奈良時代-律令国家の黄金期と熾烈な権力闘争 (中公新書 2725)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121027252

作品紹介・あらすじ

国際色豊かな天平文化が花開く一方で、皇位継承をめぐる政変が相次ぎ、熾烈な権力闘争が展開する。政治と社会が激動した時代を描く。

感想・レビュー・書評

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  •  奈良時代の概説書として適切な1冊。
     奈良時代と言えば、皇位継承を巡り、あるいは藤原氏を中心とした権力闘争の時代ということで、本書も政治史に関する叙述が中心ではあるが、ある事件であればその背景事情等にも著者の見解を含む説明が示されており、断片的な知識に止まらず全体的な流れについて理解が進む。加えて、経済、宗教、文化、外交等にも一定の紹介がされており、一般読者にとって分かりやすい内容だと思う。

     主な出来事は、次のとおり。
     藤原不比等の死(720年)
      →長屋王による皇親政治
       →長屋王の変(729年)~直接の理由は、聖武天皇より血統の良い膳夫王(長屋王と吉備内親王の子)らを排除する藤原武智麻呂らの謀略とするのが著者の説
      →武智麻呂政権の確立  ~著者は、房前は長屋王に近く、他の兄弟とは乖離があったとする。
      →疫病の流行と藤原4兄弟の死(737年)
      →橘諸兄政権の成立
        →藤原広嗣の九州左遷(738年)→広嗣の乱(740年)
      →孝謙天皇の即位(749年)
        ~実質的には光明・仲麻呂政治体制
      →橘諸兄引退、聖武大上天皇死去(756年)
        →橘奈良麻呂の変(757年)
      →淳仁天皇即位(758年)→仲麻呂(恵美押勝)政権の確立
      →光明皇太后の死(760年)
      →孝謙と淳仁の対立
        →仲麻呂の「内乱」(764年)~孝謙が仕掛けたものであり、著者は仲麻呂の乱ではなく、内乱と評価すべきとする
      →淳仁廃位と称徳天皇の重祚
        →道鏡による仏教政治
      →称徳天皇の死(770年)
      →光仁天皇(白壁王)の即位 ~藤原永手(北家)、百川(式家)による擁立

     皇位継承についての責任を回避したとして、著者の聖武天皇に対する評価が厳しいのが印象的。

  • 天智系の皇統から皇位を簒奪した天武帝をルーツとする奈良朝。妻持統女帝は我が子を皇位継承者にせんと無理クリ誕生させたのが曾孫にあたる聖武帝。中国最新の立法・行政を知悉し、この皇統に藤のように絡みついたのが藤原不比等・県犬養三千代夫婦。聖武帝は絶えることのない疫病・天災に悩まされ国家の鎮護を仏教に托す。淳仁帝・仲麻呂ラインから王権を奪取した孝謙帝は称徳帝として重祚し、法師道鏡に帝位を譲らんとする。波瀾万丈、簒奪に端を発し簒奪に終わる激動の奈良時代。論旨は歯切れ良く、異説を紹介し、長屋王・武智麻呂・橘諸兄・藤原仲麻呂と続く権力者たちの治績を紹介するなど、簡明でわかりやすい。しばし奈良朝にタイムスリップできました。良書です。

    ただ、著者は聖武に厳しい。また、仲麻呂が唐風を進めたのには、自ら皇帝になる野心があったとの説に触れて欲しかった。驚いたのは、則天武后の影響の大きさ(悲田院・施薬院や国分寺・国分尼寺の建立、四字年号)でした。吉備真備の知略は仲麻呂を凌ぐものでしたが、百川の姦計にしてやられました。誰か、この時代のダイナミズムを一大娯楽小説に描いてください。

  • 「奈良時代」という「用語」は一応知られているかもしれない。が、「如何いう感じのモノ」というようなことは意外に知られていないかもしれない。その「奈良時代」を詳しく語らうというような一冊である。
    「奈良時代」と言っても、もすかすると「710年 平城京遷都」という一言しか出て来ないという場合も在るであろうか?本書を読めば、「そうではない!」と、様々な要素が在って興味深いことに気付かされる。
    「奈良時代」とは平城京を築いて都として政治を行い、様々な事柄も在る時代で、桓武天皇の代になって遷都を行うまでの70年間余りを指すことになると思う。本書では、その平城京を建設して行く少し前辺りから起こり、その70年間余りの経過を説いている。
    70年間余りの経過は、所謂「律令国家」という仕組みが興って、それが少し行き詰って変容して行くという側面が在り、様々な勢力に政治の実権が遷っていた側面が在り、皇位継承を巡って諸勢力が互いに争った側面が在り、華々しい仏教文化が展開した側面が在り、不作の年が少し続く状態や疫病の流行という側面が在り、酷く劇的である。
    「奈良時代」に関しては、“女帝”が多かった時代という特徴が在る。その事情としては、「若くして崩御した天皇の幼かった皇子に皇位を繋いで行く“中継ぎ”」ということでもあったようだ。そういう経過であったが、やがてそうやって皇位を受継いだ流れが途切れてしまい、別な流れの皇族が皇位を得て、遷都で時代の様相はまた変わって行くのである。
    興味深い文物が豊富な奈良であるが、「修学旅行で大仏を観た」に終始してしまう場合も少なくないかもしれない。本書に触れると、色々と「この出来事に関連が在る場所…」と訪問してみる関心も高まると思う。そして伝わっている奈良時代からの文物に関して、それが産れた時代の様子が本書で詳しく判る。広く御奨めしたい。

