- Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122001077
感想・レビュー・書評
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犬養毅の孫であり犬養健の娘であった道子氏が描く幼少時代。まさにきら星のように魅力溢れる人々と道子氏の交流が描かれています。中でも道子氏を溺愛していた祖父犬養毅が道子氏に託した物と言葉のエピソードが印象的でした。
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五・一五事件で暗殺された犬養毅の孫娘である犬養道子氏の自伝的小説。
秘められた昭和史を期待して手に取った。
読んでみると、これは少女道子がいかにして成長を遂げていくかを描いたとても愉快な物語だった。彼女が花々や星々と喩えた白樺派の同人や芸術家、時の政治家や中国の革命家などが身近な人物として次から次へと登場する。彼女の育った環境は本当に凄い。
そしてまた、これは娘の視点で母仲子を描いた物語でもある。父である健に比べて仲子は力強く、そして魅力的に描写されている。著者自身も言っているが、母系からの遺伝や影響という物がどれだけ大きいかを伝えてくる。
主義者や壮士を毅然と追い払った彼女の豪胆さと冷静さは、五・一五の際に銃口を突きつけられても尚八方の数を数えたというエピソードに凝縮されている。そして、少女道子にセキをさせその胸の音を聞くシーンで彼女の愛の深さを見る。
少女道子はとても聡明だ。時が戻らないという事を知り、悲しみを知り、孤独を知り、感傷を知る。そんな彼女の姿を見るのはそれだけでもとても楽しい。このような成長過程を遂げた彼女が今現在どんな女性になっているのか、他の著書も読んでみたくなる。そして、自分の娘のこれからの成長がとても楽しみで仕方が無くなった。幼い子とはこれほどまでに世界を新鮮に見るのかと。
最後の二章は当初の期待の通り、犬養毅が首相になってから五・一五発生までを孫の視点から描いている。少女道子の祖父の死とともに日本の政党政治も死んだ。その事は胸を締め付ける。
そして、諸説あるがやはり犬養毅は「話をしよう」と言ったのだ。彼は政治家としての自分の生き方を銃口を前にしても貫いた、そう信じられた。
少女を主人公にした小説としても、昭和秘史を紐解いた物としても非常に魅力的な一冊。