本に読まれて (中公文庫 す 24-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122039261

作品紹介・あらすじ

言葉がほとんど絵画のような種類の慰めを持ってきてくれる、画家がくれるような休息を書物からもらうことがある-。本をこよなく愛した著者が、最後に遺した読書日記。バロウズ、タブッキ、ブローデル、ヴェイユ、池沢夏樹など、読む歓びを教えてくれる極上の本とめぐりあえる一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 解説にもあるようにさらりとしていながら論理性が埋め込まれている書評とエッセイ。考察と共にイタリアでの日々や女学生だった終戦前後の東京の思い出も散りばめられてる。タブッキやデュラスや荷風、『ベラミ』『東欧怪談集』読みたい。

  • 著者の本好き・読書好きが伝わる一冊。
    半ばエッセイのような書評は「この本のここがとてもいい!」「この本に出会えてよかった!」という感動・感嘆を隠すこと無く、本物の教養や知性に裏打ちされた文章で綴られている。その本の不満足な点も述べていることもよい。ネタバレにならず、読者の読書欲を煽り、文章自体が読み物としておもしろいーー書評のお手本と言えよう。

    • rontotoさん
      素晴らしいコメントでした。
      素晴らしいコメントでした。
      2023/05/13
  • 須賀さん2冊目。
    旅の途中で。言葉が文章が美しい。
    読んでみたい作品が増えた。普段読まないような本を読みたくなったらこれに頼る。

  • 須賀敦子のスクリーニングを経た書物であれば、ぜひとも読んでみたいという本があるわけで、さっそく2冊の本を注文した。著者が無類の本好きであったということがしみじみと伝わってくる。

  • カフェでおばさまたちが「あなたまだ須賀敦子読んだことないの? とても素敵なかたよ」という会話をしていて自分も混ざりたかった、という話を知り合いに聞きました。

    須賀敦子の「素敵さ」とはどこからくるんだろう。彼女の知性と教養のある文章は、読む側のレベルまで一段高いところに上げてくれるような気がしてしまいます。

    『本に読まれて』は須賀敦子が亡くなった1998年初版の書評集。
    ウィリアム・モリスの表紙は素敵だけど、生きていたら彼女が表紙に選んだかどうか。

    (最初のエッセイ『ミラノ 霧の風景』の出版が1990年だから、彼女が名エッセイストとして知られた期間はじつはすごく短い。没年の1998年には一気に4冊の本が出版されています。)

    掲載されているのは88年〜95年くらいまでの書評や解説、読書日記など。
    私が読んだことがあるのはデュラス『北の愛人』、川端康成『山の音』、タブッキぐらい。
    ポール・ボウルズ、E.M.フォースターなど、須賀敦子は「楽しく読んだ」くらいに書いてますがなかなかレベルの高い名前が並びます。

    没後にあわててまとめた感が多少ありますが、「湊千尋という写真家」とか山崎佳代子といった名前が新鮮さをもって書かれていたり、生前から親交があったのだと思うがのちに須賀敦子関連の本を出している大竹昭子、松山巖、池澤夏樹の名前があがっているのも興味深い。

    以下、引用。

    仕事のあと、電車を降りて、都心の墓地を通り抜けて帰ることがある。春は花の下をくぐって、初冬のいまはすっかり葉を落とした枝のむこうに、ときに冴えわたる月をのぞんで、死者たちになぐさめられながら歩く。日によって小さかったり大きかったりするよろこびやかなしみの正確な尺度を、いまは清冽な客観性のなかで会得している彼らに、おしえてもらいたい気持ちで墓地の道を歩く。

    ポスト・イットなどという、糊のついた便利なしおりがまだ市販されていなくて、じぶんで細く切った白い紙に、要点やら感想を書き入れたのが、降伏の旗のようにあちこちにはさんである。

    「多くのものが教会のそとにあります。わたしが愛していて捨てたくないと考えている多くのもの、また神の愛する多くのものがそのそとにあります。神が愛するのでなければ、それらのものは存在しないはずだからです。」

    こんなちっぽけな、こんな思想のない建物で暮らしていたら、きみたちはこれっぽっちの人間になるぞ。建物が人間を造るということを、よくおぼえておきなさい。

    「彼女(ハエは女性名詞だから)が死ぬのを見るために、私はそばまで行った」
    「私がそこにいることが、その死をよりむごたらしくしている。それをわかっていて、私はそこにいた。見とどけるために。死がどんなふうにハエをなめつくすかを、そして、どこから、たとえば外部からか、壁の厚みからか、地面からか、その死のやってくる場所を見とどけたかったから」
    そしてハエは死ぬ。作家は時計を見る。三時二十分。
    「彼女の死を正確に記すことによって、ハエはひそかな葬儀をしてもらったことになるのだ」

