見えないものを見る「抽象の目」-「具体の谷」からの脱出 (中公新書ラクレ 775)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121507754

作品紹介・あらすじ

本書は、ベストセラー『地頭力を鍛える』によって広く認知される「地頭力」や「アナロジー思考」、「Why型思考」等の思考力に関する著作で読者を獲得してきた細谷氏の最新書き下ろし。
私たちの生きる世界は、VUCAと言われる不確実で先の見えない時代に突入したと言われています。2020年初頭からコロナやウクライナ紛争など思いもよらない事態を招き、日常生活ではスマホの普及やGAFAMと呼ばれるプラットフォーマーの台頭等により、デジタルを中心とした「見えないもの」に支配されているのです。これまで、日本では「見えるもの」を作る技術を強みにしてきた企業も多く存在してきましたが、これからの時代を生き残るには、「見えないもの」をいかに見えるようにするかが鍵となります。

本書では、著者が思考力を鍛えるために用いる「具体と抽象」のテーマに当てはめながら、この「見えないもの」を見えるようにするための考え方を提供します。
いくつもの事例を読み進めることで、これまで見えなくなっていた視野が広がり、日々のコミュニケーションや仕事の計画等に関する悩みを解消するとともに、未来に向けて将来像を描くためのツールになる1冊です。

感想・レビュー・書評

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  • ビジネス雑誌の書評を見て気になり読んでみた。

    タイトルのキャッチーさと淡々とした中身にはギャップを感じたものの、抽象化・その思考法についてスムーズに理解できた。
    図や具体例も多く使用されていてとっつきやすく、分かりやすい。

    世界中の情報に簡単にアクセスできるようになり「世界は拡大」。一方、ネットニュースやYoutubeなどカスタマイズされた情報に触れることが増加。結果、視野が狭窄しているという。抽象度に関する視野狭窄化とは、関係性の理解喪失でもある。

    時代が激変し、生成AIの汎用化など「知識力」のアドバンテージが薄れ、「思考力」の価値が高まっている。その思考力を可視化するのは難しく、実際に日本の教育現場でもその評価基準の設定に苦労している。発想の転換が必要。

    特に印象に残っているのは、「抽象化とは”線を引くこと"」というフレーズ。大きく分けると、①区別と②関連付け。
    この線引きにより、世界では多くの矛盾が生じ、それが戦争にも繋がっていると著者は例示している。

    国家も線引きの一つ。それによって「味方」と「敵」を作り出している。つまり、抽象化という能力は人類を発展させてきた一方、ストレスや悩み、矛盾の根本原因にもなってしまっている。

    面白い例として、抽象レベルのポリシーを明確にもった上司と、それを理解せず具体指示だけに触れ、「上司の命令がコロコロ変わる」と嘆く部下のコミュニケーションギャップというのが有った。確かに、部下が上司の「ポリシー」を知る機会は少ない。

    実世界には多くの「グレー」が存在する。コロナや原子力エネルギーも、「安全か危険か」の0次的発想では前に進むことはできない。いずれもゼロリスクなど不可能。その発想から脱却する責務が、メディアにも政治家にも、そして国民一人ひとりにもある。それが国の思考力の豊かさに繋がると思う。
    肌感覚として、この点は若い世代の方が優れているように感じる。

    この本を読んで自分だけが抽象的思考力を高めても、世の中の問題は解決しない。むしろ、悩みやストレスの原因をより多く作ってしまうかもしれない。

    それでも、この著者の「論理的思考力」系の本が多くベストセラーになっているということは、それだけ世界はより良い方向に進んでいるということ。
    そう信じて、抽象化の思考力を自分は高めていきたい。日本の教育も、0次元、1次元を超えた学習の機会を増やしてほしい。

  • 久しぶりに細谷さんの本。面白い。

    簡単にいえば、最後らへんがまとめになっているが、
    無知の知という世界観がいいんじゃないかというもの。少なくとも、無知の無知で狭く生きている人は具体世界であり、無知の知を想像できてない。そこにギャップ=ズレが生じやすいということになる。

    この無知の知というところではソクラテスが有名だが、ふと思ったのは、社会に対する興味がなぜ多くの人がなさそうに見えるか。疑問であったが、シンプルにここでいう無知の無知でいる、つまり0,1次元で正誤・優劣の世界であり、既知は多くあり、既知の未知はそこそこあり、それ以外はないと考えてしまっている・・・まさにその世界観になるといえるなあとかなりすっきりした。

