≪内容≫
丸谷才一と作家・批評家たちの対談・鼎談集。
≪感想≫
まず、対談相手がかなり豪華である。吉田健一、河盛好蔵、石川淳、谷崎松子、里見とん、河上徹太郎、円地文子、大岡信、篠田一士、ドナルド・キーン、清水徹、高橋康也―明治生まれのオンパレード、若くて昭和一桁台といういずれも錚々たる文豪・批評家である。今となっては物故者ばかりではあるが、その分貴重な対談集であるように感じられる。そして、丸谷才一と対酌し文学談義に花を咲かせることができる人物がこんなにもいたのかと、改めて時の流れを感じる。
そして、語られるテーマが幅広い。源氏物語、谷崎、エズラパウンド、ジョイス、万葉集、ユーモア、文壇の生活などなど。いずれも豊富な知識と論展開で話を深めていく丸谷氏の見識の深さに改めて敬服させられる。
掲載されている対談はどれもかなり昔のものであり、一番新しいものでも28年前だという。巻末の解説にあるように、内容が褪せてはいないのはもちろん、その文体や息遣いまでが今現在なんら古臭くは感じないというのは確かにこの対談集の凄さだと思う。ただ、初版から四半世紀を経た今になって文庫として改めて刊行された意味とは一体なんなのだろうか。単純に昨年の読売文学賞の影響か、はたまた文学談義の面白さを伝えるための良書と判断されたのか(たしかに面白い)。そのへんは読み終わった今でも掴めずにいる。
事前知識が足りず、語られる内容にはついていけない部分も多くあったが、文学を楽しそうに語る雰囲気や文体によって啓発される楽しみというのもあると気付く。特に大岡信との和歌についての語らいや、篠田一士やドナルドキーンとのエズラパウンド論は非常に面白く、多様なテーマを通して文学の味わい深さを気軽に(内容は軽くはないが)楽しめるという、文学徒垂涎の一冊ではないかと思う。