川端康成異相短篇集 (中公文庫 か 30-7)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122072169

感想・レビュー・書評

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  • 常識的な認識からはずれた「異相」をテーマに、小説16編、随筆3編を集めたアンソロジー。幻想的な作品、不気味な作品、心霊的な作品が多い。川端康成は、既読作品では「死体紹介人」以外ではあまり好きなものはなかったが、短編では面白い作品が見つかりそうだと思いなおした。


    以下は印象的だった作品。

    「地獄」
    死んだ友人と、その自殺した妹について会話をする。

    「離合」
    結婚の許可をもらいにやってきた娘の恋人に連れられて上京した田舎教師は、娘との再会を喜ぶが…

    「死体紹介人」
    時間帯を分けて同じ部屋を借りていた相手の女が死に、葬式を挙げる金がないので解剖用に遺体を大学に提供してしまうが、遺骨を受け取ろうとその妹が現れて…

    「犬」
    犬が「死の使い」と恐れられ、死人が出た家の犬を殉死させる風習のある村での話。

    「弓浦市」
    三十年前に会ったことがあると女性が訪ねてきたが、どうもそんな覚えはない。

    「めずらしい人」
    「今日はめずらしい人に会った」と頻繁に話す父を怪しみ、陰から様子をうかがってみると…

    「無言」
    幽霊が出ると噂のトンネルを通って、身体が不随になった老作家の家を訪問する。いくら話しかけても言葉は返ってこない。

    「眠り薬」
    眠り薬を常用している作者の失敗談を描いた、滑稽味のある随筆。

  • 川端康成の異相短編もまた、泉鏡花や内田百閒と同じく傑作揃い。不気味な物事や現象に恐怖するのと違い、囚われて惹かれているように感じるのは、私の違った認識だろうか。嫌な夢も幻聴も怪奇現象も死も、恐れつつも、どこか憧れているようにみえる。川端康成の美しい文章や最期を知る勝手な結びつきかもしれない。

  • 川端康成先生の幻想寄りの短編を集めた作品集。捉えどころのなさ、けれど確かな質感があるなにかたちが強烈な作品集です。
    冒頭からかましてくる「心中」。読者を置いていきながらも惹きつけてやまない1冊です。私の個人的なイチオシは「白い満月」

  • 結構読んだことのあるもの多いですが、アンソロジーは何をどう並べるかがポイントだなあと思わせる一冊です。その点でなかなか良かったです。
    まず、冒頭の『心中』で「来たーー!!」となります。高校以来のオールタイムベストオブ川端。詩とも小説ともつかない極めて短い短篇ですが、何から何まで超越しすぎていて凄まじく、川端の冷血さが滲み出ていて、寄る辺なく美しい。最初読んだ時、ビョンドザ日本文学すぎて、宇宙人が書いたのかと思った。ほんと、『心中』はもっと読まれて欲しい。
    で、その他では、ぬめぬめした幽霊譚の『地獄』、春の夕暮れのそこはかとない不安さ漂う『故郷』、ええ話系かと思いきやの『離合』、百合モノともとれる『朝雲』、初期の変態作品代表『死体紹介人』、お赤飯の話やないんかぁの『赤い喪服』、結構ドジっ子な面が知れる『眠り薬』と、ほぼ全て好みなので、川端の変態系短篇が好きな人にはお勧めできる一冊です。

  • 川端康成の作品は闇の淵を覗くような不気味さと不可解さがある。ここに集められた短編小説の殆どが死の匂いを漂わせ、死の幻影を纏っている。川端康成の作品もあれこれ読んできたけれど代表作の『伊豆の踊子』よりも『眠れる美女』や『片腕』『みずうみ』などがよりこの作家の本質を表しているように思う。本書の中でも特に異彩を放っているのは『死体紹介人』だろう。『朝雲』は別の本でも読んだ作品だが、本書の中では清涼剤のように爽やかで可憐な花のようだが、主人公の女教師への執着(恋心とも言えるが)を思うと『毛眼鏡の歌』の主人公と大差ない。『伊豆の踊子』や『雪国』しか読んだことのない人にこそぜひお勧めしたい1冊。

  • 川端康成の異相短篇にしぼって編まれた作品集。当然ながら、『伊豆の踊子』にイメージされるような作品ではない。『掌の小説』所収のものもあり、『掌の…』を楽しめる人ならいずれ劣らぬ名作揃いと感じるだろう。

    何と言っても、冒頭の『心中』が強烈だ。執着というのとはまた違うのかもしれないが、人の情念とでも言うべきか、底知れぬ思いの強さを、たった2ページの中にこれほどの強烈さで描くとはただただ恐れ入る。

    他には、『弓浦市』が圧巻。香住を訪れた婦人が誰であったのか明かされることはないが、別の人生もあった、というようなロマンティックなものとは無論違う。読んでいるうちに、現在も過去も、分からなくなってくる。これは読後の余韻が凄まじい。

    比較的分かりやすいものもあれば、結局どういう話だったのか掴めないものもあったが、編者である高原英理の解説が、良きガイドになる。説明しすぎることなく、押しつけることもなく、何とも程良い解説だ。その姿勢は「当短篇集の試みによって川端康成という謎が一層深まることを望みたい。」(p.356)という解説を締め括る一文に象徴されているように思う。

    何度か読み返すうちに理解できるようになる作品もあるのかもしれないが、よく理解できないままに作品の異相な世界にただ浸るというのも、こうした作品の味わい方であるような気がした。

  • 現世界への通常の認識からはいくらかずれた「異相」。初期の掌篇『心中』をはじめ、小説十六篇、随筆三篇により、川端文学の特異な魅力を一望できる作品選。

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著者プロフィール

一八九九(明治三十二)年、大阪生まれ。幼くして父母を失い、十五歳で祖父も失って孤児となり、叔父に引き取られる。東京帝国大学国文学科卒業。東大在学中に同人誌「新思潮」の第六次を発刊し、菊池寛らの好評を得て文壇に登場する。一九二六(大正十五・昭和元)年に発表した『伊豆の踊子』以来、昭和文壇の第一人者として『雪国』『千羽鶴』『山の音』『眠れる美女』などを発表。六八(昭和四十三)年、日本人初のノーベル文学賞を受賞。七二(昭和四十七)年四月、自殺。

「2022年 『川端康成異相短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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