富士日記(下)-新版 (中公文庫 た 15-12)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (438ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122067547

作品紹介・あらすじ

「忙しくてくたびれて」日記を付けられなかった二年間を経て、ふたたび丹念に綴られる最後の一年間。昭和四十四年七月から五十一年九月までの日記を収録。田村俊子賞受賞作〔全三巻〕

〈巻末エッセイ〉武田花

感想・レビュー・書評

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  • 夫武田泰淳と過ごした富士山麓での十三年間の一瞬一瞬の生を、澄明な眼と無垢の心で克明にとらえ天衣無縫の文体でうつし出す、思索的文学者と天性の芸術社とのめずらしい組み合わせのユニークな日記。昭和52年度田村俊子賞受賞作(第1巻紹介文)

    昭和39年7月から始まり、昭和51年9月までの日記が上中下3巻に収められている。作家武田泰淳氏の妻百合子氏の日記だが、時々泰淳氏の文章や、娘花さんの文章も挟み込まれている。

    百合子氏の文章は、その生き方そのものと同じように天衣無縫。泰淳氏の文章は、さすが小説家という表現があったりするが日記の中で読むには違和感を感じる。娘の花さんは当時13歳ころと思われるが、両親のセンスを共に受け継ぎながらも自分としての表現をされていてすごいなと感じた(カメラマンになられたらしい)。

    他人の「日記」というものに関心がわき、読みだした。富士山麓での生活とはどういうものか。
    作家の生活とはどういうものか。
    作家夫人というのはどういうものか。
    そんな興味で読み始めたが、それらのことを、普段の生活日記の中から肌で感じ取ることができる。

    作家夫人の日記といえど、今日あったこと、ご近所さんとのコミュニケーション、買い出しの様子、富士五湖で水泳を楽しむ様子、ペットを含めた家族団らんの様子、朝昼夕のメニュー紹介、時々時事という普通の日記の感じ。であるけれども、やぱり百合子氏独特の個性が表現されている。意外とうんこ話がお好き。

    毎日欠かすことなく、朝昼夕の食事の内容が紹介されているが、お金持ちのご様子でたぶん「節約」という感覚は不要で、感性のままに買い出しをされて、感性でその日のメニュー考えて作られているように思う。

    しかしこれが、意外と時代を経てもセンスが感じられ、たぶん当時としてはハイカラな食事だったんではないかと思われる。出版当時はレシピ参考本としても読まれたのではないか。

    文庫本(古本)で読んだが、各巻400ページ超の量で、上巻だけでだいたいの興味に応えてくれる内容が出てきて、中巻も下巻もその書きくちは変わらない(日記なので)ので、上巻読んでほぼお腹いっぱいになってくる。従って、中巻、下巻はキーワードを見つけてからその周辺を読むという走り読みに変更。

    やはり時代が感じられる。中巻では1968年(昭和43年)の日記で「チェコ事件(ソ連がチェコに突入)」の報道について書かれていたり、「メキシコオリンピック」の開幕式のことが書かれていたり。

    下巻にはいって、昭和44年のアポロ11号月面着陸や、昭和45年大阪万博(アポロ11号が持ち帰った月の石が展示されてた~)のこと、雫石での自衛隊機と全日空の衝突事件、三島由紀夫の割腹自殺のことなど、登場する。

    なんかこの頃の出来事はすさまじいなと感じながら、自分はその頃何歳だったのかとかを照合しながら読む自分がいる。

    ともかく日記の中にも交通事故の話がたくさん出てくる。交通事故で亡くなる人も多い。一人の日記にこれだけの事故の記述があるということは、全国でものすごい数であったことが想像される。光化学スモッグや公害という言葉、エコノミックアニマルという言葉も登場する。「私の城下町」や「フォーリーブス」も登場する。読みながら一昔前へのタイムスリップができる。

    下巻最後、夫泰淳氏が病気と闘いながら生を全うするまで、妻としてつきそう日々の様子が描かれて、日記は終わっている。

    「日記」文学の面白さ、もう少し広げていってみてもいいかなと思う。

  • 下巻は昭和44年7月から51年9月まで。

    またまたすてきな表現に出会いました。
    「ふなふなふなふな」と歩く小犬…その丸くて柔らかくて頼りない感じが詰め込まれた擬態語にときめきます。

    最後の方の日記は、夫・泰淳が病を患い、食事の内容や生活習慣に配慮しながらの暮らしがうかがえます。
    途中に挿入され附記には、2年間の日記の空白期間の概要とともに、次のように記されていました。
    「年々体のよわってゆく人のそばで、沢山食べ、沢山しゃべり、大きな声で笑い、庭を駆け上り駆け下り、気分の照り降りをそのままに暮していた丈夫な私は、なんて粗野で鈍感な女だったろう」
    ここまで武田家の日記を読んできた一読者として、百合子さんに声をかけたくなりました。
    そんなそのまんまの百合子さんを、旦那さんは愛していたと思います、と。

