- Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122016156
感想・レビュー・書評
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映画監督・山田洋次氏(1931~) の温かい人柄にほだされながら読み耽った全78篇のエッセイ。満州での思春期時代と敗戦による引き揚げ後の記憶、松竹大船撮影所での修行時代に野村芳太郎監督や脚本家・橋本忍氏に師事し鍛えられたこと、「寅さん」と共に想うこと、夕張と「幸福の黄色いハンカチ」の想い出、山田組スタッフ一丸の映画づくりなど、映画ファンならずとも山田洋次監督の人間的魅力に引き寄せられます。
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『父は寅さんが好きだったと思い出した』
あらすじには爽やかなエッセイと書いてあったが自分はそうは思わなかった。たくさんの人との出会いの中で、戦時から現代にかけての社会の変化について書かれている。そして時には日本人に沁みついた差別的な考え方や人間のさもしさを厳しく指摘していて、まだバーコードもない時代の本だが、現代社会への風刺のようだと感じた。
作中では文章を書くのが苦手だと書いてあったが、美しい言葉遣い、まるで情景が目に浮かぶような表現力、無駄のない読みやすい文体。全てが完璧で理想的だった。こんな文章が書けるようになりたいと心から思う。
最後に山田洋二監督が今も映画を作り続けていることに驚いた。仕事とはいくつになってもできるのだと勇気をもらう。大人になった今だからこそ、男はつらいよを見たいとそう思った。 -
新聞など、いろいろな媒体に発表された山田洋次監督のエッセイ集です。単に、日々の出来事を綴ったというだけではなく、山田監督の物の見方や考え方が分かる内容になっています。ちょうど12月1日から「武士の一分」という話題の作品が公開されるようなので、その前に読んでおくのもいいかもしれません。
素敵な表現がたくさん散りばめられていますが、私が特に気に入ったのは「ズームレンズ」の章です。ここでは、映画に携わる様々なスタッフ、脇役たちにスポットを当て、山田監督ならではのあたたかい視点で鮮やかに描き出しています。こういう見方ができる人だから、素晴らしい映画が作れるのだなあと思わず納得です。 -
ご存じ山田洋次監督のエッセイ集です。自分の生い立ちや寅さんなどをふり返る文章は,読み応えがあります。
山田監督は実にいろいろなアルバイトをしてきたんだなあって思ったことと,映画というのは,本当にいろいろな人のおかげで成り立っているんだなあって感じました。
仕事ってものを捉え直すきっかけにもなる本でした。
本書には,「勇敢な少年」という文章も収録されています。この文章は,小学校の道徳の教材としてよく使われています。 -
「泥棒が逃げる、おい待てドロボー、と追いかける、
追いつ追われつふたりは走り続けるが、
とうとう泥棒が息が切れてとっ捕まり、組み伏せられてしまう。
通りすがりの人が駆けよって、おい大丈夫かと声をかける、組み伏せた方がハアハア言いながら、すまねえ水を一杯くれ、と答えると
その下で泥棒もフウフウ言いながら、すみません、私にも一杯ーこれが落語というもんです」
当事者にとっては深刻であったり悲壮であったりしても、第三者の目から見ると妙におかしい、
ということがよくある。笑っちゃ悪いと知りながらどうしても笑ってしまう、という場面である。」
(山田洋次「映画館(こや)がはねて」(中公文庫)
以上の文章は映画監督の山田洋次氏が人間国宝にもなった落語家の柳屋小さん師匠にうかがった話だそうそうです。
山田監督は若いころ小さん師匠の新作落語の台本を書いていたそうです。
おまけにもう一つ。
ノルウェーの王様の話です。
国王オラフ5世は家から王宮に出勤するのに
助手席の侍従を乗せマイカーで自分で運転してゆくそうです。
「ある時、オスロ市内の街を走る電車が、軌道上でエンコしている車を見つけて急停車した。
運転手から窓をあけて口汚くののしると、車の中から老紳士出てきて、
帽子を取って上品に頭を下げたのだが、
それを見ていた乗客たちが慌てて運転手に声をかけたそうでである。『おい、勘弁してやれよ、あれ王様だぜ』」
(山田洋次「映画館(こや)がはねて」(中公文庫)