    若いときに読んだといっても、なにも理解していなければ、読んでないに等しいのではないか。いや、読んだと思っていばっている分だけ、マイナスということだ。

    絵本に夢中になって、ゴハーンと呼ばれても聞こえない子供みたいに私はこの小さな本に没頭し、読んだあとも、また開いては写真や挿画を眺めた。

    いつか時間をつくって、もういちどサン・ドニに行ってみよう。もういちど訪ねて、わけもわからずに、中世のキリスト教に捉われていた自分を、あの王たちの寝姿を見ながら、もういちど考えてみよう。やがては迎えなければならない、自分の死までの道がすこしは見えるかもしれない。

    「この戦争のひとつの特異な点は、文化財の徹底した破壊にあると思う。なぜ兵士が閉じ籠っているわけでもないカトリックの教会やイスラム寺院が、片端から爆撃されなければならないのだろう。……なぜ市立図書館みたいな戦略上、何の意味もない建物が焼き打ちにあっているのだろう。……つまりひとつの土地の集合的記憶の抹殺が、最初から〔この戦争の〕目的だったのではないだろうか」

  • 須賀敦子さん、ずっと気になっていた。何から読もうか、須賀敦子という名を目にするたびに考えていたんだけど、書店で目にしたこちらの装丁がすごくツボだったし、書評好きなので購入した。

    比喩に理念が絡まっていて(一読では美しいけれども見逃しがち)すごくかっこよくてあたたかい文章だった。

    還暦超えてもデュラスにときめけるのか、ちょっと長生きしたいななんて思った。

  • p.2020/9/25

  • やわらかさの中に強さと対象への愛情のある文体が須賀敦子の魅力。こういう文章を書ける人がもうこの世にいないということがとても残念でならない。世界の歴史や政治や文学にまったくと言っていいほど知識がなく、ほとんどの作家名を覚えられないわたしでも楽しく、時には感動で深いため息をつきながら読んだ。「バスラーの白い空から」の書評の冒頭は解説にも触れられているが、この冒頭を読むだけでも物凄い人だな、須賀敦子はと思うことができる。
    旅の途中で読んだとか、床の上で読んだとか、どういうときに読まれたものなのかが(エッセイ形式だからか)細かく記述されているためその状況に思いを馳せて、書評される本の雰囲気や質感などもじっくり思い描くことができる。

    書評なのにエッセイの形式をとっている謎は解説で明らかになる。

  • 文章がおしゃれ。読みたい本がたくさんある。

  • 須賀敦子は文章がむちゃくちゃうまい。書評であっても、紹介する本の引用を飲み込んで書評の文章そのものが1つの世界観を紡ぎ出すことあるんだなという驚き。幻想的で、すらりとした描写は読んでいて物思いを想起させる。

    「パウル・ツェラン全詩集」「手にとって、ぱらぱらとページをめくったとたんに、深く引き込まれてしまうような書物に出会うことは、めったにない。」という著者が珍しく引き込まれた本。

    海外の詩が訳される意味、特にツェランのような日常と硬く対立したところで造られた詩が、訳されたことの意味は非常に大きいという。

  • 随分前に読んだ本。棚を整理していたらでてきたので追加。

  • 書評集。文章に著者の知性と教養がにじみ出ている。そして、著者が本との出会いを大切にしていることがよく伝わってくる。

  • 大好きな須賀敦子さんの書評集なるものがあると聞いて借りてきた。思えば最初に教科書か何かで須賀敦子の文章に触れ、短い章の中に生半可なるものを感じ手に取ったのが「遠い朝の本たち」というこれも須賀さんの小さなころの読書体験を綴った本だったと思う。
    静謐な中にも人生への暖かで豊かな眼差しに溢れた須賀さんの文章は読んでいると自分の身体が浄化されていくような気すらする。本作は色々な雑誌に須賀さんが寄稿した書評を集めているのだが、これが「只の書評ではない」のだ。数行で人の心を掴む静かで正確な筆致。例えばこうだ。

    「仕事のあと、電車を途中で降りて、都心の墓地を通りぬけて帰ることがある。春は花の下をくぐって、初冬のいまはすっかり葉を落とした枝のむこうに、ときに冴えわたる月をのぞんで、死者たちになぐさめられながら歩く」

