武州公秘話 (中公文庫)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 140
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122045187

作品紹介・あらすじ

敵の首級を洗い清める美女の様子にみせられた少年。それは、武勇と残虐な行状とで世にきこえた武州公の幼き日の姿であり、その心の奥底には「被虐性的変態性慾」の妄想と恐るべき奸計の萌芽が-。戦国時代に題材をとり、奔放な着想をもりこんで描かれた伝奇ロマン。雑誌『新青年』連載時に掲載された木村荘八の挿画を完全収載。

感想・レビュー・書評

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  • 谷崎小説でいちばん好きな話。
    よく「性癖を歪められる」という表現を目にするが、この小説によれば、性癖は歪められるものでなくて、自分の生まれ持った要素のひとつで、それを秘匿する井戸のようなものの蓋を開けるような刺激に出会うか出会わないか、ということで、たしかに自分の中にそれを快とする要素がなければ、普通であればヘンテコだったりグロテスクであったり、あるいは不快感すら覚えるわけであるから、それはそうだと思う。
    そしてこの小説によってわたしも身を乗り出して井戸の奥底に眠るものを正視せざるを得なかった。これを初めて読んだ日から、わたしもめでたくマゾヒストの仲間入りを果たした。きっかけが『薄闇の中で生首を弄る美女』だったので、安吾の『桜の森~』や『生首を抱くサロメ』など、意外とありふれたモチーフかなとも思っていたのだが、生首(鼻欠け)が出てくるのは、知り得る中ではこれだけで、定期的に読み返さないと気が済まないときがある。
    終盤、生死のかかった緊迫した場面なのに、唇が兎のようであるから間の抜けた声でしか話せない則重のセリフも面白ければ、それに対し「はっ、何? 何と仰います?」と思わず聞き返してしまう輝勝も面白い。この場面だけでもみんなに読んでほしい。そしてあわよくば全編を通読し、同じ趣向を持つ同志が目の前にいてほしい。

  • ・顔面破壊
    ・人に迷惑をかけるSM
    ・はたから見るとS、だけど本人はドM
    が好きな人に超オススメの小説。
    挿絵もついててお得だよ!
    わたしの中で「殺し屋1」と並ぶグッドSM作品です。

  • 首に取りつかれた一人の男の物語。
    青少年期に見たものというのは
    非常に印象深いものとなるけれども
    武州公の場合はそれが首であったということ。

    そしてその首の鼻をなくす、ということに
    魅入られてしまい、
    まだ戦いに赴くことのできる年齢を前に
    衝動により大将を討ち取るまで至ります。

    そして、あるものとの出会いが
    恋心とフェチ要素を爆発させるのです。

    なんというかなまめかしくもあり
    不思議でもあり…
    ヘンな感覚の残る作品でした。

  • 変態性癖の武将の秘話。女首、鼻もげなど、少年期に体験した、曲がった興奮を、密かに持ち続け、それが大人になっても。

  • チェック用に購入。

  • 何冊読んでも、谷崎潤一郎はいい!

    これは、戦国時代が舞台。最初は漢文の序章でスタート。戦死者の首の髪を、微笑みながら結う女。それを取り巻く静寂の空間、戦の興奮の残り香を伝える部屋に漂う匂い。そのすべてに飲み込まれた少年。それを再現するまでと、長い妄想を描く。

    たまたま、今、谷崎さんの「文章読本」を並行して読んでおり、谷崎さんが源氏物語を好きである理由を悟ったとこ。それを踏まえて読むと、なお味わい深い。
    源氏物語に因んだ、和歌などが出てくる。そして、文の長さが気にならない工夫をされて、長々と続く一文なども出てくる。

    最後の終わり方も、安逸にメロドラマの様な展開でないところもいい。続きが気になって気になって、夜寝るのが嫌だった。

  • 途中からの話の方で、面白いんだけど、本編からはだだずれで大谷崎にもこういうことがあるんだなあと面白く読んだ。でも面白いので、なんというか底知れぬすごみを感じだというほどもない軽快なずれっぷりのちょうしがいい。話の内容よりもそういうところが見ごたえ満点です。
    武州公はもうまるで何度も語り継がれた物語みたいにたんたんとした狂いっぷりなのに、においたつようなどろどろとした愛着、血のにおいはしないのにまみれた温度が伝わってくるような、やっぱり筆力の素晴らしさを感じて登場人物たちに対して思わず肩入れしてしまう。面白い。

  • 谷崎潤一郎の歴史ものは初めてだが、意外と読みやすかった。時は戦国時代、武州公こと武蔵守輝勝の倒錯した性癖と被虐趣味な妄想が描かれているせいか、迫力ある歴史絵巻ではなくコミカルな雰囲気が漂っている。その性癖発露の発端となった出来事――夜な夜な敵の首級を洗う女たちの姿も、本来なら気味の悪さが先にきそうだが、描写のうまさで奇妙なほど色気を感じた。主要人物も味があり、面白く読めた。

  • 読んだのは「聞書抄」も併録されている1984年版の方ですが、表紙イメージのあるのでこちらを登録。
    それに「聞書抄」は「武州公秘話」に比べて内容的に見劣りするように感じたので。
    最期まで飽きることなく貢を繰らせる筆力は流石です。
    貴人の厠云々の件は、「陰翳礼賛」を思い出しました。
    戦国物なのに所々当世風の台詞があったのが気になりましたが、些細な事です。
    真夜中の首装束の場面の描写がいい。
    武州公が空想する、あくまで冷酷な桔梗の方のイメージは中々魅力的でした。

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著者プロフィール

1886年7月24日~1965年7月30日。日本の小説家。代表作に『細雪』『痴人の愛』『蓼食う虫』『春琴抄』など。

「2020年 『魔術師  谷崎潤一郎妖美幻想傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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