セレンディピティと近代医学 - 独創、偶然、発見の100年 (中公文庫 マ 14-1)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122061064

作品紹介・あらすじ

"常識はずれ"が命を救う-ペニシリン、心臓カテーテル、ピロリ菌、抗うつ剤、子宮がん検診法、幹細胞、バイアグラ…画期的なブレークスルーは、みんな予期せぬ発見だった!探していなかったものに出くわしたとき、科学者たちが発揮したのは、並はずれた直感力と創造性。失敗を飛躍に、偶然を進歩に結びつけたドラマチックなエピソードを多数紹介し、真に独創的な研究開発のあり方を問う医学の発見史。

感想・レビュー・書評

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  • 管理型研究ではセレンディピティを狙う必要がある。

  • 本屋で見かけて。ペニシリン、抗がん剤、ピロリ菌など19~20世紀に発見された画期的な治療法がセレンディピティ(予想外で偶然の発見)であったこと書いた本。最終章が著者の主張で、最近の基礎研究の実施方法、特に国家的科学研究、論文のピアレビュー、製薬会社のマーケティング志向がセレンディピティを阻害しており、画期的な医学的成果が得られにくくなっているので改善が必要と訴えている。
     
    個人的にはセレンディピティが重要なのは当たり前という感覚なのだが、今の研究方法にも合理性があるのかもと逆に考えさせられた。例えば製薬会社のマーケティング志向については、人工知能や再生医療などの新分野に比べて古典的な製薬分野は成熟産業になっておりもう昔のような画期的な発見は期待できないと分析してる、とか。
     
    事例の中では「39 幻覚剤LSDの物語」が劇的でおもしろかった。スイスの民間企業の一化学者アルベルト・ホフマンがよくぞ拾い上げた。
    「その後1943年4月、彼は5年前に何かを見逃したかもしれないという「虫の知らせ」を感じ、ある朝LSD-25を新しく合成しなおした。午後には結晶を得る」(p373)

  • 偶然だけど、運だけでない。準備して、コツコツ積み重ねてきて、誰もが気づけないところ。先入観を捨て、これ、むつかしい。

  • 近代科学の大発見集。
    仮説検証とは限らないアプローチが様々なエウレカを進化を産んだ。
    ペニシリン、ピロリ菌にはじまり様々な現代の治療に役立つガンや鬱への対策に繋がる発見を読み解ける。

  • ◆画期的なイノベーションとは、数多の失敗と、偶然というものが去来させるるもの。意外に見えるこの事実を、医学・薬学の発展過程を素描することで具体的に開陳する本書。是非、財政に携わる方々に熟読・味読してもらいたい◆

    2015年(底本2010年)刊行。
    著者はニューヨーク州立大学ストーニーブルック校医学部名誉教授(放射線科・内科)。

     医学(というよりも、ここでは薬学かな。そういう意味では内科医らしい纏めではある)上の重大な発見は、計画化された研究、大規模プロジェクトと化した研究活動によるのではなく、偶然に得られた結論・観察結果と、その結論を何か異種の項目、目的外の要素とを結びつけることで創発されてきた。
     その具体的実例を、細菌病理学、癌、循環器疾患、精神病理に区分けして叙述する書である。


     重厚、そして豊富な具体例に圧倒される。
     元よりここでは、単にこれらの発見をなした先人らの業績を称えることだけを目的とした書ではない。
     結論の項にあるように、大規模プロジェクト、目的追求型プロジェクトでは、創発・イノベーティブ・革新的な知見は得られず、この事実を特に、金を配分する立場にある人間が理解しなければならないことを強く訴えかける書なのだ。
     そしてこれは、研究開発というだけでなく、人材教育という側面においても同様に思いを致さねばならない事象であろう。

     個人的には、大規模プロジェクトの持つ漸進的発見(未発見も含む)の長所も存在するとは思う。しかし、それで事足れりではない。
     本書では、米国の政府他を批判しているが、同様の批判は日本(特に最近の、独立行政法人化の著しい時代相)にも妥当する。

     そもそも失敗とは、成功にならない道筋を明らかにするために必要な上。失敗が文字通りの失敗とは限らないことは、本書列挙の実例が教えるところである。
     一方、科学振興に金銭投資が不可欠な中、それが無意味か否かは、着手してある程度遂行しないと判明しない。つまり社会におけるイノベーティブにはムダ金が不可避な上、さらに無駄な失敗を繰り返させないため、失敗というものは、確実に社会に報告され、社会還元されるべきなのだ。

     本書が、一部の分野に限ってではあるが、イノベーションの数多の例と、その偶発性(当然、成功より遥かに多くの失敗、イノベーションの結果を招来しない実例が存することが含意されている)を開陳して見せるのは、失敗を社会が許容しなければ、イノベーションはないのだという当たり前の事実を突きつけていると言っても過言ではないはず。

  • 総当たり的な開発物語「サルファ剤、忘れられた奇跡」の次には、幸運なる偶然を。
    目次を見ると小噺をまとめたもののように思えたが、実際にはいくつかの大テーマ(VS感染症、がん、心臓疾患、精神疾患)に沿っており、「ネタ総まくり」的な本ではない。

    本書において著者がくり返し説き、またつくづく感じさせるのは「多様性の大切さ」である。元来、私はそういったもの言いに胡散くさいリベラル臭を嗅ぎ取って嫌うくちなのだが、「そこにいる者」とは異なる視点を持った「誰か」の存在が、思わぬ新発見には絶対的に必要なのだ。つくづく、生物学的()に「まったく異なる」人口の半分を締め出し続けてきた既存社会は、この上なく愚かしいことをし続けてきたものだと痛感する。何より大切な創造と発見の可能性を、なんとみずから1/2にしてきたのだから。

    世界のあらゆる場所で停滞が叫ばれている昨今、それでもなお(白人)男性のみによる支配に固執するならば、残念ながら人類に未来はないだろう。
    むやみやたらと闘争的で感情的な男性たちが、破滅のボタンをきっと押すからだけではない。そんな男どもに愛想を尽かした女性たちが、妊娠・出産を拒否するようになるからだ。

    2017/10/29~10/26読了

  • ピロリ菌、心臓カテーテル、抗うつ剤、バイアグラ…みんな予期せぬ発見だった! 飛躍を招き寄せたのは〈失敗〉そして〈偶然〉。ドラマチックな医学の発見史。

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