    佐野英二郎の「バスラーの白い空から」という本の書評の書き出しなのだが、およそ書評の書き出しとも思えないむしろエッセイのそれだ。しかし実際にこの後に続く文章を読んで、この本を入手してしまったということからも書評としての強度も備えているということなのだろう。軽々と時空を越えていくこのエッセイ的書評集を読んだ後では、なにより須賀敦子の本をまた読みたくなってしまった。

  • 人に本をすすめるという難業を
    かろやかに文章に乗せている
    いつかその本に出会えるような余韻たっぷりに

  •  残念ながら、出会うのとほぼ同時に、亡くなられたことを知ってしまったのだけれども……。(※1998年死去)

     一体どれだけ深い喜びと感謝を感じていることか分かりません。須賀敦子という人が綴った、正しく呼吸する文章を見つけたこと。選び抜かれた言葉のみ連ねられた、その静謐な文体を通して、真に読むべき文学を示唆されたこと……。

     もっとも、私はわりと長い間、須賀敦子さんのことを「読書の先生」とだけ認識していた人間★ のちに、イタリア生活を流麗な文体で綴ったエッセイの名手であることも知りました。しかしどうしたわけか、自分が接する機会はしばらく、書評、文学作品に関するエッセイばかりに限られていたのです☆

     書評における主役は、とりあげる著作品とその著者。だから須賀さんは常に主役に光を当てて、ご自身の立ち位置を若干ずらしている。けれどもその光の当て方に、まぎれもなく須賀敦子としか言いようのない「あの感じ」が滲んでいます。磨き抜かれた感性が醸す、あの感じ……。
     その感じは、私を緊張させます。書評を読むにも襟を正さなくちゃ★ となります。

     須賀書評は、一切押しつけがましさのない澄み切った美文で、その本の良さを伝えてきます。同時に、その書評自体が一級の名品です。殊に新聞掲載されていた書評は、抑制の効いたごく短い文章だけど一編一編が完成されていて、知的なするどさに触れた、ナイフの刃にさわったような感覚を残すのです。

     選書は、バロウズ、ヴェイユ、世阿弥、そして池澤夏樹へと続いていき、世界中を自在に駆けめぐります。期待に胸をふくらませて作品を手にとると、一冊たりとも外れがない☆ その高い信頼性。するどさ。ここで終わらず、評された本を自分も読む段階に進まなければ、という気持ちに移っていきます……。
     やっぱり何だか緊張してしまうな★ 楽しい読書ではなく、真剣な読書を知った気がします。

  • 須賀敦子さんの書評集です。ウィリアム・モリスのテキスタイルを使った装丁が美しく、そのまま持って歩きたい1冊です。書店の書棚を見上げたら目にとまりました。守備範囲はイタリア文学からフランス文学、ラテンアメリカ文学…といわゆるロマンス諸語の世界の文学が中心です。かといってそこに固執するわけではなく、現代アメリカ文学まで幅広く読まれているご様子です。ラインナップは古典から学術書、文芸まで幅広く紹介されています。日本の作家の作品では池澤夏樹さんのものが数篇取り上げられていることからみれば、骨太ながらも詩情豊かな作品がお好みのよう。私には池澤文学のルーツもわかるおまけとなりました。もちろん、ただお好きな本を並べてほめそやすわけではなく、ピリッとした批評眼も効かせておられ、しかもそれが嫌みではないんですよね。洗練、というのでしょうか。ヨーロッパ伝統の慇懃無礼さを感じないわけではないですけど(笑)。見返しのプロフィールを見て、あの年代に特有の、良質の教育(何をもって「良質」とするかはきちんと説明できないので、あくまでもマイ感覚的に:苦笑)を受けられた女性文学者が持つ、香気を含んだ筆致に納得することしきりです。この筆致は田辺聖子さんの書評に通じるかな…とも思います。もっとも、田辺さんのほうは国文学がホームで、もう少しロマンチック転びの作品がお好みのようですが。男性であれば、この気品は間違いなく『背教者ユリアヌス』の辻邦生さんのものでしょう。取り上げられている本にひるみながらも手を伸ばしたくなるのはもちろんのこと、須賀さんの書評をもっと読んでいたい気分にさせられるのか、ゆっくりページを繰りたくなる本ですので、この☆の数です。

  • やはり好きな作家について書かれているとうれしくなります。紹介されている本が読みたくなって本屋へ足を運んだりしました。思い入れのある一冊。

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著者プロフィール

1929年兵庫県生まれ。著書に『ミラノ 霧の風景』『コルシア書店の仲間たち』『ヴェネツィアの宿』『トリエステの坂道』『ユルスナールの靴』『須賀敦子全集(全8巻・別巻1)』など。1998年没。

「2010年 『須賀敦子全集【文庫版 全8巻】セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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