- Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122070325
作品紹介・あらすじ
昭和十四年、日本統治下の台湾、名家の美女を取り巻く男たちの死。内地の警察書記が台南の町々をめぐり事件の謎を追う妖しい推理長篇。〈解説〉松浦寿輝
感想・レビュー・書評
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かつての軍部の仲間の集まりに参加した久我は、元上司の安土と再会する。安土に連れられていったバーで台湾の古い歌を歌う若く美しい歌手・呉馨芳の歌に聞き惚れるが、トイレにいったきり戻ってこない安土を探しに行くと、思いがけずその呉馨芳の楽屋から安土は死体で発見され、呉馨芳は久我に自分を連れて逃げるよう頼む。事情もよくわからないまま彼女に言われるままにした久我の脳裏に、20年前、安土に命じられた台湾での仕事の思い出が蘇る…。
この序章でいきなり元上官が死体になってしまい、過去の回想から現在の事件に繋がる何かがわかってそこから解決…かと思いきや、ちょっとネタバレだけど、この安土殺人事件は解決しません(苦笑)ただの回想への導入にすぎず、メインはその回想の中の事件のほう。そういう仕掛けも相まって、正統派の推理小説というよりは、台湾の異国情緒ノスタルジー小説として読むのが正解だったのかも。とはいえ、事件そのものはどんどん意外な展開をしていくので、ぐいぐい読めてしまう。
昭和14年、若き久我は当時日本の植民地であった台湾駐屯軍に所属し、諜報員のような仕事を任されていた。上司の安土からそのとき命じられたのは、ある殺人事件のその後の追跡。久我は現地にむかい、担当の警察官・馮(ひょう)に事件の詳細を確認する。被害者の鄭(てい)は、仲の良い友人である黄(こう)と、氷屋でラムネを飲んでいたが突然死、検死の結果、毒物で殺されたことがわかり、黄が逮捕される。事件の際、店に居合わせた坂西夫人。原因は彼女をめぐる三角関係らしい。逮捕された黄はしかし脱獄、それきり行方をくらませていた。
久我は調べていくうちにこの美貌の坂西夫人の過去に興味を持つ。彼女の本名は応氏珊希(おうしさんき)、由緒正しい応家の出身で、最初の夫は日本人の学者・仲村鰈満(なかむらかれまん)だったが、調査に出掛けた海で彼は難破し亡くなる。その後、日本人警察官の坂西と再婚、しかしこの坂西は、つい半年ほど前に何者かに殺害され犯人は不明のままだった。そして今回の事件、彼女をめぐって三角関係だった男二人のうち一方がもう一人を殺す事件。彼女自身には常にアリバイがあるが、彼女の周囲は死に満ちている。
もう一人、殺害現場の氷屋の客だった品木渡という日本人教師を調べるうち、久我は意外な事実を知る。品木は生前の坂西と知り合っており、坂西夫人の前夫の死についての奇妙なエピソードを聞かされ、それを小説にして文芸誌に投稿していた。その原稿を読んだ久我は、最初の夫の死について夫人の関与を疑う。やがて、脱獄した黄の毒殺遺体が田舎の村の廟で発見され、彼の遺体を発見したという旅の一座を久我は怪しむが…。
調べれば調べるほど新しい事件が起こり、過去の事件が解決するヒマもなく新しい死体がどんどん出てくる。犯人は一体!?となる反面、ふと見れば本書のタイトルは「応家の人々」…これで正直犯人がわかってしまった(笑)だって登場する応家の人間はとても限られているのですもの。まあ終盤の急展開、急に秘密結社とか言われてもなんの結社だかよくわからなかったりして、そこはイマイチなのだけど、先にも書いたように本書の楽しみ方は推理小説としてよりも台湾の異国情緒を味わうことにあるので、たとえば応家の纏足の母の描写など、無駄に不穏でぞわぞわします。
最後に一応序章の続きになる終章があるけれど、謎の歌手・呉馨芳がどうやら、幼い頃に久我が応家で会った、応氏珊希の兄の娘らしいとにおわせるのみで終わっている。解説は松浦久輝。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
解説の松浦さんの言に従えばどうやらこの小説に「選ばれ」たようです。
過去は幻のように消えてしまうものなのですね。 -
昭和十四年、日本統治下の台湾、名家の美女の周辺で不審死が相次ぐ。内地の中尉が台南の町々をめぐり事件の謎を追う妖しい長篇ミステリ。〈解説〉松浦寿輝