    実際は、既知は少なく、知らないことが多い=既知の未知がかなりあり、さらに本書でも無限と称しているのはその通りだと思うが、膨大な無知の無知がある。それを潜在ニーズであったり、未来と捉える概念もとてもしっくり来た。そういった無知の知こそが、まさに社会だと僕は思っていて、その社会に対する興味がないということになる。正確にはその社会が認識できてないからこそ、ない、文字通りないとなる。

    これは断絶とたまに言われているかもしれないが、これは断絶でもなんでもない。単なる認知がないだけで、想像であったり、教育であったり、世界の理解である。根源的に自分が何者であるかを知りたくない人はいないと思うが(白けたり、知らなくてもいいと怠惰であることももちろんありえるが)、自己と関わる他者があるという意味で、人間という意味で社会との関わり(悪いことも良いことも)があるのだと思っている。それを綺麗に分けられるとか、断絶出来てしまうとかこそが、まさにこの0-1次元であり無知の無知という世界観に陥っているともいえる。

    昔遊びで、自分は馬鹿であるかもしれないという人は馬鹿ではない、というのがあった。メタ認知チェックとしても今振り返れば上等な気がする(笑)
    無知の無知である人は、自分が馬鹿であることを否定するし、自分は正しいとすら思っている。自分が正しいと思う人が他に居ることを受け入れられないのだろう。

    当然社会は平和であってほしいし、争いがないようにはしたい。けれどもそういった正しさはいくらでも作れてしまう。その構造が見えない、分からない限り、次元を超えていくのは難しそうだ。と分かったふりをしているが、この本も、具体の世界に生きている人には、もしかして宗教本みたいに見えてしまうかもしれない。

  • 見えてるものが全てだというのはそうではないかもしれない。人間の目に捉えられる光の幅は限定されているし、その先にその壁の向こうにもっと先にはなにがあってもおかしくない。抽象化とは線を引くこと。分ける線と関連付ける線。分ける時に名前をつけてラベリングしてるだけ。次元が0から無限まであるよって話。

  • 具体・抽象という切り口で多くの著書を持つ筆者による、見えない世界の広がりと狭まる視野よって生じるコミュニケーションギャップのメカニズムを「具体と抽象」の概念で理解し、解消するために必要なことを教えてくれる1冊。
    知識量と視野の広さは反比例するということを踏まえ、キーワードとなる「無知の知」を常に意識することで「抽象の目」を養っていきたいと思う。

  • 細谷さんの書籍は自分がいつも考えている行動の原理や感覚、指向性ととてもマッチしているように感じるがこの書籍も同じくだった。

    抽象に対してメタ認知をすることは自分の可能性を広げたり、自分の能力を向上させたり、ありとあらゆるところで必要になるものだと改めて思う。

  • 抽象度をあげていくことで、
    発想が自由になる。

  • 細谷さんの本は3冊読んだが、今のところはこれを含めて2冊良書。

    締めが重要なのはクリティカルシンキングとなっていた。
    (クリティカルシンキングの名前はだしてないが)

    クリティカルシンキングの本を読んでみたくなった。

  • ●=引用

    ●全力で走っているプレーヤーBに対してパスを出す際、(略)当然のことながら、プレーヤーBにパスを送ろうと思えば、プレーヤーAはBの動きを「先に読んで」、いまBがいないどこかにパスを出す必要があります。このような「小学生にもわかること」が、実際に理解されていないように見えるのが実際の社会やビジネスの世界です。(略)「いま売れているもの」から直接的に発想する人がほとんどと言ってよいのではないでしょうか。(略)しかしながら、同じ発想を新規事業やイノベーションのように、長期的なスパンで考えるものに当てはめるには無理があることに気づいている人は、意外に少数派です。近距離に見えるものから判断することは、「過去のデータを論理的に分析して予想する」ことです。それは、過去と現在を反映するものではあっても、その後どうなるかはいくら過去のデータを分析したところで完全に予想することは不可能です。

    ●先の「言うことがコロコロ変わる」を例にとって説明しましょう。(略)ところがこのような「個別具体の話」には、必ずその「背景や意図」となることがあります。先に解説した手段と目的の関係を思い出してもらえばわかると思いますが、ここでの「個々の発言」とその「背景や意図」との関係は、まさに先の「手段と目的」の関係とほとんど同じ構図であると言ってもよいでしょう。例えば「言うことがコロコロ変わるように見える人」の仕事に対するポリシーが、「常にその時点での最新情報に基づいてベストの判断をすること」だったとしたらどうでしょう。まさにポリシー(という抽象度の高い方針)に1ミリのブレがないがゆえに、具体的な指示がコロコロ変わってくることになるのです。つまり、具体レベルと抽象レベルというのは矛盾することがあり、それがコミュニケーションギャップの根本的な発生理由になっているというわけです。

