充実に重点を置くべきと考えている。
経済成長は目的ではなく手段。本当に目指すべきは健康で幸福な生活を提供できる社会。
今の状態の日本では一向に格差拡大が広がり、そのような社会から遠ざかってしまう。
消費税撤廃や生活保護などの現金給付ではなく、実需のある公共投資を促す政治を支持していきたい。
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この本の中で紹介されている経済学は、従来の経済学とは違い、資産選好という概念を中心にしています。
これは、預金や債券や株式や投資信託などの金融資産を保有すること自体に快感を感じることです。
この資産選好が強過ぎると、今の日本のように経済がうまく回らなくなるということだそうです。 -
資産選好プレミアム…貯蓄することにより得られる満足感
という概念から作られるシンプルな方程式によって、近代の資本主義経済の停滞や格差社会を説明する。
数学に長けていても、経済にうといばあい、少し難しく感じる。もうちょっと経済を基礎から勉強したい。 -
なぜ日銀が金融緩和を続けるのか、なぜ給付金などのバラマキが消費を押し上げる上で効果が無いのかなどが論理的に理解できる。しかも、シンプルな方程式を用いて説明されているところが興味深い。
セオリー上はそうなのだが、現実にはそうなっていない。そこは、不合理な側面も考慮した行動経済学の出番なのだろう。 -
旧来の「成長経済」を説明する経済理論ではなく、現在の先進国における「成熟経済」を説明する経済理論が必要である、という話。
人々が所得を「現在の消費」と「将来の消費=貯蓄」に振り分けるというのが伝統的な経済理論であるが、成熟経済における貯蓄には
「資産が増えるからカネをたくさん持っているという満足感(資産選好)も得られる」
という性格があるので、旧来の財政・金融政策によって好景気をつくり出そうとしても金が貯蓄に回されてしまい、金持ちはより金持ちになって格差は拡大するし、政策効果も得られない。
そのように成熟経済を理論的に説明しながら、政策提言をしている一冊である。とても説得力がある。
難点があるとしたら、「第6章 政策提言」が抽象的な書き方になっていて伝わりにくいということか。その前の第2章~第5章で具体的に書いているから繰り返さないというのは美学としてはわかるけど。
あとまあ、現在の経済システムの安定性を前提にした議論だとも思う。新書なのでそれでよいのだけど。