  • 藤原四家が一枚岩ではなく乖離していたということに大変興味を覚えた。また、南家の武智麻呂が主体であったというのも驚きであった。

    称徳死後から桓武即位までも大変興味深く拝読した

  • 長年にわたり奈良時代の政権構造や貴族官人の研究をされている木本好信氏による奈良時代の通史。詳細な人物評に特色がある。聖武天皇や孝謙(称徳)天皇に対する評価は厳しい。

  • 本書はタイトル通り奈良時代についての歴史的考察を述べたものである。奈良時代の主な出来事を振り返ると藤原不比等らの尽力によって701年大宝律令が完成する。710年平城京に遷都。712年古事記完成。723年三世一身法を制定。724年聖武天皇即位。727年長屋王の変が起きる。737年藤原4兄弟が天然痘によって相次いで没する。738年橘諸兄政権成立。740年藤原広嗣、北九州で反乱を起こす。743年墾田永年私財法を公布。749年孝謙天皇が即位。752年東大寺大仏が開眼する。758年淳仁天皇が即位。764年藤原仲麻呂(恵美押勝)の内乱。766年道鏡、仏教界の教主である法王となる。770年称徳天皇没し、光仁天皇即位。781年桓武天皇即位。794年平安京に遷都、となる。奈良時代はとりわけ、優柔不断な聖武とプライドが高すぎる孝謙(称徳)父娘をめぐっての、貴族官人や庶民を巻き込んだ権力闘争が繰り返された政争の時代であった。詳細→
    https://takeshi3017.chu.jp/file9/naiyou33301.html

  • 【請求記号:210.3 キ】

  • 長屋王政権って……

  • 20230308-0317 奈良時代(710〜794)は、天平文化が花開いた華やかな時代であると同時に、皇位継承をめぐる政争に明け暮れた「熱い時代」であった。私はこの時代は学生時代からとても好きなので、これまでも色々な研究者の著作を読んできたと思う(もちろん漫画も!)。大抵の場合、特定の人物や一族に肩入れもしくは思い入れが溢れ出てきている著作が多いのだが、本書は奈良時代の権力を握った政権(天皇とは限らない)の評価をかなり冷静に分析していると思う。恵美押勝(藤原仲麻呂)のことも、やや理想的にすぎると評しているが実績についてはきちんと評価していると思った。天武天皇(と持統天皇)の血統にこだわるなら、そもそも孝謙女帝をさっさと皇族に嫁がせて(むしろ婿入り?)子供(できれば皇子)を産ませ、その後配偶者を排除するか、皇族ならそちらを中継ぎ的に皇位につけて適当なところで継承させればよかったのではないのであろうか。それは現代人の感覚なのであろうか?

  • 奈良時代政争史研究をリードしてきた木本氏の著書。参考文献も充実で入口にはもってこい

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著者プロフィール

1950年、兵庫県生まれ。1978年、駒澤大学大学院博士後期課程単位修得満期退学。1993年、山形県立米沢女子短期大学教授。2000年、甲子園短期大学教授。2010年に同大学学長を経て、2017年より龍谷大学文学部歴史学科日本史学専攻教授(特任)。専門は奈良朝の政治史および平安朝の日記。単著に『大伴旅人・家持とその時代 -大伴氏凋落の政治史的考察-』(桜楓社)、『藤原仲麻呂 -率性は聡く敏くして-』(ミネルヴァ書房)、『藤原四子 -天下を鎮安す-』(ミネルヴァ書房)、『藤原種継-都を長岡に遷さむとす-』(ミネルヴァ書房)、『奈良時代の政争と皇位継承』(吉川弘文館)、『藤原北家・京家官人の考察』(岩田書院)、『藤原南家・北家官人の考察』(岩田書院)、『藤原式家官人の考察』(岩田書院)など。編著に『江記逸文集成』(国書刊行会)、共編著に『時範記逸文集成』(岩田書院)などがある。

「2021年 『藤原仲麻呂政権の基礎的考察』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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