    読み終えたとき、私のノートにはたくさんの日記の断片が抜き書きされていました。
    人に読ませるために書かれたわけではない、よその家族の記録が、こんなにもこんなにも愛おしい。
    次は10年後、その次は20年後…それぐらいの間隔で読み返したい滋味深さがあります。

  • 胸がいっぱい。
    私もあの山荘で生きて、今はその記憶が私の中にあって、読む前と今の私とでは確実に違うだろうと思う。
    時折のひやっとするところ(夫婦間のことであったり、他者や命に関してだったり)も含めて、よくこの日記を出版してくれた、と思う。
    折に触れ、私は読み返すことだろう。

  •  読み終わってしまった。読み終わりたくなかった。私も一緒に山小屋で日々を送っているみたいだった。描写が生き生きとしているわけでもないのに、本当に不思議。読むこと自体が人生みたいだ。いつか終わりが来ることを知りながら、そんなこと知らないかのように日々を一頁ずつめくり、やっぱり終わりは来てしまって、私はずっとここに、この中にいたかったと思う。ずっと著者たちに山に通ってきていてほしかったと思う。でも読み終わってみると逆に、終わっていないことがわかる。日記の中で、日記を読んだ人たちの中で、著者たちがいつまでもこうやって生きているとわかる。
     この本のよさはうまく言葉にできない、本当に。

  • 『富士日記』三巻を再読して思ったこと。
    百合子さんがお世話になった人に必ずといっていいほどお礼を渡している、その姿勢がさすが大正生まれだな、と。
    奔放な人と思われがちだけど、実は律儀。
    あと、聡明だから色々なことが見えてしまって、辛いだろうけど、書くことで発散していたんだろうな。
    飾らない、ありのままの自分をさらけ出している所が本当に魅力的。
    辛い時にも百合子さんがいるからと思い、この三巻を蔵書としている。

  • 読み終わっちゃった
    山荘の日々が優しくて温かくて寂しかった
    毎日の食事が美味しそうで読んでて幸せだった

  • ご夫婦の仲の良さがうかがわれる。自分が生まれた時分の様子が垣間見れるのも興味ふかい。

  • 完結したので全3巻纏め読み。
    日々の出来事であったり、家計簿代わりのメモであったり、日記文学としても、また、昭和40年代の日常生活の資料としても第一級のものだと思う。現代から考えると色々なことが大らかで、事故っても警察を呼ばずに済ませたり、飲酒運転がバレなかったり、今、こんなことを公に発信したら大炎上するような内容がサラッと書いてあるw
    また、本書は昭和39年から記されているが、昭和42年の中央道開通、翌昭和43年の東名高速開通に伴い、富士の山荘へのアクセスが飛躍的に改善した様子も見てとれる。何気ない内容ではあるが、本邦のモータリゼーション黎明期の貴重な資料でもあるのでは。

  • 途中で主人(武田泰淳)の病気及び死後の話が出てきたり、日記の中断が出てきたりしていた。
     ネコの話が出てきてさらに主人の病気の悪化で山荘の日記ではなく、東京でのことが書かれるようになってきた。主人の死の記載で終わるかと思っていたら、入院前の記載で終わってしまった。しかし、あくまで陽気な話として持っていきたかったのであろう。

  • 上、中、より日記の間隔が空くようになり生活がだんだん小さく、消えて行ってしまうのではないかと思わせるところもあり寂しい気持ちになった。
    ただ作者の感情はさらに濃く表わされている。

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著者プロフィール

武田百合子
一九二五(大正一四)年、神奈川県横浜市生まれ。旧制高女卒業。五一年、作家の武田泰淳と結婚。取材旅行の運転や口述筆記など、夫の仕事を助けた。七七年、夫の没後に発表した『富士日記』により、田村俊子賞を、七九年、『犬が星見た――ロシア旅行』で、読売文学賞を受賞。他の作品に、『ことばの食卓』『遊覧日記』『日日雑記』『あの頃――単行本未収録エッセイ集』がある。九三(平成五)年死去。

「2023年 『日日雑記 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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