日本の歴史問題 改題新版-「帝国」の清算から靖国、慰安婦問題まで (中公新書 2733)
- 中央公論新社 (2022年12月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121027337
作品紹介・あらすじ
靖国神社、教科書、慰安婦、領土、そして「犠牲者」個人の補償――。戦後八〇年を前にしてなお日本に残る歴史問題。なぜ「過去」をめぐる認識は衝突し、アジア太平洋戦争の「清算」は終わらないのか。本書では、帝国の解体から東京裁判、靖国論争が始まる一九八〇年代、慰安婦や領土をめぐり周辺諸国との軋轢が増す二〇一〇年代まで、歴史問題の変遷を丹念に描出。旧版『国家と歴史』を全面改稿し、歴史和解の道筋を示す。
感想・レビュー・書評
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事実関係を丹念に追うのは既読の旧版(『国家と歴史』)と同じ。再読すると、旧版の感想以外に、歴史問題とは近隣国を中心とする他国との関係だけでなく、靖国の位置付けや補償すべき戦争犠牲者の範囲、日本遺族会の戦後50年談話阻止運動、連立政権の中での社会党や公明党の立場、といった国内問題でもあることに気づく。
旧版以降の動きでは、民主党政権時、韓国併合100周年の菅談話は出るも、挺対協の反発と韓国憲法裁の慰安婦判決。更に竹島、尖閣問題の発生。
第二次安倍政権では河野談話が翻弄されるも、最終的には継承方針。しかし対韓では慰安婦財団の解散、韓国大法院の徴用工判決と「深刻化」。対中では地域のパワーや領土・資源にも波及する「重層化」。
著者の安倍談話分析は興味深い。満洲事変を歴史の転換点とみなす点は中韓には受け入れがたいだろうとしつつ、日本が国際秩序の挑戦者から守る者になった点を強調、また「過去の克服」や「歴史和解」という問題を意識と指摘。
著者は終章で、歴史問題を政治化させない条件や論点をいくつか挙げる。A級戦犯の分祀や靖国の「宗教宣言」、戦争責任問題についての改めての国民的合意形成、竹島の放棄を含む領土問題での歩み寄り等を挙げるが、容易には思えない。著者が同様に挙げる歴史共同研究も、既に一度行われたがそれで何か前進したようにも自分には見えない。
その点、著者が冒頭で言及したこれまでの日本政府による歴史問題「管理」は、「解決」よりはるかに現実的ではないか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本書は、主として日韓の歴史認識問題の歴史的経緯を論じた一冊である。慰安婦問題や教科書問題、徴用工問題に加え、領土問題もここに含まれる。本書を通読して、漠然としていた日韓歴史認識問題を、頭のなかで整理できたと思う。
歴史認識問題というのは、そもそも歴史とは何かという問いにも通ずるところがあると思う。歴史というのは将来の世代が紡ぐものであり、歴史認識とは、将来の世代が過去をどう解釈するかを意味する。それゆえ、慰安婦問題のように、1990年代になって争点化することがあった。
歴史問題とはいっても、それは歴史という枠を超え、政治の領域においても重要な論点となった。ただ、歴史の解釈は人によって異なるため、歴史認識問題を政治の領域で解決することは困難であるといえる。両国とも民主主義国家であり、政府は国民の意見を無視できないからだ。それが少数の意見であってもだ。
そういった要因もあって、朴槿恵政権、文在寅政権は歴史認識問題について強硬な立場を維持していた。現在の尹政権はそうした立場を崩しつつあると思う。韓国国内から批判があるにもかかわらず、日本へ歩み寄りを見せている。そうした韓国政府の態度に対し、日本国内からは、これまでの韓国の二転三転する対応を知っているがゆえに、敵対的な視点をもつ者もいることは確かである。支持率が低迷している岸田政権には、韓国政府が歩み寄りを見せている今こそ、歴史認識問題の政治的解決に導いてほしいと切に願う。
日韓両国の若い世代の多くは、相手国に対して好意的な印象を抱いているという調査結果もある。これはリベラルな価値観が普及していること、そして文化面での交流が大きく後押ししていると思われる。もちろん世代交代は確実に歴史認識問題の解決につながると思うが、だからといって今なにもしなければいいという訳ではない。 -
当初は、さほど靖国神社参拝や歴史教科書に他国からの反応がなかったのに、政治問題、外交カードとして取り上げられるようになってからがあまりにもひどい。
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【請求記号:210.7 ハ】
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【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/787258 -
東2法経図・6F開架:B1/5/2733/K