    ●人は往々にして自分が見えている範囲が全体だと勝手に思い込み、それを無意識的に相手と同じ前提条件のもとに考えているのだと誤解しています。これが部分を全体だと思ってしまうバイアスです。いかに頻繁に起こり、私たちの争いの根本的な要因になっているかがおわかりいただけたのではないかと思います。

    ●つまり、無知の知というのは、自分に対して客観的視点をもって気づきを得ているという状態です。(略)「見えないもの」を意識するために本書で目指すのは、まさにそのような人を見て批判したり笑ったりすることではなく(これがまさに「無知の無知」の状態なので)、ここから「人の振り見て我が振り直せ」と、自らの気づきに変えることで「無知の知」の境地にいたることです(このために、第6章でお話しした自分と他人の非対称バイアスを自覚する必要が出てきます)。

    ●そして第3の輪というのが「心の声」です。よく「潜在ニーズ」と言われるものがこれです。要は、顧客が口にして言っていないが、潜在的に思っていることです。新聞発のヒット商品や新たなイノベーションと言われるような製品というのは、このような潜在的な顧客ニーズに応えたものが多いのです。例えばスマートフォンが出てくる前の「ガラケーの時代」に「スマホが欲しい」と言った顧客はいないし、ポケモンGOが出てくる前にポケモンGOが欲しいと言った人はいないのです(これらの事例はまさに製品やサービスにおける新しい次元=変数を見出した例と言ってよいでしょう)。ところが、世の多くの人は第2の輪までしか見えていないために、顧客が直接口に出して言っていることやクレームに対応するだけという形で顧客の声に踊らされ、改善型の商品や「いまある変数の最適値」しか思いつかない人がほとんどなのです。ここでも「無知の知」を実践している人は、「実際には顧客が口にしていないが、『あったら便利だ』と思えるものが必ずその外側にあるはずだ」という認識を常に持っているために、目に見える(耳で聞こえる)顧客の声というのは顧客の要望の「ほんの一部である」ことがわかっているのです。

    ●ところが実際には、顧客になることを想定していなかった顧客というのだってありうるはずです。例えば女性用の化粧品を実は男性が買っているかもしれないとか、子供向けのやさしい解説書を実は大人が読むかもしれないといったことです。(略)そもそもこのような「顧客」は最初から想定することはできないのですが、それでも「想定外の顧客がいるかもしれない」と③の領域を頭に入れながら商品開発をしたり売上データを分析することで、新たなニーズをつかまえることが可能になるというのが「無知の知」的な発想です。

    ●正誤の価値観を使いたくなった時(自分は正しくて他の人は間違っていると言いたくなった時)は徹底的にその価値観を疑ってみること、そこに上位の次元への道が広がっているのではないかということです。

    「遅いインターネット」、「メタ認知」参照。

  • 新書だからかいつものキレがイマイチかな?でも具体と抽象に進化論的視点を絡めるのは新しいかもしれません。世の中のほとんどの人が0次元と1次元で生きててN次元と♾️次元には量ではなく質の違いがある。自分の次元を上げる方法は無知の知だとして、他人の次元を上げる方法はあるのか?天井はマジックミラーなので経験的にはないような気がするんだよな。。。そこが自分の限界であるように思う。

  • 認知バイブスアゲアゲ。
    具体の視野狭窄をわかりやすく解説。
    未知の未知を無知の知の世界にい誘う次元論。
    正誤をいったん傍に置く傾聴を心がけることができれば
    自身が語る言葉に常に思い込みがあると認知できれば幾分はマシになるかもと思っている身としては納得感がある。
    0と1にしろ線を引くことにしろグラデーションがあることによる抽象の曖昧さの感覚は持っておきたいと思えた。
    無意識化に置く方法論は形から入る謙虚さなのだろう。

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著者プロフィール

細谷功(ほそや・いさお):1964年生まれ。ビジネスコンサルタント、著述家。問題発見・解決や思考力に関する講演や研修を国内外で実施。『仕事に生かす地頭力』(ちくま文庫)、『地頭力を鍛える』『アナロジー思考』(共に東洋経済新報社)、『具体と抽象』(dZERO)、『思考力の地図』(KADOKAWA)等著書多数。

「2023年 『やわらかい頭の作り方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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