大学入試の戦後史: 受験地獄から全入時代へ (中公新書ラクレ 243)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121502438

作品紹介・あらすじ

少子化が進むとともに、受験生は減少、どの大学も優秀な学生を確保するために血眼になっている。どうすれば大学間競争の真の勝者となれるのか。そのヒントは、この本の中に隠されている。

感想・レビュー・書評

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  • とりあえず大部分は戦後史ではない。最後の7章ぐらいがいわゆる入試制度の戦後史。ここを先に読んだほうが前半も理解しやすいと思う。前半を含め大部分はこの20年ぐらいの入試制度について。大衆化した大学での多様な入試制度、とくに小論文入試やAO入試について個別の事例を、関係者への取材などを交えて紹介している。
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    入試を考える時、「選抜」と捉えるか、「教育」の一環としてとらえるか。ここが問題のようです。「選抜」となると目的は「落とす」こと。これならそれこそジャンケン大会でも良い(と受験生のときは個人的に思っていた)。実際、良問は出題されつくして入試に奇門・難問が増えて問題にされてきたが、これはまさに「選抜」なら許されることになる。一方、「教育」の一環となると、これは高校生活でどのようなことを身につけているかを判定、確認し、さらに入試によって大学で学ぶために書く大学が必要だと思われるものを高校生に学んで来てもらおう、という内容になる。つまり大学教育と入試は密接に関連することになる。現状のように進学率が上がり(50%が大学に進学)、大学が大衆化した状況では、振り落とすための選抜試験を行えば、ほとんどの高校は大学入試のための対策教育をせざるを得ない状況に行き着く。
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    著者は大学入試制度のみならず、日本の「ムラ社会」構造、つまりそれぞのムラ内部での横並びの公平・公正を求める構造について問題を感じているようである。それが例えば本質的な改革を断行できずに「現状維持」「先送り」として小手先の制度変更を重ねる状態を生み出していると指摘する。共通一次以降の大学入試の混乱と変遷もまさにそこに原因があると考えているようだ。
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    実は本書を通じてアメリカの大学入試制度(入学選抜)の仕組みに関して初めて知ることができた。これまで「アメリカの大学は入りやすくて出るのが難しい」的なぼんやりとした知識しか無かった。しかし、そもそもアメリカの大学で日本的な「学力選抜」は無いようである。アメリカは一足早く大学の大衆化が起こり、現状では「開放入学制」「資格選抜制」「競争選抜制」に分かれている。上位校だけが実質的な選抜を行っており、それ以下は資格があればほぼ全員入学できるそうだ。日本のような大学ごとの学力試験は無い。高校での全国的な学力テストの成績や高校の成績、その他の志願書などの書類によって、アドミッションオフィス(AO)(いわゆる事務室)が機械的に書類だけで判別する。教員は入学制の選抜にかかわらない。
    日本は全大学で学力試験を行っており全く異なるように思えるが、しかし日本の現状は限りなくこれに近づいているようである。つまり全入時代を迎え、AO入試、推薦入試、センター1科目入試など多様な入試制度の出現で、上位校を望まなければ希望する大学にほぼ確実に入学できる。しかも大した試験も受けずに。

  • 「戦後史」と題しているが、7~8割(印象値)が平成期のはなしであった。

  • (2007年の時点で)
    入試の選抜機能が働くのはMarchレベル。その中の法政は様々な教育改革・入試改革を重ねて志願者を保ち学力選抜を行っている。
    AO入試・推薦千入試は資格選抜性・開放入学生の役割を果たしている。アメリカの例を見ながら日本は対処法よりその課題に目を向ける必要がある。
    書名だけイメージからすると、第7・8章の内容がより幅広く・深く記述されているといいのかなと思った。

  • へぇ〜っと色々勉強になった。

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著者プロフィール

1954年東京生まれ。京都大学卒業後、現在国語専門塾鶏鳴学園塾長。国語教育、作文教育の研究を独自に続ける傍ら、90年代から進められている教育改革についての批評活動をした。教育改革についての著作は、『高校卒海外一直線』(2002年中公新書ラクレ)、『徹底検証・大学法人化』(2004年中公新書ラクレ)、『大学入試の戦後史』(2007年中公新書ラクレ)、『被災大学は何をしてきたか』(2014年中公新書ラクレ)。編著に『論争・学力崩壊』(2001年中公新書ラクレ)、共著に『研究不正と国立大学法人化の影』(2012年社会評論社)などがある。国語教育では、『脱マニュアル小論文』(2006年大修館書店)、『「聞き書き」の力-表現指導の理論と実践』(2016年大修館書店)、『日本語論理トレーニング』(2009年講談社現代新書)がある。こうした活動の根底にあるのがヘーゲル哲学の研究である。30歳代の10年間を牧野紀之氏のもとでヘーゲル哲学研究に没頭し、その発展の立場を獲得することをテーマとしてその後も研鑽してきた。その成果として、『ヘーゲル哲学の読み方』(2020年社会評論社)がある。

「2022年 『現代に生きるマルクス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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